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18話「闘技大会初日〜入場前〜」

 闘技大会開催初日の朝。

 バジラントの中心部に位置する闘技場には、すでに大勢の人たちが詰めかけていた。


 闘技場の外には屋台が立ち並び、食べ物やグッズなどを販売している。まさに、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


 俺は闘技場の入口で立ち止まると、ニアとユウキの方へ向き直った。


「ニアのこと、よろしくな」


「ああ、任せておいてくれ。私たちは客席で観戦しているからね。ベストを尽くせるよう頑張って」


「アケビ、がんばれ!」


「ああ、ありがとう。それじゃ行ってくる」


 俺は二人に手を振ると、選手専用の入場口から闘技場の控え室へと進んでいった。もうすぐ入場が始まる時間だ。


 控え室の中では、選手たちが各々のやり方でウォーミングアップをしている。俺は特にやることもないので、周りの選手の様子を眺めながらボーッとしていた。


 すると、横から何者かに肩を叩かれ、俺は振り返った。


「なあ、そこの兄ちゃんよ」


「ん?」


「ここはな、お前みたいなガキが来るところじゃねぇんだよ!」


 俺は〈動作予知〉で動きを見切ると、その男が振るった巨大な拳をギリギリのところで交わした。


「なんだよ、いきなり。失礼じゃないか?」


「この程度でやられるようじゃ勝ち残れねぇって、先輩である俺が教えてやってんのよ」


 男はスキンヘッドをなでつけながらへらへらと笑った。

 周りの選手たちは血気盛んな者が多いのか、はやしたてるばかりで止めに入ろうとはしない。


 俺はやれやれと思いながら首を振ると、両の手を構えた。


「いいよ。やるってんなら受けて立つ」


「そのすかした態度が気に入らねぇのよ!」


 男はその巨体からダイナミックなジャブを放った。〈骨膨張〉を使って体格を大きくしているのか。なるほど、戦いの筋は悪くなさそうだ。


 だが、大口を叩くほど強くはない。俺は〈粘着〉を使って地面に根を張ると、〈硬化〉で全身をガチガチに固めた。


 俺の頬を全力で殴りつけた男は、手を押さえながら慌てて飛び退いた。


「痛ってぇ! なんだこいつ!?」


「なんだ、もう終わりか? 今度はこっちから行くぞ」


「ちょ、待っ――」


 俺は男の腕を抱えると、〈身体強化〉と〈質量操作〉を使って背負い投げをした。

 空中で一回転して地面に叩きつけられた男は、受け身を上手く取れなかったのか、白目を剥きながら気絶した。


 残念ながら、彼はもうここでリタイアだろう。俺に喧嘩を吹っかけなければこんなことにはならなかったのに、可哀想な男である。


 一部始終を眺めていた周囲の選手たちから「おおー」という感嘆の声が漏れ、控え室は再び元の静けさを取り戻した。


「お前、なかなかやるじゃん」


 一息ついた俺のところに、今度はオレンジ色のツンツン髪をした少年が近づいてきた。俺は服についたホコリを払いながら、そちらに向き直る。


「俺、グントってんだ。よろしく」


「俺はアケビだ。よろしく」


 俺はグントが差し出してきた手をゆっくりと握った。何か企んでいるのかと訝しむ俺の様子を察してか、彼は両手を広げて見せた。


「何もしねぇよ。俺と同じくらいの年齢の選手がいるってんで、気にしてただけだ」


「そうだったのか。疑って悪かったな」


「いや、いいさ。いまここにいるのは全員ライバル同士だもんな」


 グントは鼻をこすりながら爽やかに笑った。この感じだと裏はなさそうだ。気を張っていた俺はようやく安堵した。


「お前、どこ出身? 俺はグラフィスから上がって来たんだ」


「俺はキセニアから」


「おい、マジか! 隣町じゃねーか! ほぼ同郷だな!」


 グントはバシバシと俺の背中を叩いて喜んでいたが、そのうち真剣な眼差しで俺を見つめた。


「地方出身で学もない俺が大きく成り上がるには、金と知名度が必要なんだ。だから俺はこの大会に懸けてる。お前だってそうだろ?」


「ああ、まあな」


 俺も彼と同じく、両親を探すために金と知名度が必要だ。二人とも見ている夢は同じということか。


『選手の皆さまは入場してください』


 ちょうどそのとき、頭上のスピーカーからアナウンスが流れ、俺たち選手一同は舞台への入場を開始した。


「お互い、頑張ろうぜ!」


「そうだな、頑張ろう」


 俺とグントは互いの肩を叩くと、それぞれ入場の列の中に紛れ込んだ。


 闘技場の舞台には、いまや数えきれない人数の選手たちが立ち並んでいる。彼らがみんな敵だと思うと、武者震いがしてきた。


 そのとき、闘技場の上に少しせり出した高台に、ブロンドのボブカットをした鎧姿の女性が現れた。


『選手諸君、ごきげんよう。私は王国騎士団団長メリル・バートンだ。これより、闘技大会予選の内容を発表する』


 闘技大会の予選種目については、事前の通知が一切なかった。

 ユウキの話によると、毎年違った内容にすることで、事前の予習ができないようにしているそうだ。この大会では現場での適応力も試されるということだろう。


 俺は固唾を飲んでアナウンスを待ち構えた。


『予選の種目はバトルロイヤルとする。気絶するか場外に落ちた時点でその選手は失格。最後まで残った最大八名を決勝トーナメント進出者とする。銅鑼が三回鳴ったら試合を始めること。以上』


 観客席から一気に歓声が上がり、すぐさま銅鑼が鳴り響く。


 一回。


 二回。


 そして三回。


 刹那、舞台の上は血湧き肉躍る戦場へと姿を変えた。


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