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42話「心機一転って必要だよね」

 俺の魔剣紛失騒動から早くも二晩が過ぎた。


 カジノ「カエルム」で稼いだ4000万ジラは、もし何かあったときのために貯めておくことにした。使い切るにはあまりに多すぎるし、もったいないからだ。


 とはいえ、せっかく手に入れた大金だ。全く使わないというのも意味がない。

 そこで俺たちは、当面の生活に必要な金額だけを下ろし、いままで買いたくても買えなかった必需品を色々と買うことにした。


 まずは服だ。旅を経てヨレヨレになっていた服をみんな新調した。そのおかげで、いまはすっきりした気持ちで活動することができる。

 特にシエラは今までほぼ一張羅だったから、服を選ぶ際とても嬉しそうにしていた。


 次に、防具を買い足した。ニアは魔道士用のローブを、ユウキは替えの新しいマントを、そして俺は服の下に着込むチェーンメイルを買った。これで魔物との戦いがさらに快適になるだろう。


 ちなみにタオファは鉄製のガントレットを買うかどうかかなり迷っていたが、結局買わなかった。手に物をはめてしまうと、拳の感覚が「ズレる」からだそうだ。

 違いがよく分からないが、武闘家にとってはそのわずかな差が重要なのだろう。


 それから、貧相だった野営セットを少し豪華なものに交換した。多少重さは増すが、俺が〈質量操作〉を使って軽くして持ち運べば変わりはない。これでキャンプのときも安心だ。


「これで旅に必要なもんは大体(でぇてぇ)揃ったんでねぇか?」


 最後の荷物を泊まっている部屋に運び終えたタオファは、腰に手を当てながら言った。


「そうだな。あとはみんな好きなものを買っていいぞ」


「本当!? わたし、フランクフルト食べたい!」


 キラキラと目を輝かせるニアを見て、ユウキはくすりと笑った。


「ニアくんの純粋さが眩しいよ。私は魔道書が何冊か欲しいかな」


「おらは靴が欲しいな。戦ってるうちにボロボロになっちまったかんな」


「妾は酒じゃな。それがないと始まらん」


「よし、ここからは自由行動にしよう。それじゃあ解散!」


 俺たちはバラバラになって、各自のフリータイムを満喫しに向かった。たまには一人になる時間も欲しいだろうし、ちょうどいい機会だ。


 じゃあ俺は何をするのかって? それは決まっている。「宵闇の蔵」にあった魔法陣を解読できる魔道士探しだ。「世界の果て」に関する情報が少しでも得られる可能性があるからな。


 俺は関連する遺物がないか各商会を巡りがてら、ルーンに詳しい魔道士の居場所について聞き込んでいった。


 すると、いくつかの商会で一人の男の名前が挙がった。


 その男の名はルイ・ガードナー。古代文字やルーンの研究ばかりしている変わり者らしい。首都にほど近いゾルダという村で暮らしているそうだ。


 彼に聞けば何か分かるかもしれない。とりあえず、次の目的地はゾルダで決まりだろう。


 満足した俺は、いったん宿に帰ることにした。すると道中、魔道書を脇に抱えたユウキにばったり出会った。


「やあ、アケビくん。もう買い物はいいのかい?」


「ああ。そっちは?」


「いい魔道書を見つけたんだ。今よりもっと強くなれるかもしれない」


 そう言うと、ユウキは魔道書を胸の前に掲げた。まるで鈍器のような分厚さだ。魔道士っていうのはつくづく大変なんだな、と思う。


「良かったな。代わりに持とうか?」


「いや、大丈夫だよ。ありがとう」


 ユウキは魔道書を再び脇に抱えると「ふぅ」とため息をついた。


「色んなところへ聞き込んでみたけど、茨の魔女の目撃情報はなかったんだ。どうやらこの町には来ていなかったみたいだね」


「そうか、それは残念だったな」


 悔しそうに言うユウキに、俺は恐る恐る尋ねることにした。これまでに何度か聞こうと思ったが、うやむやになっていたことだ。


「もしその……茨の魔女が見つかったら、ユウキはどうするんだ?」


 ユウキはしばらく沈黙した後、声のトーンを落とした。


「やつは私に呪いをかけただけじゃない。私の師匠の仇でもあるんだ。だから私一人でも、刺し違えてでも、絶対に倒す」


「そうか……」


 決意に満ちたその声色に、俺は言葉を詰まらせた。そんな俺の様子を見たユウキは、釘をさすように、続けて言葉を紡ぐ。


「まさか復讐はやめろだなんて、そんな野暮なことは言わないだろうね?」


「いや。お前の復讐について、俺がどうこう言う資格はないよ。だから口出しはしない。ただ、正直な俺の気持ちを言わせてもらうと――」


 俺はユウキの両肩をつかんで、自分の方を振り向かせた。どうしても目を見ながら言いたい言葉だったからだ。


「ユウキ。俺はお前に、生きていてほしいと願ってる」


 ユウキは俺の顔をしばらく真顔で見つめていたが、そのうち呆れたように笑った。


「……そうか。君はそういう人だったね」


「分かってくれたか」


「分かったよ。生きて帰ってくればいいんだろ?」


「そんなこと、できるのか?」


「努力するよ!」


「あっ、おい!」


 空いている左手をぷらぷらと振ると、ユウキは歩調を速めて先へと行ってしまう。

 そのまま逃したら彼女が永遠に遠くに行ってしまうような気がして、俺は慌ててその後を追いかけた。


 そのとき、紙袋を抱えたニアが通りの角から現れて、こちらに手を振った。そんなニアの後に続いて、タオファとシエラも顔を出す。


「おっ、お前たちも戻ってきてたのか!」


「いい酒を買ったぞ! 飲もう!」


「まだ昼間だぞ、自重しろ」


「ちぇっ、ケチくさいやつじゃのう」


 奇しくも宿屋の前で合流した「ビヨンド」メンバーは、連れ立って宿屋に向かう。


 いつも通り楽しそうに笑うユウキの姿を見て、俺はどこかほっとした心地がした。

 いつまでもこのパーティメンバーで過ごしていたい。その願いが叶うことを祈りながら、俺は四人の後についていった。

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