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6話「ニアの謎」

 俺とニアはキセニアの隣町グラフィスにやってきた。ジェニーさんの紹介を受けて、古代の遺物を研究している鑑定士ヨーゼフのところを訪ねるためだ。


 ニアの格好はそのままだと目立つので、普通のドレスに着替えてもらい、元々身につけていた衣服や装身具などは袋にまとめて持ってきた。


「アケビ、ahokahona akusednan! oyusametiogu!」


「はは、はしゃいでるなニア」


 見るもの全てが真新しいようで、ニアは目をキラキラと輝かせながら周囲を見回している。

 昔は魔導車なんてなかったからな。カルチャーショックを受けるのも無理はない。


 俺はそんなニアを連れて、大通りから路地へ入り、しばらく進んでいった。


 やがて俺たちがたどり着いたのは、二階建ての古びた建物だった。入口脇に立ててある看板には、かすれた文字で「鑑定屋ヨーゼフ 鑑定なんでも承ります!」と書いてある。


「おいおい、本当にこの店大丈夫なのか……?」


「ahesimiorob onok akusednan…」


「ええい、ままよ!」


「アケビ!?」


 俺は思い切って入口の戸を開けた。ニアは俺の背にしがみつきながら、肩越しに様子をうかがっている。


 店内には古びた品々が陳列されており、埃っぽい乾いた空気が漂ってくる。

 部屋の角にある椅子には、ふくよかな体型をして黒いあごひげを蓄えた中年の男がでんと腰掛けている。


 男はこちらの存在に気づくと、よっこらせと立ち上がった。


「アケビさんとニアさんですね?」


「あっ、はい」


「ジェニーさんから簡単に話は聞いております。さ、こちらへどうぞ」


 男は先立って玄関脇の階段を上り始めた。俺たちもその後について階段を上っていく。


 二階は書斎になっており、いくつかの本棚とテーブルが置かれている。本棚には本や資料がしまわれている他、貴重な遺物らしき品々が飾られている。


 男はテーブルの前でこちらに向き直ると、軽くお辞儀をした。


「申し遅れました、私、遺物研究家と鑑定士をしておりますヨーゼフと申します。以後お見知り置きを」


「俺は冒険者のアケビ。こっちは連れのニアです」


 俺が堂々と、ニアが恐る恐る握手を交わすと、ヨーゼフさんはおもむろに口を開いた。


「して、本日のご用件はなんでしょう?」


「とりあえずこれを鑑定してみてもらいたいんです。話はそれからします」


「かしこまりました」


 ヨーゼフさんは俺から袋を受け取り、その中身をテーブルの上に広げた。それから、額に跳ね上げていた眼鏡型の拡大鏡を下ろして装着し、物品の鑑定を始めた。


「ふむふむ……むむっ?……なっ、これは……! こっちも……やはりそうだ……!」


 ニアの所持品を一通りチェックしたヨーゼフさんは、かけている拡大鏡を再び額に跳ね上げながら、鼻息荒くこちらに向き直った。


「どれもヤンテ文明の大変貴重なものです! 一体どこでこれを?」


「実は彼女、『ミダルモスの神殿』で眠っていたところを見つけたんです」


「なんと! ということはもしや、ヤンテの生き残りなのでは!? もっと詳しく調べさせてくださ――」


 飛びかからんばかりの勢いで近づいていくヨーゼフさんの左頬に、ニアは容赦ないパンチをねじ込んだ。


「ihcce!」


「ほげっ!」


 痛烈な一撃を食らったヨーゼフさんは、鼻血を垂らしながら起き上がった。その顔は恍惚に緩んでいる。


「ヤンテ語のツッコミはなかなか効きますな……!」


「usediarik aknan otihonok!」


「まあまあ、そう邪険にしてやるなよ。ニアのために色々調べてくれるんだから」


 ひっしと抱きついてきたニアの肩をぽんぽんと叩きながら、俺はヨーゼフさんに尋ねる。


「ニアが一体どういう経緯であの神殿にいたのか、知りたいんです」


「本人に聞くのが一番でしょうが、言葉が通じないのでは難しいでしょうね……分かりました、私なりに調べさせてもらいます。個人的にも興味がありますしね」


「ありがとうございます」


「では、出会ったときの状況を詳しく聞かせてください」


 俺はあのときのことを思い返しながら、ぽつぽつと喋っていった。ヨーゼフさんはこくこくとうなずきながら、その内容をメモにしたためていく。


「――それで引き返した俺は、ニアを連れてキセニアの町に帰りました。こんな感じでいいですか?」


「十分です、ありがとうございます。となると、あの資料が必要だな。どこにやったか……」


 ヨーゼフさんは本棚を物色し始めた。

 手持ち無沙汰になった俺は、ヨーゼフさんと話しているうちに思いついた疑問をぶつけてみることにした。


「そういえば、そのヤンテ語の辞書とかないんですか? 会話しづらくってしょうがない」


「残念ながら、ヤンテ語という言語は解読されている真っ最中でしてね。そういう便利なものはまだないのです」


「そうですか……地道にコミュニケーションを取るしかないかぁ」


 俺はヨーゼフさんの資料漁りを眺めているニアの横顔を見ながら、ため息をついた。


 なんとなくのニュアンスでいちおう会話できてはいるが、そのうち我々の言語を覚えてもらわなければならなくなるかもしれない。


 言葉を教えるというのはなかなか根気のいる作業だが、彼女を見捨てるわけにはいかないからな。せめて現代の社会に馴染むまでは面倒を見てあげたいところだ。


「アケビ……」


 俺の視線に気付き、心配そうに見つめてきたニアの手を俺はぎゅっと握った。


「大丈夫だ。俺がついてるから」


 言葉は通じなくとも俺の気持ちは伝わったようで、ニアはこくりとうなずいた。

 そのとき、棚の資料を漁っていたヨーゼフさんはふぅと嘆息すると、ゆっくりと立ち上がった。


「すみません。調べるには少し時間がかかりそうなので、日を改めましょう。なにか分かったら、すぐにお伝えします」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 俺たちも立ち上がり、ヨーゼフさんに一礼する。


「ニアちゃん、またね」


 ヨーゼフさんに手を振られたニアはぷいっとそっぽを向いた。どうやら彼のことが嫌いみたいだ。

 苦笑するヨーゼフさんに向かって軽く手を挙げると、俺はニアを連れて鑑定屋を出た。


「結局、今日は何も分からなかったな……」


「oyusedubuoyjiad、アケビ! usamiranakotnan ottik!」


 ニアは落ち込んでいる俺を見て、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。どうやら励ましてくれているらしい。


「そうだよな。俺がしっかりしなくちゃな」


 ニアが頼れる人間は俺しかいないんだ。俺は自分の頬を叩いて気合を入れ直した。

 これで俺の目標がまた一つ増えた。それは右も左も分からないニアをひとりぼっちにしないことだ。

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