23話「闘技大会二日目~表彰式~」
『これより表彰式が行われます。優勝者のアケビ・スカイ選手は、闘技場三階の空中デッキまでお越しください』
アナウンスに従って、俺は舞台を後にし、デッキへ向かう階段を上がっていく。
ようやくたどり着くと、そこには王国騎士団長メリルその人の姿があった。
「おめでとう、スカイ選手」
「ありがとうございます」
メリルは俺に表彰状を手渡した。「第36回闘技大会優勝」の文字が大きく書かれており、俺はじんわりと喜びを感じた。
「それから、君には賞金100万ジラの他、王国騎士になる権利が与えられる。どうだ、私と一緒に騎士団として王都を守らないか?」
名誉この上ない申し出だが、俺は首を横に振った。
「俺、目指してる場所があって、いま旅をしてるんです。申し訳ないんですけど、お断りさせてください」
「そうか……それは大変残念だ」
「その代わり、一つお願いがあります」
「うん?」
「王宮の図書館に『世界の果て』についての書物はありませんか? 調べてもらいたいんです」
するとメリルは首をかしげた。
「初めて聞いた言葉だな。だが、分かった。学者たちに言って調べさせよう」
「ありがとうございます」
これでまた一つ両親に近づける。俺は観衆たちに手を振りながら、ようやく湧いてきた勝利の実感に浸った。
◆◆◆
控え室から出た俺を待ち構えていたのは、数えきれないほどの人の群れだった。
「スカイ選手! うちの商会の用心棒になってくれませんか!」
「サインください!」
「どうか、うちの酒場の宣伝大使に!」
いっぺんに話しかけられて、誰が何を言っているのか分からない。俺は「すいません」「通してください」を連呼しながら、群がる人々を割って進んでいく。
そうして、入口で待つニアたちと合流するころには、もうへとへとになっていた。
「アケビ、やったじゃないか。優勝おめでとう」
「おめでとう!」
「ニャーゴ」
「みんなありがとう。おかげでなんとか優勝できたよ」
ニアからもらった〈動作予知〉がなければ、いまごろとっくに敗退していたに違いない。まさにニア様様といった感じだ。
「さあ、ぱーっと打ち上げようじゃないか」
「食べる! 飲む! 踊る!」
「ふふっ、踊るのかニアは」
「わたし、ダンスうまい!」
自慢げに言うニアを眺めながら、俺は闘技場を後にした。
活気のある通りをのんびりと歩きながら、俺はユウキに話しかける。
「そういえば『世界の果て』について、王宮で調べてもらえることになったよ」
「それは本当か!?」
目を丸くするユウキに俺はうなずいた。
「学者に言って調べさせるって言ってた」
「そうか。もしかしたら重要な事実が判明するかもしれないな」
いまのところ、俺たちの手元に手がかりは全くない。どんな些細な情報でもいいから欲しいところだった。
「それはそうと、どの店に入る?」
「うーん、そうだなぁ」
タオファと戦った後、ふと思ったことが一つある。それは、東方の料理が食べてみたいということだった。
俺は生まれてからずっとキセニアで暮らしてきたから、それ以外の地方の料理を食べたことがない。
せっかく首都まで来たからには、色んな料理を食べてみたいところだ。
「そうか。それじゃ東方料理の店を探さねばね」
「トーホー?」
「ここからずっと東にある国のことを東方って言うんだよ、ニア」
「東方、行く?」
「いずれは行くかもな」
何があってどこに行くか分からないこの旅だ。案外、近いうちに行くことになったりするかもしれない。
そうやって三人で会話しながら歩いていると、真っ赤な看板を見つけた。
「間違いない。この派手な色使いは東方の料理店だ」
「そうなのか」
「入ってみるかい?」
「ああ!」
店内は赤をテーマカラーとして、小ぎれいにまとまった雰囲気だった。ここなら落ち着いて食事ができそうだ。
ふと視線を巡らすと、見慣れたポニーテールがひょこひょこと揺れているのが見えた。
「タオファ!?」
「おや、アケビでねぇか! そっちの二人はパーティメンバーか?」
「ああ」
「ほら、ここ座れ。店長! 適当に料理追加してくれ!」
「あいよ!」
厨房から声がして、ジャージャーと料理を炒める音が聞こえてきた。美味しそうな香りが漂ってきて食欲をそそる。
「そういやおら、おめぇに一つ言おうと思ってたことがあんだ」
「なんだ?」
タオファはテーブルに手をつくなり、俺に向かって頭を下げた。
「頼む! おらをおめぇのパーティに入れてくれ!」
「「ええっ!?」」
俺は思わずユウキとハモってしまった。どういう風の吹き回しだろうか。
「あのまま勝ち逃げされたらたまんねぇと思ってな。それに、おめぇの強さの秘訣が知りてぇ! おらとたまに手合わせしてくれればそれでいいから!」
「ちょ、ちょっと待て。故郷に兄弟がいるって言ってただろ? それはどうするんだ?」
「ああ、それは大丈夫だ。冒険者ギルドには送金システムっちゅうもんがあっから。おらの兄弟はいつでもおらが稼いだ金を下ろせるんだ」
「えっ……」
絶句する俺の頬を、ユウキはにやけながらつつく。
「もしかしてアケビくん、知らなかったのかい?」
「知らなかった……」
「それで現金のまま持ち歩いていたのか」
「今回の大会の賞金も、冒険者ギルドの口座に振り込まれんだぞ。そのまま袋に入れて持ってくつもりだったんか?」
「うん……」
「あっはっは! おめぇやっぱり面白れぇ男だな!」
冒険者ギルドにそんなサービスがあったなんて。
カルチャーショックを受けた俺は、がっくりと落ち込みながら、テーブルに届いた茶をすすった。うん、ほどよい苦味がいまの心境にピッタリだ。
「それで、どうなんだ? おらを仲間に入れてくれるんか?」
「入れるのは構わないけど、その前にいちおう旅の目的を言っておかないとな」
「おめぇの両親に会う、ってやつか?」
「ああ、そうだ」
俺は「世界の果て」と両親のことについて話した。ユウキもそれに伴って、自分の身の上を軽く説明した。
タオファは話を一通り聞き終えると、納得したようにうなずいた。
「なるほど。それでいまは『世界の果て』について調べてるっちゅうことか」
「そうだ」
「旅の目的は分かった。おらも協力するよ」
「本当か!? 心強いよ」
「おらはバカだから、戦うことぐれぇしかできねぇけんどな」
それだけでも十分すぎる。俺が礼を言うと、タオファは慌てて両手を振った。
「いや、元はと言えばおらがついていきてぇって言い出したんだから、礼なんかいいって。それよりほら、料理来たぞ」
「うわぁ、でけぇ!」
巨大なアヒルのフライが出てきて、俺たちはびっくり仰天した。こんな豪快な料理、生まれて初めて目にした。
「これくれえ、ぺろっと行けんだろ?」
「もちろん!」
俺たちはこぞって肉をこそぎ始めた。試合で疲れた体に鳥の脂が染み渡る。
「「「うまい!」」」
「東方の料理はまだたくさんあるかんな! どんどん食ってけ!」
タオファに促され、俺たちは店長の作る絶品料理を堪能していった。