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29話「宵闇の蔵〜四層目〜」

 俺たちは三層目を壁伝いに進み、四層目へ下っていく通路を発見した。


 その通路はご丁寧にも石段になっていた。俺たち一行はトラップに警戒しながら、その階段を一歩ずつゆっくりと降りていく。


「だいぶ下の方まで来たんじゃないか?」


「いまどの辺なのか、全然分からないな」


 未踏破ダンジョンだというだけあって、何層目まであるのか、どこまで行ったら終わりなのかが全く見えてこない。まさに文字通りの暗中模索だ。


 階段を降り終えると、そこは三層目に引き続き大部屋になっていた。

 

 正面に向かって通路が続いている。通路の両脇には柱が何本も立てられており、それが部屋の荘厳さを醸し出している。

 突き当たりには祭壇のような台座があり、その上に大きな石板が一枚置かれている。


「もしかして行き止まりなんか?」


「とりあえずあそこまで行ってみよう」


 俺たちは通路を通って祭壇に近づいた。


 祭壇の側面にはなにやら古代文字でびっしりと書かれているが、読めないので内容は分からない。

 石板は大きく欠けている。表面には魔法陣が彫り込まれており、中央には紫色の綺麗な石がはめ込まれている。


 俺はそっとその石に触れた。


「あっ」


 ぽろり。その石は一瞬にして石板から外れ、祭壇の上にころころと転がった。


「おい! いま壊しただろう!」


「触っただけで取れちゃったんだよ!」


「やーらかした、やらかしたー」


「くっ……! 直せばいいんだろ!」


 再びはめ込もうとするが、全く上手くいかない。結局俺は修復を諦めて、その宝石をポケットにしまった。


「これだけでも持って帰ろう……」


「人生妥協が肝心だよ、アケビくん」


 くすくすと笑いながら、ユウキは壁際の一画に向かった。そこには壁画が描かれている。


「見てくれ、みんな。どうやらこの部屋は当たりみたいだよ」


 俺たちはユウキの後に続いて壁画の下へと向かった。


 その壁画には、祭壇を囲む人々の姿が描かれていた。祭壇の上には裂け目が開き、そこから光が漏れ出している。


「どういう状況なんだ、これ?」


「分からない。だけど、この祭壇と『世界の果て』が関係しているのは間違いなさそうだ」


 これではっきりと分かった。古代人は「世界の果て」の存在を知っており、しかも利用していたということだ。

 しかし問題は、どうやってその「世界の果て」に干渉するのかということだ。


 そのとき、タオファは石板の方を振り返りながら指差した。


「あの魔法陣、使えないんか?」


 ユウキは石板のところへ戻って、じろじろと観察した後、首を横に振った。


「うーん、重要なところが欠けていて、作動しなさそうだ」


「そうか、なら仕方ねぇな」


 なにせ何百年も前のものだ。現存しているのを発見できただけでも大収穫だと言えるだろう。


「とりあえず残存している部分だけはメモっていくよ。みんなは他のところを調べていてくれ」


「あいよ」


 そうしてしばらく室内を探索した後、俺たちは部屋の真ん中に集合した。


「他に目欲しいものはなさそうだな」


「んじゃどうする? 上に戻るんか?」


「四層目に降りる別の階段があるかもしれない。三層目を調べながら帰ろう」


「そうだな」


 ダンジョン探索において一番大変な点は、一度潜った後に地上まで戻らなければいけないところにある。

 行きは良くても、無事に帰れるとまでは限らない。テレポートでもしてさっさと帰還できればいいのだが、そんな便利な魔法はないので、徒歩で地道に帰るしかないのだ。


「それにしても、収穫はこれだけかぁ」


 今回このダンジョンで得たものは、俺がいま手に持っている青い魔剣と、懐にしまい込んである紫色の宝石、そして欠けた魔法陣の三つだ。

 どれも貴重なものではあるが、正直言ってもっとたくさんの遺物やら財宝が眠っていると思っていたので、俺は内心がっかりしていた。


「まあいいじゃないか。みんな無事にここまで来られたし、『世界の果て』についての手がかりだってまた一つ得られたんだから」


「そうだよな。欲張っちゃいけないよな」


 ユウキが言う通り、まずはみんな無事に生きていることを喜ぶべきだろう。現金な思考になっていたことを俺は密かに反省した。


 三層目に戻った俺たちは、まだ行っていない方のエリアに足を踏み入れた。


 度々出現するクラウドスパイダーたちを倒しながら、先へ進んでいく。

 おそらく、あの巨大クラウドスパイダーが産んだ子供たちだろう。一匹一匹は小さくて弱いが、集まると結構厄介だ。

 発射された〈雲泡〉を避けきれずに食らうことも多々あり、俺たちはもう全身べとべとだった。


「気持ち悪い〜」


「帰ったら風呂に入れるから、我慢しよう」


「おら露天風呂に入りてぇなぁ」


「それいいね、気持ちよさそうだ」


 綺麗さっぱりを夢見ながら、三層目を探索していく俺たち。

 その結果、四層目に降りる通路はあの一つだけしかないことが判明した。つまり、これにてダンジョン探索は終了というわけだ。


「なんだよ、これで終わりか」


「まだ二層目の脇道の探索が残ってるけど、大体これで終わりってことでいいんじゃないかな」


「そんなに深くなくて良かったな。十層まであるとか言われたらどうしようかと思ったぜ」


「おらはまだまだ行けるけんどな!」


「よし、それじゃ帰りはタオファが先頭な」


「えっ……」


「よろしく、タオファくん」


「よろしく」


「うわーん! 変なこと言わなけりゃ良かった!」


 嘆き悲しむタオファの背中を押しながら、俺たちは上層へと戻っていった。


 一層目まで無事にたどり着くと、外はすでにすっかり明るくなっていた。長い間暗がりにいたものだから、日の光がいつもよりずっと眩しく感じる。


 「宵闇の蔵」から出てきた俺たちを、入口の守衛が温かく迎えてくれた。


「みなさん! よくぞご無事で帰られました! 本当に良かった!」


 守衛は嬉しそうに何度も俺たちの顔を見比べる。


 よくよく考えたら、俺たちは「宵闇の蔵」二層目以降に潜った初めての帰還者になるわけだ。ダンジョン内部へ探索に行く人間を何人も見送ってきた彼が、これだけ喜ぶのも無理はないだろう。


 そんな彼に、俺は心からの一言を投げかけることにした。


「すいません、一つだけお願いがあるんですけど」


「なんでしょう!」


「シャワー、貸してもらえますか?」


「もちろんです!」


 こうして俺たち「ビヨンド」の初めてのダンジョン探索は成功を収めたのだった。

アケビの現在の所持スキル

超越模倣(メタコピー)〉〈能力視認(スキルチェック)〉〈速算〉〈質量操作〉〈身体強化〉〈粘着〉〈分身〉〈地獄耳〉〈剛腕〉〈硬化〉〈熱感知〉〈動作予知〉〈縮小化(ミニマイズ)〉〈加速〉〈精神防護(メンタルガード)〉〈詠唱破棄〉〈俯瞰視点〉〈雲泡〉

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