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21話「闘技大会二日目~トーナメント準決勝~」

 控え室の椅子に座っている俺は、自分の手を見下ろしながら握ったり開いたりした。


 グント戦でのダメージは完全に癒えたとまでは言えない。しかし、闘技場に常駐している医療班スタッフたちの的確な治療のおかげで、無理なく動けるというところまでは回復した。


 トーナメント二回戦の相手はバルダー。予選で〈動作予知〉と〈能力視認(スキルチェック)〉を寄せ付けなかった、例の長身の男だ。


 彼とどうやって戦うかはだいたい決めている。あとはそれが通用するかどうかだ。


『それでは準決勝戦第一試合を始めます。出場する選手は入場してください』


 アナウンスが聞こえ、俺はすっくと立ち上がった。


 ここで勝てば決勝戦へと進出できる。絶対に落とせない大事な一戦だ。


「ふぅ~」


 いつも通り戦えば大丈夫だ。俺は深呼吸をして、全身リラックスしたのを感じ取ると、ゆっくりと歩き出した。


 舞台に躍り出ると、観衆の歓声が俺の体を包み込む。ドキドキと心臓が拍動し、体の隅々まで血液を送り出す。


「バトルロイヤルでは世話になったな」


「あのときは逃げた。でも今回は逃げないから」


「ああ。正々堂々勝負できるよう願っているよ」


 俺はバルダーと握手を交わすと、一定の距離を開けて互いに身構えた。バルダーは拳を前に突き出したボクシングスタイル。一方、俺は手足を軽く広げて斜めに腰を据える自然体だ。


『それでは準決勝戦第一試合、開始してください』


 銅鑼の音が鳴り響き、それが試合開始の合図となる。


 一回。


 二回。


 三回鳴った瞬間、俺は駆け出した。


「っ……!」


 会場全体に「ああっ」という驚愕の声が漏れる。

 それもそのはず。俺とバルダーが同時に地に伏したからだ。


 床のひんやりとした感触が俺の体を支えている。

 辛うじて残った意識の中で、俺はいま何が起こったのかを思い出した。


 俺が取った戦法はずばり、先手必勝。戦闘の技術で及ばないなら、本格的な戦闘に入る前に力で潰してしまえばいい。そう考えた。


 試合開始直後、〈身体強化〉〈質量操作〉〈加速〉を使った超スピードのダッシュで一気に距離を詰めた俺は、バルダーのみぞおち目掛けて〈硬化〉した拳を打ちつけた。

 一方、それを見切ったバルダーはカウンター狙いで俺の顔面に拳を振り下ろした。


 その結果はというと、両者の攻撃が同時にヒット。〈質量操作〉で軽くなり後方に吹き飛んだバルダーと、その場にくずおれた俺がともに倒れたのだった。


(早く起き上がらないと……!)


 両者ともに気絶した場合、先に意識を取り戻して立ち上がった方が勝者となる。俺は全身の力を奮い立たせて必死に起き上がろうとするが、なかなか体が動いてくれない。


 一方、バルダーはむくりと起き上がると、苦しそうに膝をついた。

 なんだかいまにも起き上がりそうな勢いじゃないか。俺の全力の一撃が効かなかったとか勘弁してくれ。


 観客たちが固唾を飲んで見守る中、やがて一人の男が起き上がった。


 バルダーは両足でしっかりと立つと、両手を挙げて観衆に勝利をアピールした。


『勝負あり!勝者、バルダー――』


 アナウンスが流れようとしたその瞬間だった。


「ぐはっ……!」


 バルダーは口から血を噴き出すと、再び膝をつき、ついには床の上へと転げた。


 それから少し遅れて、俺はようやく立ち上がった。まだ視界がグラグラしているが、真っ直ぐ立てないほどではない。


 そして会場がざわつく中、再びアナウンスが流れる。


『失礼いたしました。勝者、アケビ・スカイ!』


 観客席にどよめきが走り、それから次第に拍手と歓声が上がっていった。


 かなり危なかったが、結果オーライだ。俺は痛む頭を押さえながら、バルダーの下へ向かった。


 バルダーは背を丸めて苦しそうに息をしていたが、俺の存在に気がつくと仰向けになり、拳を突き出した。


「やられたよ。まさかたった一瞬で決着がつくなんてね」


「負けたかと思ったよ」


「俺も勝ったと思った」


 二人で笑い合うと、バルダーはげほげほと咳き込みながら血を吐いた。


「ううっ……」


「腹、大丈夫か?」


「いや、どうやらダメそうだ。担架を呼んでくれ」


 俺は近くにいたスタッフに声をかけて、担架を呼んでもらった。

 それが到着するまでの間、俺はバルダーに付き添ってしゃがんでいた。


「そういえばあんたのユニークスキル、結局なんだったんだ? 俺の〈動作予知〉が通用しなかった」


「勝者に聞かれたら、答えないわけにはいかないな。〈精神防護(メンタルガード)〉だ」


「〈精神防護(メンタルガード)〉?」


「精神に干渉する魔法やスキルを受け付けないスキルだ。げほっ……ごほ……君のその予知というのはおそらく、相手の精神に働きかけて動きを読み取っているんだろう」


 なるほど。ユニークスキルの原理についてなんて考えたこともなかった。それでバルダーの動きを予知できなかったのか。


 このスキルは有用だと俺は確信した。なんとかして習得することはできないだろうか。

 俺は試しに〈能力視認(スキルチェック)〉を何度も繰り返し使って、バルダーの〈精神防護(メンタルガード)〉を強制的に発動させることを試みた。悪いなバルダー、もう少しだけ頑張ってもらうぞ。


 10回……20回……25回……

 そして、28回目の発動時だった。


(来たっ!)


 自分の肉体に新たな力が芽生えたのを感じ、俺は自分の手を〈能力視認(スキルチェック)〉で見つめた。〈精神防護(メンタルガード)〉、これで無事にゲット。ありがたく使わせてもらう。


 そのときちょうど担架がやってきて、バルダーはその上に乗せられた。


「この俺に勝ったんだ。優勝してくれるよな?」


「ああ、必ず優勝してみせる」


「それを聞いて安心したよ」


 バルダーは目をつむると、医療班スタッフに運ばれていった。

 これでようやく二勝。残すは決勝戦だ。俺はぐっと拳を握りしめた。

アケビの現在の所持スキル

超越模倣(メタコピー)〉〈能力視認(スキルチェック)〉〈速算〉〈質量操作〉〈身体強化〉〈粘着〉〈分身〉〈地獄耳〉〈剛腕〉〈硬化〉〈熱感知〉〈動作予知〉〈縮小化(ミニマイズ)〉〈加速〉〈精神防護(メンタルガード)

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