45話「ケシムと七人の賢者」
ようやく気分が落ち着いたユウキを連れて、俺はルイさんの家の跡地を探索していた。なにか重要な手がかりが残されているかもしれないからだ。
「うん? なんだこれ」
地面に埋もれている四角い蓋に気がついた俺は、ついている取っ手に手をかけて引っ張った。
その中に続くはしごを使って下に降り立つと、そこは小さな部屋になっていた。
「隠し部屋……?」
「アケビくん、これを」
ユウキが手にしたのは、机の上に置かれた一冊の薄い本だった。タイトルは書かれておらず、無地の茶色い表紙が張られている。
中を開くと、文章はどうやら手書きのようだった。
『暁光の杖とその封印について、後世に伝えるため、書き記しておくこととする』
「これは……!」
挿絵に描かれているのはまさしく、茨の魔女が持っている杖だった。興味を惹かれた俺たちは、先へと読み進めることにした。
『今からおよそ700年の昔、世を恐怖に陥れた巨大な魔物がいた。その名をケシムという』
挿絵には、四つ足の巨大な怪物の姿が描かれている。
「700年前っていうと、ちょうど大破砕があったと言われる頃だよな」
「ああ、そうだね」
『ケシムはところ構わず暴れ回り、甚大な被害を出した。そこで立ち上がったのが、七人の賢者たちである』
挿絵には、ケシムに対峙する七人の賢者たちが描かれている。
『賢者たちは自らの命を賭して、暁光の杖にケシムを封印することに成功した』
「なあ、これってまさか……」
「そんな……」
『その封印を解く方法はただ一つ。暁光の杖に七人の賢者の血と魂、そして復活に必要なだけのマナを与えることである』
俺たちは言葉を失った。茨の魔女が言っていた「四人目」というのは、このことだろう。ルイさんは賢者の血を引く子孫だったのだ。
「このままではケシムの封印が解かれてしまう! 早く止めないと!」
「そうだな。放っておくわけには行かなさそうだ」
もはや、ユウキと茨の魔女の因縁というだけの話ではない。ずいぶんと大事になってきた。
俺は本を閉じると、小脇に抱えた。みんなにもこのことを知らせなくてはならない。
そして机の上にはもう一つ、ルイさんからの置き土産があった。
「残しておいてくれたんだな……」
その紙には、復元を完了した魔法陣が記されていた。茨の魔女に奪われた石板は、これを元にして作ったのだろう。
俺はそれをそっと本の中に挟んだ。
「ありがとう、ルイさん。あんた、立派な賢者だよ」
隠し部屋をくまなく探索したところ、その他にも色々な資料はあったが、目ぼしいものはその二つだけだった。
俺たちは隠し部屋を後にして、ルイさんを埋葬することにした。死体をそのままにして行ったのでは浮かばれないからな。
がれきの横に深い穴を掘り、ルイさんを土の下にしっかりと埋める。
「即席の墓だけど、勘弁してくれよ?」
太い木の枝を立てて墓標代わりにすると、俺は立ち上がった。
「よし、行こうか」
「ああ。村の人たちも埋葬してあげないといけないからね」
大変な作業だが、必要なことだ。俺はこくりとうなずくと、ルイさんの墓を後にした。
山を降り、ゾルダ村に戻って埋葬作業を済ませる頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。ランタンをつけ、〈熱感知〉で警戒しながら帰るしかないだろう。
帰り道を急ぎながら、ユウキは俺に話しかける。
「さっきは意地を張って悪かった」
「ああ、茨の魔女とやり合ったときか?」
「うん。あのときは頭に血が上っていて、冷静じゃなくなっていたんだ。いまなら、無謀なことだったって分かるよ」
俺はそれについて何も答えなかった。自分一人で決着をつけようとしたユウキの気持ちがよく分かるからだ。
俺だって、もし目の前で家族を殺されたら、同じことを考えると思う。
しかし、ユウキはそんな私怨とわがままを飲み込み、立ち止まって頭を下げた。
「頼む。私と一緒に、茨の魔女を倒してくれ」
「もちろんだ。俺たち、仲間だろ?」
「……ありがとう、アケビくん」
ユウキは強い。
実力がどうこうの話ではない。
敗北した直後だというのに、怒りや悲しみを飲み込んで、正しい自己評価を下せる精神力がある。
そんな彼女を俺は尊敬しているのだ。
◆◆◆
パヤッカに戻った俺たちは、他のメンバーたちと情報を共有した。
ルイさんが茨の魔女に殺されたこと。ルイさんが賢者の末裔だったこと。あと三人の末裔が殺されると、ケシムが復活してしまうこと。
「そうか……そいつは残念だったな……」
「ルイ……」
「悲しんでいる暇はないぞ。そのケシムとやらが復活するかもしれんのだからな」
厳しい言い方ではあるが、シエラの言う通りだ。うかうかしてはいられない。
「俺たちの目下の目標は、茨の魔女を見つけて倒すことだ」
「茨の魔女、追いかける!」
「ああ。なんとしても、やつの凶行を阻止しよう」
俺は霧の魔女との約束を思い出した。間違った道を突き進む茨の魔女は、俺たちが必ず止めてみせる。
「でもよ、やつが次にどこへ向かったかなんて分かるんか?」
「それなら簡単だ。あいつはルイさんが作製した石板を奪っていった。でも、あの石板にはまだ決定的に欠けているものがある」
「欠けているもの?」
「そう。これだ」
俺はバックパックからティアライトを取り出した。「宵闇の蔵」で手に入れたものだ。
「あっ、そうか! 魔法陣の中央に魔晶石をはめこまなければ、あの石板は発動しない!」
「ティアライトが手に入る場所と言えば?」
「おらたちもメオラに行けばいいっちゅうことだな!」
「そういうこと」
俺はタオファに指を差した。
茨の魔女はきっとティアライトを求めてメオラにやってくるに違いない。そこで見つけて、とっちめるという寸法だ。
「それじゃあ、次の目的地はもう決まりだね」
「明日の朝一番に発とう。今日はもう遅いから、ゆっくり休んでくれ」
みんなはこくりとうなずくと、それぞれの部屋に戻っていった。
今日は激動の一日だった。今夜は泥のように眠れそうだ。




