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62話「ビヨンドvs巨大ゴーレム」

 まずはゴーレムの動きを抑えなければならない。ちょこまかと動き回られたのでは、転ばせることなど到底できないからだ。


 そこで俺は、ゴーレムの動作原理について考えることにした。


 もし男がこのゴーレムを操作しているなら、俺たちが体勢を崩すのに合わせて、的確に攻撃を入れてくるはずだ。


 しかし、相手は全くそれをしてこない。

 それどころか、男のほうがゴーレムの一挙一動をうかがっている節さえある。


 そのことから推測できる事実は一つ。


 おそらく、このゴーレムは自律型ユニットだ。

 予めインプットされた簡単な指示に従って、自動で状況を判断し、動くように出来ている。

 例えば「一番近くにいるやつを攻撃しろ」とかな。


 それなら、話は簡単だ。


 俺は囮になるため、あえて前に出た。〈硬化〉を全身に使い、足裏には〈粘着〉を発動して踏み留まる。

 すると予想通り、ゴーレムは俺に目標を定め、ガードの上からガンガンと殴り始めた。


 よし、いいぞ。この状態をキープだ。

 その間に、仲間たちに攻撃してもらおう。


「頼む!」


「オッケー! やるよ、ニア!」


「うん!」


 ユウキは刀に炎をまとわせると、雷魔法をまとって自身の体を加速させた。刃が一閃し、ゴーレムの左足首を深々と斬りつける。


「emalf erakaseom!」


 開いた傷口に、ニアが放った特大の火球が打ち込まれた。修復が行われる前に左足首がちぎれ、ゴーレムはがくんと膝をついた。


「こっちもいくぞ!」


「しっかり合わせろよ!」


「おめぇがな!」


 その隙に、タオファとシエラが駆け出した。うねる地面を飛び越え、着地と同時に拳を打ち込む。その強烈な威力に、ゴーレムの左足首はひしゃげた。


 両足を失い、体重を支えられなくなったゴーレムは、地面にうつ伏せに突っ伏した。

 その下敷きになるのをバックステップで避けた俺は、ゴーレムの背中に飛び乗り、そっと右手を当てた。


 ゴーレムは両足を修復して起き上がろうとするが、どんなにもがいても体を上手く起こすことができない。


「お、お前、一体何をした!?」


 困惑する男に、俺はにやりと笑いかけた。


「〈質量操作〉でたっぷり重くしてやったのさ。自重(じじゅう)がでかすぎて、いまの(コア)の出力じゃまともに動けないだろうな」


「くっ、そんなバカな話があるか!」


 走って逃げ出そうとする男の周囲に、四人の女たちが立ちはだかる。


「どこに逃げようっていうのかな?」


「おめぇ、散々おらたちをコケにしてくれたな」


「どうする、みんな?」


「そりゃもちろん、決まっとるじゃろ」


「ひ、ひいぃ!?」


 満面の笑みに囲まれた男は、震え上がりながら俺の方を見た。許しを乞うようなその目にはうっすらと涙を浮かべている。

 俺は黙って首を横に振った。


「うちの女たちは怖いんだ。諦めろ」


「うぎゃあああああああっ!!」


 断末魔がこだますると、男は瞬く間に見るも無惨な姿となり、白目を剥いて気絶した。安らかに眠れ。


 ただの土塊と化したゴーレムの中から(コア)の魔晶石を拾い上げると、俺は四人の下に駆け寄った。それから少し遅れて、アーシャとノエルさんも近づいてくる。


「みんな、ありがとう。助かったよ」


「お礼なんていらないよ」


「食えんからな。その代わり、今夜は美味い飯と酒を奢ってくれ」


「ははっ、(ちげ)えねぇ」


 俺たちは一息ついた心地で、互いの健闘を讃えあった。敵の脅威もなくなったし、これで安心して先へ進める。

 いや、待てよ。何か肝心なことを忘れている気が――


「一段落したところ申し訳ありませんが、まだ山越えが残っています。気を引き締めていきましょう」


「そ、そうだった……!」


 ノエルさんの言に、俺は大口を開けて愕然とした。てっきりこれで終わりだと思っていたのに、ノルマを増やされた気分だった。


「まだ登りの半分くらいだからね。降りもあると考えると、あまり時間はないよ」


「そうだな……行こう、みんな」


 だだ下がりの士気の中、俺たちは山登りを再開した。

 幸い、俺たちの行く手を邪魔する者はもういない。道のりを進むのに専念できるという点では気が楽だった。


 そして、山登りを始めてからおよそ六時間後。

 俺たちはようやく山の頂へとたどり着いた。


「すごく良い見晴らしだな」


「霧が出ていなくて良かった」


 いま、俺たちの眼前には広大な景色が広がっている。一番近くに見えるのは、ふもとの町ダーニッケだ。その向こう側には荒野が続いている。


「南っていうと、こっちか」


「うん?」


「いや、俺の故郷はどっちかなと思ってさ」


「アケビの故郷と、わたしの故郷」


「そうだな。ヤンテもこっちの方だ」


 キセニアの実家を出てくるときは「こんな場所、二度と戻ってくるか」と思ったものだが、こうして遠くまで旅を続けていると、自然と郷愁の念が湧いてくるものらしい。


 嫌だったはずの思い出も、いまとなっては酒の席で笑い話にしているからな。人間の記憶というのはまこと不思議なものだ。


「アケビ、いま幸せ?」


 ふとニアに尋ねられて、俺は我に返った。


「なんだよ、急に」


「わたしはいま幸せ。アケビと会えてよかった」


 ニアは故郷のある方角を遠い目で見つめながら、ぽつりとつぶやいた。


「俺もだよ。ニアと出会えてよかった」


 その肩に手を置きながら見下ろすと、ニアはにっこりと笑った。

 辛く苦しい過去も、仲間といれば必ず乗り越えていける。そう思い、俺は心の中で改めてみんなに感謝した。

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