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32話「路地裏での戦い」

 俺はじりじりと距離を詰め、タイミングを計ってシエラに突撃した。

 シエラは刃に触れないよう注意しつつ、斬撃を器用に捌いていく。さすがの吸血鬼(ヴァンパイア)でも魔剣の切れ味は驚異ということらしい。


 上段回し蹴りを屈んで避けた俺は、シエラのわき腹目掛けて剣を横薙ぎにした。彼女はそれをブリッジでかわすと、数回バク転して距離を取った。


「少しはやるようじゃな!」


「そっちもな!」


 今度はシエラから攻撃を仕掛けてきた。しなやかな手捌きで魔剣の刀身を弾きながら、貫手で首元やみぞおちを正確に突いてくる。俺は後退しながらそれをいなしていった。


 そのとき、シエラは強く踏み込むと、体を最大限に前傾させてリーチを伸ばした。〈動作予知〉していたとはいえ、体が上手く対応できず、俺のわき腹がわずかに引き裂かれる。


「ぐっ……!」


 しかし俺はなんとか踏みとどまった。ここで退いたら劣勢になる一方だ。前に出るんだ。

 シエラの追撃の貫手をかすりながらも辛うじて避け、俺は姿勢を低くして彼女の懐に潜り込む。


 それを見て一歩退いた彼女がさらに後退しようとしたとき、その動きがピタリと止まった。


「っ……!?」


 俺がこっそり設置しておいた〈雲泡〉がシエラの足元に絡みつき、くっついて離さない。

 好機到来とみた俺は、シエラに向かってもう一歩踏み込んだ。ここが俺の間合いだ。


「ちいっ……!」


 苦し紛れに放たれたシエラのカウンターを身をひねってかわした俺は、さらに畳み掛けることにした。〈加速〉を使い、一瞬だけ剣を振る速度を上げる。


「っ……!?」


 シエラは目を見開きながらギリギリで刃をかわしたが、反応しきれずに体勢を崩してよろけた。その瞬間、俺は〈質量操作〉を互いの体に使いつつ、肩から体当たりした。


 彼我の重量差には吸血鬼の筋力を持ってしても耐えられなかったらしい。シエラはどすんと尻餅をついてこちらを見上げた。その首元には、俺の魔剣が突きつけられている。


「はぁ……はぁ……」


「まさかここまでやるとはの」


 シエラは目をつぶってふっと笑った。


「降参じゃ、降参。さあ、妾の首をはねるがよい」


「そんなこと誰がするか!」


 俺が剣を納めるのを見たシエラは、ぷるぷると震えながら侮蔑の目で俺を見つめた。


「どこまで妾をコケにすれば気が済むのじゃ……!?」


「コケにしてねぇよ。俺が言いたいのは最初から一つだけだ」


 俺はシエラを指差した。ここはきっちり釘を刺しておかなければならない。


「勝手に他人(ひと)の血を吸うな! ちゃんと許可を得てからやれ!」


「……は?」


「分かったなら、さっさと行け」


 シエラは真顔できょとんとしていたが、そのうち吹き出した。


「ぷっ……あははは!! お主、本気で言っておるのか!?」


「な、何がおかしいんだよ」


「面白い男じゃ! 気に入った! 妾はお主についていくことにしたぞ!」


 シエラはそう宣言すると、俺の腕に両手でしがみついてきた。いきなりの豹変ぶりに、俺の気持ちは全くついていけない。どういう風の吹き回しだ?


「なんで勝手に決めてんだよ!」


「妾がそうじゃと言ったらそうなのじゃ。さあ、お主の宿へ連れていけ。楽しい夜伽の始まりじゃ!」


「お前、ただ単に寝床がほしいだけだろ!」


「そうとも言う」


 にこやかにそう言い切るシエラに、俺は頭を抱えた。これは妙な連れ合いを増やしてしまったぞ。

 ニアたちにどう言い訳しようか考えながら、俺はシエラを連れてとぼとぼと帰路についた。


◆◆◆


「――というわけで、今日からお主たちの仲間になった、吸血鬼(ヴァンパイア)のシエラ・ミューズ・ルビーリントじゃ。よろしく」


 そう言うと、シエラは気さくな感じで手を挙げた。


「というわけで、じゃないよ。どうなってるんだ、一体全体?」


「おめぇ、一晩で女こしらえてきたんか! やるでねぇか! あっはっは!」


「はーなーれーてー!」


 俺の左腕に抱きついているシエラをニアが必死に引きはがそうとする横で、ユウキは頭を抱え、タオファはけらけらと笑っている。頭が頭痛で痛い。


 シエラはふんと鼻を鳴らし、俺の顔をまじまじと見つめる。


「妾は強い男が好きじゃ。だからアケビのことが大好きじゃ」


「いくらなんでも直球すぎないか!?」


「いや、それは一理ある。おらもアケビの強さに惹かれたんだ」


「そうじゃろ? お主、なかなか分かるではないか」


「まあな」


 タオファとシエラはがっつりと熱い握手を交わす。

 その間にニアは俺の右腕に抱きついてきた。


「ニアもアケビのこと好き! ユウキは?」


「私は……好きとかそういうんじゃ……」


「なんじゃ? この際はっきり言うてみ」


「べ、別に嫌いってわけじゃない! 大事な仲間だからね!」


「ふぅん、素直じゃないのう」


「なあ、本人の目の前で恋バナじみた女子会するのはやめないか……?」


 俺は懇願の目つきで彼女たちを見つめた。なんだよこの状況。胃に穴が開きそうだ。

 背中を軽く叩くと、シエラはようやく満足したらしく、俺の腕を放してくれた。


「それで、お主たちはどうして旅を?」


「そうだな。一通り話しておくか」


 俺たちはそれぞれの旅の理由を簡潔に説明した。そして「世界の果て」に向かうことがこのパーティの主な目的だと話すと、シエラは「ほう」と声を上げた。

 まさかと思い、俺は身を乗り出す。


「シエラ、何か知ってるのか!?」


「いや、何も知らん」


「知らんのかい」


 俺はがくんと肩を落とした。意味ありげな相づちを打つから、てっきり事情通なのかと思ったじゃないか。期待して損したぞ。


「ま、旅していればそのうち分かるじゃろ」


「そういうもんかねぇ」


 俺たちは新たな仲間シエラを迎え、旅を続ける。

 次に目指すはアルカ王国とバティス帝国の国境だ。

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