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48話「鉱石の町メオラ」

 魔女の湯に泊まってから一夜明けた今日、俺たちはメオラの町にやってきた。


「やっとついた……!」


 膝に手をつき、荒くなった呼吸を整えながら俺はつぶやいた。ここに来るまでに結構長い山道を登ってきたので、もう足腰がへとへとだ。


 俺たち三人がへばる横で、シエラとタオファは元気そうにしている。シエラはそんな俺たちの様子を見て、呆れ顔でふんと鼻を鳴らした。


「情けないのう、ヒトの子らよ」


「お前はいいよな。吸血鬼(ヴァンパイア)の回復能力があるんだから」


「うん? 今日はまだ一度も使っとらんぞ」


「マジかよ……」


 正直なところ、吸血鬼(ヴァンパイア)の身体能力を舐めていたかもしれない。そして、それについていけるタオファは一体どんな鍛え方をしているんだろうか。

 俺は二人のことを改めて尊敬した。


 しばらくして体力を回復した俺たちは、入口から街の中へ足を踏み入れた。


 近代的な都市だったパヤッカや王都カドゥシアとは異なり、古風な建物が立ち並んでいる。目を見張るほど大きな建物はほとんどなく、風光明媚といった印象だ。


 鉱石の町として知られるメオラは、ジャロム山脈に張りつくようにして街が形成されている。そのため高度が若干高い位置にあり、空気が薄いのが特徴だ。心なしか呼吸がしづらいのはそのせいだろう。


「とりあえず、あそこ行ってみるか」


「いいんでねぇか?」


「いいよ!」


 俺はふと目についた高台を指差した。あそこからなら街を一望できそうだ。

 坂道の多い通りを進みながら、俺たちはより高い方へと登っていく。


 そして歩くこと十数分、俺たちはようやくその高台にたどり着いた。

 転落防止用の木の柵に肘をかけながら、俺は絶景に目を向けた。


「気持ちのいい景色だなぁ」


「きれいだね!」


「あの辺りがパヤッカかな?」


「たぶんそうだな」


 展望台からの見晴らしはとても良く、遠くまで見渡せた。観光には持ってこいだ。

 俺たちがその美しい景色を眺める一方、近くにある土産屋で一人はしゃぐやつがいた。


「なあアケビ、宝石がいっぱい置いてあるぞ!」


 シエラは顔をほころばせながら俺の方を振り向いた。


「ああ、それはクズ石だな。小さすぎて売り物にならないやつを投げ売ってるんだよ」


「違う! 妾が言ってるのはこっちじゃ!」


 シエラが指差した先にはガラスのショーケースがあり、様々な色の宝石が飾られている。

 その中でも一際大きな石をシエラは指差していた。赤く輝くその石は、七桁の大台に乗る金額の値札とともにケースの中央に置かれている。


「バカやろう、いくらだと思ってるんですか。やめなさい」


 俺はシエラに歩み寄り、その右手を下げさせた。すると、シエラはむっとした顔で口を開いた。


「いいじゃろ、金ならあるんじゃから!」


「そういう無駄遣いをするために稼いだお金じゃないの! こっちのクズ石で我慢しなさい!」


「ケチ!」


 不満をたれるシエラの耳たぶを引っ張って、ショーケースから無理やり引き剥がす。その様子をタオファはくすくすと笑いながら眺めた。


「なんだかお母さんみてぇだな、アケビ」


「ママになった覚えはないんだが……ほら、しゃんと立って」


「ぶーぶー」


 俺は苦笑しつつ、だらんと寄りかかってくるシエラを自力で立たせる。全く、わがままなお姫さまだこと。


 土産屋に入ったついでに、俺は店主に話しかけた。この際だ、少し情報収集していこう。


「あの、すみません。ちょっと聞きたいんですが」


「なんだい?」


「この町で魔法陣用の大きなティアライトを手に入れるには、どうしたらいいでしょうか」


 俺の質問を聞いた店主は、顎に手を当てながら思案した。


「そうだなぁ。店で買うのも手だし、あとはオークションだな」


「オークション?」


「ああ。でかい宝石の多くはそこに出品されるんだ。あんたたちが探してるティアライトも確実に出回るだろうよ。えーと確かここに……あったあった」


 店主はレジカウンターの中から一枚のチラシを取り出した。

 そこには「宝石オークション開催」の大きな文字と、開催の詳細が書かれている。目玉商品は「天使の涙」と呼ばれる巨大なティアライトらしい。


「すいません、これもらっていってもいいですか?」


「ああ、構わないよ。どうぞ」


「ありがとうございます」


 俺は店主に向かって軽く礼をすると、ニアたちのところへ戻っていった。


「なあ、このチラシを見てくれ」


 俺がチラシを差し出すと、みんなは俺を取り囲むようにしてそれをのぞきこんだ。


「へえ。こんなのがあんだな」


「天使の涙……なるほど。茨の魔女がこれを狙うかもしれないとアケビくんは言いたいんだね?」


「そういうことだ」


「ふむ。行ってみる価値はありそうじゃな」


 もし茨の魔女が襲撃してきたなら俺たちで迎撃すればいいし、来なかったら来なかったで素直にオークションを楽しめばいい。


 そのとき、ニアがふと声を上げた。


「オークションってなに?」


「値段を言い合って、一番高い値段を出した人が商品を買えるんだ」


「楽しそう!」


 ニアは両手を胸の前で握りながら、目をキラキラと輝かせた。ニアにとってはちょうどいい社会勉強になるかもしれない。その意味でも、行って損はないだろう。


 こうして俺たちはオークションに参加することにした。開催日時は三日後の昼らしい。果たして、鬼が出るか蛇が出るか。

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