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22話「闘技大会二日目~トーナメント決勝~」

 決勝戦の相手が決まった。その名はタオファ。

 バルダーと同じく、予選で出会ったポニーテールの女性だ。


 あれだけの強敵に、一体どうやって戦えばいいのだろうか。

 正直なところ、勝てるビジョンが全く思いつかない。でも、ここまで来たからにはもう、やれることをやるしかない。


『決勝戦に進出した選手は入場してください』


「よし、いっちょ行きますか!」


 自分自身に言い聞かせるようにそう言うと、俺は立ち上がった。

 この控え室に戻ってくる頃には、もう決着がついているだろう。


 舞台へつながる入口をくぐり抜けると、最高潮に達した会場の熱気が俺を包んだ。


 向かいには、タオファが腰に手を当てて立っている。


「おめぇ、やっぱり勝ち上がってきたんだな。おらの目に狂いはねぇ」


 そう言いながら、彼女は俺のことを指差した。


「それにおめぇ、予選のときより強くなってんな? 戦うのが楽しみだ!」


 まさか、ユニークスキルが増えたのがバレているのか?

 普通なら気づかれるはずはない。しかしタオファには、彼女のような強者ならそういうこともあるのかもしれない、と思わせるオーラがあった。


「お手柔らかに頼むよ」


「そいつはできねぇ相談だ」


 お互いに笑いながら握手を交わすと、俺たちは向かい合って構える。


 タオファは左手を前方に据え、右手を握って後方に控えた。

 この構えだ。独特なこの構えから、無数の手筋が湧いてくるのだ。


 俺はいつものように自然体に構えた。どんな相手であろうと、全力でぶつかるだけだ。


『それでは、決勝戦を開始してください』


 そして会場に銅鑼の音が響き渡る。


 一回。


 二回。


 三回。


 銅鑼が鳴り終えても、俺たちはじっと対峙したまま動かなかった。


 〈動作予知〉がうるさいくらいに作動している。どこから行っても迎撃されるだろうという予知はバトルロイヤルのときと全く同じだ。


 だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。俺はじりじりと間合いを詰めてから〈加速〉を使って一息に接近した。


 ヘビのような鋭い手刀が俺の首筋に襲い掛かる。俺は屈んでそれを避け、わき腹に向かって右足で水平に蹴りを入れた。


 タオファはそれをしっかりガードしながら叩き落し、一歩踏み込みながら裏拳を打ち込んできた。俺はその裏拳を払いのけるようにして捌き、右の拳を放つ。


 ぐるりと腕を回して俺のパンチを捌いたタオファは、俺の腹に右の掌底をぶち込んだ。避けきれないと悟った俺は、後方に吹っ飛んでダメージを最小限にとどめながら距離を取る。


「少しはやるでねぇか!」


 タオファは楽しそうに笑う。


(〈加速〉込みでこれかよ……!)


 驚くべきことに、全身〈加速〉することによって、俺はようやくタオファと互角に戦えていた。


 逆に言えば、〈加速〉された俺の攻撃を、彼女は素の身体能力だけで捌き切っていることになる。

 どんだけ強いんだよ!


「来ねぇならこっちから行くぞ!」


 タオファはだんと踏み込み、一瞬で俺の間合いに入り込んだ。瞬間移動したかのようなその瞬発力に、俺は目を剥いた。


 飛んできた鋭い突きを身をひねってかわし、その勢いを利用して左のアッパーカットでタオファの顎を狙う。すると彼女は首をかしげてそれを避け、華麗な上段蹴りを放った。


 ガードしてもよろけてしまうその威力に耐えながら、俺はみぞおち目掛けてボディブローを放つ。タオファはその拳を受け止めると、水の流れを変えるかのようにくるりと回した。


「っ――!?」


 気づいたときにはもう遅い。俺はいつの間にか空を見上げていた。投げられたのだ。


 しかし、タオファはのんきに待ってなどくれない。顔面目掛けて足が振り下ろされる。

 俺はごろごろと転がりながらそれを避け、〈身体強化〉〈質量操作〉と体のばねを利用して立ち上がった。


 タオファはふと攻撃の手を止めると、俺に向かって声をかけてきた。


「アケビって言ったか」


「ああ」


「おめぇは何のために戦ってる?」


「何のために……?」


 「ふぅ」と息を吐くと、タオファは頭上に広がる大空を見上げた。


「おらの村には五人の兄弟が待ってる。おらはそいつらを食わせてやらねばなんねぇ。この大会の優勝賞金があれば、うめぇもんを食わせてやれるし、あったけえ服だって着せてやれる。だから絶対(ぜってぇ)に負けられねぇんだ!」


「俺は……」


 この大会に出たのは、金のため? それとも知名度のため?


 違う。それは副次的な目的であって、主目的ではない。

 俺がこの旅に出た理由は――そうだ。


「いなくなった両親を探してるんだ。俺だって負けるわけにはいかない!」


「ああ、そうかい! だからって、負けてはやれねぇぞ!」


「当然だ!」


 俺たちは互いに接近すると、高速の打ち合いに入った。

 俺はさっきみたいに投げられないよう重心に注意しながら、〈加速〉状態で拳を繰り出していく。

 一方、タオファは流麗な動きでそれらを捌きつつ、隙あらば拳や掌底を当ててきた。


 〈加速〉のフィードバックに加え、わずかなダメージの蓄積が俺の体を苛む。

 俺が徐々に攻撃の勢いを失う一方、タオファはだんだんと技の精度を増してきた。


 このままではまずい。そう思った俺は、奥の手を出すことにした。


 回し蹴りを放ったタオファの脚を掴むと、俺は〈粘着〉で強引に引っ張って体勢を崩させようとした。


(なんて体幹してやがる……!)


 タオファの体は、床にがっしりと根を張ったように動かない。結果、俺たちは互いに引っ張り合いながら膠着状態となった。


「時間稼ぎして体力を回復しようって寸法だな? くだらねぇ悪あがきはやめろ!」


「そいつはどうかな!」


「っ……!!?」


 空中に現れた俺の分身体が、〈質量操作〉で重くなった全体重をタオファの左脚に乗せてまたがった。


「ぐ、ああっ……!」


 タオファはたまらず悲鳴を上げた。膝が曲がってはいけない方向に軋んでいる。見るからに痛そうだ。


「降参するならいまのうちだぞ?」


「降参は……しねぇっ……!」


 それでもタオファはめげなかった。俺の分身体の胸元に両の掌底をぶつけ、その体を強引に俺の方に押し倒す。


「うおっ!」


 分身体のあまりの重さにバランスを崩した俺は、慌てて〈粘着〉と〈質量操作〉を解除した。

 俺と分身体は揉み合いながら地面に倒れこんだ。


「はぁ……はぁ……いまのは危なかった……!」


 痛めた左脚を引きずりながら、タオファは構えを取る。まだまだやる気のようだ。

 俺も分身体と横並びになって身構えた。


 脚をやられて動きが鈍っているこのタイミングが好機。二人の俺は、両側から挟むようにしてタオファに殴りかかった。


 タオファは、それらのパンチを円を描くようにして捌いていく。しかし〈加速〉した相手に二対一では多勢に無勢。徐々に俺たちの攻撃は当たるようになっていった。


 そしてついに、そのときはやってきた。


 分身体の連打を身をひねって避けた隙に、俺本体のパンチがタオファの腹部を捉えた。〈質量操作〉により吹き飛んだタオファは、場外ギリギリのところで踏みとどまる。


「危な――つうっ……!」


 彼女の左の膝ががくんと折れ、よろけたのを俺は見逃さなかった。


 刹那、俺の分身体が大手を広げてタオファに飛びかかった。

 タオファはそれを迎撃するため、視線を斜め上にあげながら拳を放つ。


 その瞬間、分身体はぼわんと煙を上げて消滅した。


「なっ――!」


 困惑するタオファの腰に向かって、俺は全力で体当たりをかました。

 とっさの出来事に体勢を崩したタオファは、場外の床にどさりと倒れこむ。


「へへっ。作戦成功、ってね」


「おめぇ、これを狙ってたのか……!」


『勝負あり! 勝者、アケビ・スカイ!』


 観客席から一斉に歓声が沸き起こる。

 そうか。俺、勝ったんだ。夢の中にいるようで、なんだか実感が湧かない。


 タオファは舞台上に戻るなり、俺に手を差し出した。


「おめでとう、アケビ。文句なしにおめぇが優勝だ」


「ありがとう」


「次やるときまでに鍛え直しておくよ」


「まだ俺とやるつもりなのか!?」


「当たり(めぇ)だ。負けっぱなしではいられねぇ!」


 どうやら俺は彼女の闘志に火をつけてしまったようだ。俺はやれやれと思いながら苦笑した。

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