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33話「人が消える町」

「なぜ(わらわ)がFランクなのじゃ!」


 ぷりぷりと怒りながら、シエラはカウンターにだんと手をついた。木板が軽くひしゃげ、スタッフが目を丸くする。


「仕方ないだろ、まだ登録したてなんだから」


「せめてそこの小娘と同じCランクにしてくれ!」


「い、いえ、それは出来かねます。きちんと段階を踏んでいただかないと……」


「定命の者が舐めおって……!」


「ストップストップ! 暴力禁止!」


 いまにもギルドのスタッフに殴りかかりそうなシエラを制止すると、俺は慌てて耳打ちした。


「俺たちのランクを一気に追い抜いたらさ、カッコよくないか?」


「なに!? そんなことが出来るのか!?」


「成果次第で飛び級できるんだよ。頑張ってみないか?」


「ふむ……そうか……ふふ……」


「すいません、お邪魔しました~」


 一気にランクアップするところを想像して悦に入るシエラを連れて、俺たちはあたふたと冒険者ギルドを後にした。


 なぜシエラを半ば強引に冒険者にしたかといえば、簡単な話だ。

 旅の途中、スムーズに移動するためには、ところどころで身分の証明が必要になる。身元不明のシエラを冒険者にすることで、全員が冒険者カードを使って関門を通れるという寸法だ。


「それにしても、なんで冒険者ってだけでこれだけ優遇されるんだ?」


「有事の際には傭兵としての役割が見込まれているからね。入国はいつでもウェルカムってわけさ」


「はぁー、なるほどね」


 そんな理由があったなんて全く知らなかった。いずれにせよ、使えるものはなんでも使うべきだろう。


 道中で手持ち無沙汰になった俺は、ふと思いついた疑問を投げかけることにした。


「そういえばシエラ、日光に当たって大丈夫なのか?」


 シエラはそれを聞くと、ふんと鼻で笑った。


「どこぞのお伽話でもあるまいし。そんなものが効くわけないじゃろう」


「じゃあ、銀の弾丸とかにんにくも効かないのか?」


「銀の弾丸は撃たれると痛いし、にんにくは臭くて鼻につくから嫌いじゃ」


 なんだ、そういう意味の苦手か。古くからの伝承というのはあながちあてにならないようだ。


 街道をしばらく進むと、新たな町が見えてきた。おそらく、ここからはバティス帝国の領地になる。


「ここがタイザンかな」


「どうやらそうみたいだな」


 俺は町に到着すると、早速中を見渡した。下町風情あふれるこの町は、ガラス細工が特産品となっており、工芸の盛んな職人の町として知られている。

 商店の軒先に飾られた食器類やアクセサリーを眺めながら、俺たちは通りを歩いていく。


「すごい! きれい!」


「小ぎれいな品物ばっかだなぁ。目がちかちかすっぞ」


「アケビ、これなんかどうじゃ!? かわいいぞ!」


 店頭に駆け寄ったシエラは、ガラスで出来た熊の特大オブジェを手にした。黒い台座には値札が貼られており「30万ジラ」と書いてある。


「バカ、そんな高いの買えるわけないだろ! ていうか、頼むからそこに置いてくれ!」


「なんじゃ、けちくさいのう」


 シエラは口をとがらせながら、台座に熊さんをそっと置いてくれた。落として弁償なんてことになったらシャレにならないからな。本当に良かった。


「で、これからどうするんだい?」


「まずは冒険者ギルドに行って、情報収集だ」


「了解」


 とにもかくにも、旅をするには情報が大切だ。どこで何が起こっているのか、常にアンテナを張り巡らせておかないと損をするというのが冒険者の常である。


 しばらく歩いていくと、俺たちは爪痕を模した看板を発見した。

 ドアを開くと、その上部についているガラスのベルがちりんちりんと鳴り響いた。さすがガラス工芸の町、おしゃれな計らいだ。


 俺たちは早速掲示板のところに向かった。どんな依頼があるかを見ておけば、この町で起きている事件や困り事がすぐに分かるからだ。


「うん……?」


 そのうちの一枚に俺は目を留めた。

 紙の上部に「神隠し 調査員急募!」と大きな文字で書いてあり、その下に詳細が記されている。

 依頼主は町長ディラン。依頼内容はこの町で起きている連続失踪事件の調査ということだった。


「夜な夜な人が消える……?」


「まさか……」


「な、なんじゃ? 妾は関係ないぞ! というか人は喰わぬわ!」


 シエラはぷりぷりと怒りながら頬を膨らませた。必死に弁解しているので、いちおう信用してやるか。


「実に興味深い事件だね。受けてみるかい?」


「いや、保留だな。得体の知れない事件だ」


「受けよう! アケビ! 面白そうな匂いがプンプンしておる!」


「んじゃ、一人で頑張ってくれ」


「んなっ!? 妾を置いていくでない! 噛むぞ!」


 しらっとスルーされたシエラはいーっと歯を剥き出した。感情豊かで、からかい甲斐のある吸血鬼だ。

 俺は次に、併設の酒場で飲んでいる、体格の良いひげ面の冒険者に話しかけた。


「すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


「なんだ、少年?」


「神隠しについて何かご存知ですか?」


「ああ、知ってるぜ、それはな――」


「霧の出る夜、外を出歩いているうちに忽然と消えちまうんだ! それを調査しに行った冒険者たちも全員戻ってこなかったらしいぜ!」


 対面のひょろ長い男が身を乗り出し、体格の良い男の言葉を遮るように言った。


「おい、俺のセリフを取るなよ! ったく……。お前らも夜道には気をつけろよ」


「心に留めておきます。それともう一つ、いい宿屋をご存知ないですか?」


「お前、ただでいくつも聞こうってのは都合が良すぎるんじゃねぇか?」


 俺は何も言わず、銀貨を一枚指で弾いた。体格の良い男はそれを空中でつかむと、にやりと笑った。


「分かってるじゃねぇか。とっておきの宿を教えてやるよ」


「助かります」


 宿の位置を聞いた俺たちは、その男たちと握手をして別れた。地元の冒険者が教えてくれた宿なら外れないだろう。


「それにしても物騒な事件だな。一体(いってぇ)何人やられたんだ?」


「とにかく、夜は出歩かない方が良さそうだな」


 俺がそう言うと、みんなはこくりとうなずいた。原因が分からない以上、注意するに越したことはないだろう。


 ギルドから歩くこと十数分、俺たちは目的の宿屋に到着した。

 宿の戸を開けて中に入ろうとしたそのとき、背後から大声が聞こえてきた。


「こんな家、もうたくさんだ!」


 宿屋の向かいにある工房から少年が飛び出してきて、俺を押しのけながら駆けていく。


「こちとら願い下げだ!」


 工房から走り出てきた中年の男性が、少年に向かって叫ぶ。それから俺たちに軽く頭を下げると、工房の中に戻っていった。


「なんだ? 親子喧嘩か?」


「なにか訳ありのようだね」


 気にはなるものの、赤の他人がわざわざ首を突っ込むことでもないだろう。俺たちは気を取り直して、宿屋に入っていった。

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