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19話「闘技大会初日〜バトルロイヤル〜」

 俺は横から殴りかかってきた男を〈質量操作〉で蹴り飛ばすと、後ろからの打撃を〈硬化〉で受け止め、殴り返した。


 ニアからもらった〈動作予知〉のおかげで、どこをどう動けば攻撃に当たらずに済むか、そして乱戦に巻き込まれずに済むかが、手に取るように分かる。


 ただ、そうは言っても分かる(・・・)だけであって、実際に体を動かすのは俺自身だ。予知についていくのはとても大変な作業だが、やり抜くしかなさそうだ。


 俺は戦場を泳ぐかのように攻撃をすり抜けながら、隙を見て着実に一人ずつ倒していった。


 そうしてしばらく戦っていたあるとき、俺はとっさのパンチを避けきれず、肩口に食らってたたらを踏んだ。


 振り向くと、そこには長身の男が立っていた。背丈は優に2メートルはあるだろうか。


 こいつ、なぜか〈動作予知〉が効かない。それどころか〈能力視認(スキルチェック)〉さえ発動できない。


「しっ! しっ!」


 男はかけ声とともに立て続けにパンチを放ってきて、俺のガードを上からガツンと揺らした。


 スキルが効かないなら、普通に殴り倒してしまえばいい。そう言うと、至極簡単な作業であるかのように聞こえる。


 しかし、話はそう単純ではない。リーチ・戦闘技術ともに劣る俺が、〈動作予知〉なしでこいつにまともな攻撃を通せるとは思えないのだ。


 それなら、さっきやったみたいに〈硬化〉で反撃すればいいじゃないかと思うかもしれないが、それは話が違う。


 控え室で起きた喧嘩の際に〈硬化〉で上手く反撃できたのは、相手が俺のことを弱いと思って油断していたからだ。


 それに、周囲に大きな隙を晒すカウンター狙いの〈硬化〉はリスクが大きく、一対多の混戦中には使いたくない。


 そんなわけで、いまの俺にこの長身男を倒すのは難しいという結論に至った。


(こういうときは……これしかない!)


 俺は男の隙をうかがうと、近くで起こっている乱戦のどさくさに紛れて逃げ出した。


「おい、待て!」


 俺を呼び止める声が背後から聞こえたが、そんなものは関係ない。

 苦手な相手とまともにやり合う必要はない。最後までこの舞台の上に立っていれば、それでいいのだから。


 まんまと逃げおおせた俺は、次のターゲットを求め、戦場を縫って歩いた。


 よし、次はあいつにしよう。

 俺は舞台端に一人でたたずんでいる小柄なポニーテールの女性に向かって拳を振るおうとして、ぴたりと止まった。


 この女性、強すぎる。〈動作予知〉によれば、どこからでも近づいた瞬間に瞬殺されるだろう。

 彼女のユニークスキルは〈俯瞰視点〉。自他の動きを客観的に捉えることができるらしい。その強さを支える納得のスキルだ。


「ありゃ、おめぇはおらの強さが分かるんか?」


「勝てない戦はしない主義なんだ」


「ありゃ、そうなんか。おらはおめえと一度手合わせしてみてぇけんどもな」


 左手を前に突き出し、右手を後ろに控えるような形で女性は拳を構えた。堂に入ったそのフォームは、長年積み上げた研鑽の日々をうかがわせた。


「いまは遠慮しとくよ」


「なんだ、つまんねぇ。もし決勝トーナメントで当たったら、そのときは手抜くでねぇぞ」


 女性は俺に対してしっしっと手を払うと、向かってきた別の選手たちを千切っては投げていく。まるで嵐のような光景に恐れおののきながら、俺はその場を離れることにした。


 開始時には舞台からあふれそうなほど立っていた選手たちも、もう残り半数を切った。いよいよ大詰めといった感じだ。


 俺は近くで戦っていた〈軟体〉男に接敵した。

 俺は〈硬化〉した拳で殴りつけたが、男の体はぐにゃりと凹んでそれを受け止めた。


「へっへっへ、効かねぇよ!」


「だったら、こいつはどうだ?」


「な……重っ……」


 俺は拳を当てたまま、〈質量操作〉でそいつの体重を思い切り重くした。

 自重(じじゅう)に押しつぶされた〈軟体〉男は、ぐしゃりと潰れるようにして気絶した。


 続いて攻撃を仕掛けてきたのは〈音波〉を発する男だった。大音量で歌われると耳がキンキンして痛い。


「マァ〜♪」


 その隙を好機と見たか、男はラッシュで畳み掛けてきた。俺は必死にガードを固めた。


 そのとき、俺ははっと気づいた。音波なら、聞かなければいい。

 俺は耳の中を〈硬化〉させた。そのまま体を丸めてパンチを防ぎながら、音が収まるのを待つ。


 やはりそうだ。無音の世界にいると、だんだん調子が戻ってきた。


「〜♪ 〜♪」


「何言ってるか分かんねぇよ!!」


 俺はストレートパンチをかいくぐると、〈身体強化〉と〈硬化〉を使い、相手の腹部に一発パンチをお見舞いすることに成功した。


 鋼鉄の拳を食らった男は、悶絶しながらくずおれた。よし、これでまた一人敵が減った。


 そろそろ最後の八人になってもいいんじゃないか? そう思い、俺は周囲に視線を巡らせる。


 舞台の対角では、ちょうどグントが敵を殴り飛ばすところだった。彼は平手を小刻みに振ってストレッチした後、背後から襲いかかってきたもう一人の相手にカウンターをぶちまける。


 その瞬間、銅鑼の音が鳴った。


『これにて予選終了だ。いまこの舞台に立っている八名は、明日の決勝トーナメントに進出する』


 俺は安堵のため息をついた。まずはスタートラインに立てたと言っていいだろう。ここからが本番だ。


 試合が終わった途端、どっと疲れが押し寄せてきて、俺は地面にへたり込んだ。思ったよりも緊張していたらしい。


「何だよ、だらしねぇな、アケビ」


 ふと声がして見上げると、グントが腰に手を当てながら笑っていた。


「これで俺たち二人ともトーナメント進出だな!」


「ああ、なんとかな」


 グントから差し伸べられた手を握り、それを支えにしながら、俺は立ち上がった。


「もし当たったら、そのときはお互い全力でやり合おうぜ」


「もちろんだ」


 退場しながら、俺たちは健闘を讃えあった。孤独な戦いだと思っていたこの闘技大会で思わぬ友ができ、俺は喜びを噛みしめるのだった。

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