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47話「魔女の湯〜ガールズサイド〜」

「これが温泉か!」


 シエラはキラキラと目を輝かせた。

 女風呂に他の客は全く入っておらず、貸し切り状態だ。


 これまで旅館の部屋に備え付けられている風呂にしか入ったことがないシエラにとって、この体験はとても刺激的なものに違いなかった。


 浴室に入ってそのまま浴槽に直行しようとするシエラを、ユウキは制止した。


「おっと、入る前に体を洗わないとダメだよシエラくん」


「む、そうなのか」


 シエラは言われた通り、壁際にあるシャワーを使って体を洗い始めた。

 しかし、隣にいるタオファをチラ見したシエラは、それを中断して悪戯っぽい笑みで立ち上がった。


「タオファ、お主なかなかにでかいものを持っておるではないか?」


「な、なにすんだおめぇ! やめろ!」


「良いではないか。減るもんでもなし」


 シエラは後ろからタオファの双丘(そうきゅう)をつかみ、優しくもみしだく。


「このデカ乳の秘訣はなんじゃ?」


「普通に食って運動して寝てるだけだ。他にはなーんもしてねぇ」


 のほほんとしたその答えを聞いたシエラは、目を見開きながら大きくのけぞった。


「なっ……! こやつの弁を聞いたか、ニア!」


「うん?」


「妾は悔しゅうてならん……! この差は一体なんなのじゃ……! どうすれば埋められる……!」


 ぺたんと張り付くような自分のちっぱいをつかみながら、シエラは怨嗟の声を上げた。

 ニアはシエラが言っている意味がよく分からないようで、涙目になった彼女の頭を優しく撫でてあげている。


「ふん、くだらないね。胸のサイズで差別するようなやつはこっちから願い下げだよ」


 冷たくバッサリと切り捨てるユウキの持論を聞いたシエラは、少し考え込んだ後、真顔で言い放った。


「さてはお主、少女化の呪いが解けないからいじけておるな?」


「がっ……!」


 髪の毛についた泡を流していたユウキは、動揺のあまりシャワーヘッドを取り落とし、それが側頭部に直撃した。


「いっ、いまはいいんだよ! 呪いが解けたらナイスバディに戻るんだからね!」


「いまのままでいた方が可愛らしいと思うがのう、おチビちゃん?」


「この性悪吸血鬼(ヴァンパイア)め……! 退散しろ!」


 くすくすと笑うシエラの顔面に向かって、ユウキはシャワーを浴びせた。


「ぶばっ――やったな、この!」


 シエラは手桶で浴槽からお湯をすくうと、ユウキの頭に思い切りぶっかけた。


「がはっ――それはやりすぎだろ!」


「お主が先に手を出したんじゃろうが!」


「煽ってきたのはそっちだろ!」


「ケンカはダメ!」


 ごちん。ニアの拳が頭頂部にめり込み、シエラとユウキは首を縮めた。

 ニアは人差し指を立てながら、二人をにらみつける。


「お風呂場で暴れちゃダメ。二人とも仲良く。分かった?」


「「はい、ごめんなさい」」


 床に正座した二人は、反省の意を示しながら、ニアに向かって深くうなだれた。


「全く、なーにやってんだおめぇら」


 タオファは呆れ顔で笑いながら体の泡を流すと、浴槽に浸かった。ニアとようやく落ち着いた二人も、遅れてその隣に浸かる。


「はぁー、いい湯だな」


「本当、気持ちいいなあ」


「ぽかぽかするね!」


「アケビもいまごろ壁の向こうで浸かってるんじゃろうな」


 一瞬変な間が空いて、それからユウキが口を開いた。


「アケビくんのこと、シエラくんはどう思っているんだい?」


「妾は将来、婿にしようと思っておるぞ」


「むっ――げほっ、ごほっ、なんだって?」


「誰も言い出さんようじゃからのう。初めに言い出した妾のものってことで良いじゃろ?」


 シエラはあくまで真剣なトーンで言った。

 すると、それを聞いたタオファがずいと身を乗り出した。


「それは聞き捨てならねぇな。おらの方が先にアケビと会ってんだ。おめぇだけのものっちゅう理屈は通らねぇはずだぞ」


「そうだよ。アケビは誰か一人のものなんかじゃない。みんなのクランマスターだ」


「ほう。つまり、お主らもアケビのことを狙っている、というわけじゃな?」


 再び変な沈黙が場を支配する。そんな中、その空気を破って真っ先に手を挙げたのはニアだった。


「わたし、アケビ好き!」


「おらもだ。あんな強い男はそうそういねぇかんな」


「私も、アケビくんには感謝してるんだ。そう簡単に場所を譲るわけにはいかないよ」


「そうか……ま、いまはそれで良かろう。いずれ決着はつけるがな?」


 くっくっと笑うと、シエラは優雅に足を組んだ。


 それから少し経って、ユウキは真っ赤な顔を手で覆った。タオファの顔が赤いのも、のぼせたわけではないだろう。


「ごめん、なんだか自分で言っておいて恥ずかしくなってきた」


「おらもだ……いまの話、おらたちだけの秘密にしねぇか?」


「うん、いいよ」


「全く、お主らは色恋沙汰となるとうぶよのう。仕方ない、協力してやろう」


 こうして、女子四人の秘密の約束が交わされた。

 一方、渦中のアケビはというと、そんなことは知る由もなく、のんびりと湯船に浸かっているのだった。

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