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57話「情報共有と新たなスキル」

 流れ者の村から歩くこと半日、俺たちは国境近くの町ローゼルクへ到着した。盆地にある小さな町で、ほどよく湿った涼しい空気が肌に心地良い。


 俺たちは着いてすぐに宿を確保した。これだけの大人数で泊まれるところを探すのには苦労したが、なんとか条件に当てはまる一軒の宿屋を見つけることができた。


 宿屋のラウンジで休憩しながら、俺たちは今後の方針について練ることにした。地図を見ながら、明日以降の移動について検討をするのだ。


 ノエルさんは持っていた地図をテーブルに広げた。それは大まかな世界地図だった。


 ここから先はイルスティナの領地内になる。そのさらに西側にあるのがラピスタンだ。だから、道中は必然的にイルスティナを通過することになる。


「まずはラパーナの町へ向かい、そこから西ルートか東ルートのどちらかを選ぶことになりそうですね」


「距離的に近いのはどっちですか?」


「西ルートの方が早いですが、山を一つ越えることになりますよ」


 ノエルさんは人差し指で地図の上を辿っていき、キルゲ山脈という表記に突き当たったところで手を止めた。

 幸いなことにそれほど大きな山脈ではなさそうだが、山越えをしなければならないということに変わりはない。


「そうかぁ……でも、出来るだけ早く着いた方がいいんですよね?」


 様子をうかがうと、ノエルさんは大きくうなずいた。


「はい。バリーから身柄を狙われている以上、早いに越したことはないでしょう」


 アーシャの身の安全を考えれば、少しでも早く安全な場所に連れていってあげたいところだ。俺たちがその足を引っ張るわけにはいかない。


「分かりました。少し大変だけど頑張ろう、みんな」


「うん」


「そうだね」


 俺たちは互いにうなずきあい、意思を確認した。

 行動の指針がある程度固まったところで、俺はふと疑問に思ったことをぶつけることにした。


「そういえば、二人のユニークスキルってどんなものなんですか?」


 俺一人がユニークスキルについて知るだけなら〈能力視認(スキルチェック)〉で見れば済むことだが、みんなにも知っておいてもらうためには、本人たちから説明を受けた方が手っ取り早いだろうと思ったのだ。


 すると、ノエルさんは両手を広げて喋り出した。口をパクパクと動かしているが、何を言っているのかは全く聞こえない。

 しばらくそうした後、彼は普通に喋り出した。


「いまの言葉、聞こえましたか?」


「いや、全然」


「それが私のスキルです。〈隠密〉と言って、自分の周囲で発生した音を完全に消すことができます」


「結構優秀なスキルじゃないか?」


 ユウキの褒め言葉にノエルさんは頭をかいた。


「いやはや、意外とこの使い道が難しくてですね。どこかにこっそり忍び込むようなことなんて、そうそうないものですから」


 たしかに、日常生活を送っているだけなら無用の長物だろう。使うとすれば、やはり潜入捜査や密偵などのような斥候役を務めるときだろうか。


 ノエルさんの説明に続いて、今度はアーシャが手を挙げた。


「アタシのユニークスキルは〈千里眼〉。単純にすんごく遠くまで目が見えるっていうスキルなんだ」


「遠くって、どの辺まで?」


「そうだなぁ。例えば、そこの窓から見て、町の入口に生えてる花の本数が正確に数えられる」


「マジか!? すごいな!」


「へへ、まぁね」


 この宿屋から町の入口まではおよそ数百メートルある。相当の精度で遠くの物体を視認できるようだ。


 二人のユニークスキルの説明が終わったところで、俺は仲間たちの顔を見回した。


「そっちの紹介を受けたんだから、こっちも紹介しておかないとな。誰から行く?」


「わたしから!」


 真っ先に手を挙げたニアを筆頭に、俺たちも順繰りにユニークスキルを説明していった。

 四人が説明し終わると、とうとう俺の番がやってきた。


「えーっと、俺の場合どこから説明すればいいんだ?」


「まずはあれに決まっとるじゃろう」


「そっか、そうだよな。ノエルさん、試しに〈隠密〉を30回発動してもらえますか?」


「えっ? はい、分かりました」


 ノエルさんが困惑しつつ指定した回数だけスキルを発動し終えると、俺の体に新たな力が定着したのを感じた。

 立ち上がった俺は、その場で足踏みしながら〈隠密〉を発動する。その途端、静寂が俺の周囲を包み込んだ。


「これ聞こえてる? 聞こえてない?」


 俺の言葉を口の動きで読み取ったタオファが首を振った。どうやらスキルを上手く発動できたようだ。

 アーシャとノエルさんは、ありえないものを見るかのような驚きの目つきでその光景を眺めた。


 俺は〈隠密〉を解除すると、再び腰かけた。


「とまあ、こんな感じで、他人のスキルの発動を30回見ると自分のものにできるんですよ」


「こやつ、それを利用して大量にユニークスキルを持っとるんじゃ。ずるいじゃろう?」


 アーシャはそれを聞いた途端、机に身を乗り出し、俺の手を取ってぎゅっと握りしめた。その目は爛々(らんらん)と輝いている。


「すごい! すごいよアケビ! どうかアタシと一緒に戦ってくれ! 〈千里眼〉でもなんでもあげるから!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はあくまで護衛だから、国軍との戦いには加わらないよ」


「そんなこと言わずにさ! アケビたちがいたら百人力、いや、千人力だよ!」


「こらこら、アーシャ様。アケビさんが困っていらっしゃいますよ。どうか落ち着いてください」


「ちぇーっ……」


 アーシャは口を尖らせながら椅子にどっかと腰かけた。


 生憎、彼女の事情にそこまで首を突っ込む気はない。俺たちには俺たちの旅がある。

 俺は申し出を断ったことに若干の申し訳なさを感じつつ、愛想笑いを浮かべた。

アケビの現在の所持スキル

超越模倣(メタコピー)〉〈能力視認(スキルチェック)〉〈速算〉〈質量操作〉〈身体強化〉〈粘着〉〈分身〉〈地獄耳〉〈剛腕〉〈硬化〉〈熱感知〉〈動作予知〉〈縮小化(ミニマイズ)〉〈加速〉〈精神防護(メンタルガード)〉〈詠唱破棄〉〈俯瞰視点〉〈雲泡〉〈隠密〉〈千里眼〉

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