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17話「そうだ、王都行こう」

 俺たちはいまディクトルを通り抜けて、さらに北上しているところだ。目指すはバジラント。魔物を寄せ付けない聖なる森を出て、いまは草原を通る街道を進んでいる。


 ユウキはふと思いついたようにニアに話しかける。


「そういえば、ニアくんはヤンテ語がしゃべれるんだってね」


「うん」


「何かしゃべってみてくれないかい?」


「わかった。used nia ah eaman on isataw」


「ふむ、なるほどね」


 ユウキは訳知り顔でうんうんとうなずいている。俺は驚いて、彼女の顔をのぞきこんだ。

 もしユウキがヤンテ語を理解できるのだとしたら、ニアとのコミュニケーションがとても円滑になる。そんなに嬉しいことはないだろう。


「なあユウキ、もしかしてヤンテ語が分かるのか!?」


 期待に胸を膨らませて尋ねる俺を、ユウキはドヤ顔で見返すと、あっけらかんと言い放った。


「さっぱり分からないや」


「分かんないのかよっ!」


 俺はそう叫ぶと、がっくりと肩を落とした。思わせぶりなユウキの態度にはいつもこうして振り回されている気がする。


 そんな風にのんびりと会話を交わす俺たちの目の前に、突如三匹のゴブリンが現れた。

 魔物はいつだって突然に襲ってくる。


 ユウキの肩に乗っていたルナは、戦闘開始と見るやいなや、俺たちの邪魔にならないよう空中にふわりと舞い上がった。賢い使い魔だ。


「さて、それじゃあ、二人のお手並み拝見と行きますか」


「言われなくても!」


 俺は剣を、ニアは杖をそれぞれ構えてゴブリンに接敵する。


 まずターゲットにされたのはニアだった。ゴブリンたちは棍棒を振り回しながらニアの方へ駆け寄っていく。


 それを目にしたニアは〈動作予知〉できっちり狙いを定めると、ヤンテ語の呪文を詠唱した。


「erif oreom!」


 杖の先端から放たれた火球が、中央にいたゴブリンの胴体を打ち払い、その全身を焼き尽くしてチリと化す。


 ニアの方に向かうのは難しいと見た一匹のゴブリンは攻撃対象を変え、俺目掛けて飛びかかってきた。


 俺は〈動作予知〉でゴブリンの着地点を予測し、その位置にぴったり当たるようにして〈硬化〉した剣を突いた。

 着地際に心の臓を貫かれたゴブリンは、青い血を吐き出しながら地面にくずおれた。


「いいね。それじゃあ私も――っと!」


 最後に一匹残ったゴブリンによる棍棒振り下ろしを身をひねって避けると、ユウキは腰に提げた刀の柄に手をかけた。

 そしてユウキが抜刀したと思った刹那、いつの間にかゴブリンの頭が胴体から切り離されていた。


「は、早えぇ……!」


 ユウキのユニークスキルは〈詠唱破棄〉。ノータイムで魔法を放てる高性能スキルだ。

 それにしたって、いまの現象はどう理解すればいいのだろうか?


 唖然とする俺たちを見て、ユウキは自慢げに説明してくれた。


「雷魔法で体を加速させたのさ。魔法のちょっとした応用だね」


「いや、聞いても分かんないわ。さすがユウキ」


「ユウキつよい!」


「ふふ、ありがとう。まあ、ここまで技術を研鑽するのに10年以上は費やしているからね。それ相応の強さは見せておかないと」


 それを聞いた俺は、ふと思い出した疑問をユウキにぶつけてみることにした。


「なあユウキ、ずっと気になってたんだが、お前の実年齢っていくむぐっ」


「レディに年齢を聞くものではないよ、アケビくん?」


「わかりまひた……!」


 両の頬を握り潰されるとともに、ガチで殺されるかと思うほどの殺気を感じ、俺は絶句した。ユウキに年齢の話は二度と振るまい。


 ともあれ、ゴブリンの群れを無事片付けた俺たちは、戦利品を漁り終えると再び歩き出した。

 そのまま道なりにしばらく進んでいくと、やがてそびえ立つ城壁が見えてきた。


「あれがもしかしてそうなのか?」


「そうだよ。アルカ王国の首都バジラントだ」


「でかい!」


 ニアは大喜びで飛び跳ねた。さすが首都というだけあって、都市の規模はいままでに通ってきた町とは比べものにならないほど大きい。


 近づくに連れて、その城壁はより高く堅固に見えるようになっていった。これを突破するのは容易ではないだろう。


 俺たちは城門に続く入場列の最後尾に並んだ。

 ゆっくりと、しかし確実に順番が近づいてくる。俺たちは若干緊張しながらそのときを待った。


「次の者、前へ」


 俺たちは冒険者カードを掲げて見せる。衛兵はそれを一瞥した後、こくりとうなずいた。


「通ってよし」


 なんと、ほぼ顔パスで通れてしまった。冒険者の立場がどれだけ優遇されているか分かる一幕だった。二人ともなっておいて本当に良かった。


 城門をくぐり抜けた先には、いかにも都会的な街並みが広がっていた。

 道路はきれいに舗装され、たくさんの魔導車が行き交っている。建物はどれもレンガ造りの頑丈な設計だ。一定間隔に街灯が立ち並び、アルカ王国の小さな旗がはためいている。


 俺はその光景に見惚れてきょろきょろと周囲を見渡した。ニアも俺と同じように、興味津々で視線を巡らせている。

 やばい、どうしよう。都会だと思ったら急に緊張してきた。手は、足は、どう動かせばいい?


「二人とも、がっつきすぎだ。もっとリラックスして」


「リラックス、リラックス……」


 体の力を抜いて、余計な思考を頭から消し去ってみる。何も考えず、両腕をだらんと垂らし、ぼけーっと空中の一点を見つめる。


「それはだらけすぎ」


「難しいんだよ、加減が!」


 ぎくしゃくする体をなんとか動かしながら歩いていくと、俺は街中のいたるところに同じポスターが貼ってあることに気がついた。


「なんだ? イベントかなにかやるのか?」


「どうやらこれは、闘技大会のお知らせみたいだね」


「闘技大会?」


 そのうちの一枚に近づいた俺たちは、仔細を眺めた。

 第三十六回アルカ王国闘技大会。優勝者には賞金100万ジラ……!?


「よし、出よう」


「いや、早いな判断が」


 活躍すれば名声が得られて、ついでに賞金ももらえてしまう。こんなに美味しい話はない。

 それに、俺のユニークスキルがどこまで通用するのか、実力者相手に試してみたいというのもある。


「ユウキは出ないのか?」


「私はこういうのには全く興味ないからね。パスだ」


「ちぇっ、つまんないの」


「私の戦闘技術は魅せるために鍛えたわけじゃないからね。良くも悪くも実戦向きなんだよ」


「なるほどね」


 彼女が言っていることが本当だというのは、先ほどの戦闘でよく分かっている。いくら賞金が欲しいからといって、無理強いすることもないだろう。


「わたしもやる!」


「いや、魔法も武器も禁止だからニアは無理だと思うぞ。観客席で応援しててくれ、な」


「うん、分かった……」


 ニアは残念そうにうつむいた。活躍できるところを俺たちに見せたかったのだろう。彼女にはまた別の機会に頑張ってもらうことにしよう。


「開催は――五日後か」


 まだ見ぬ強者たちとの戦いを想像した俺は、高鳴る胸の鼓動を感じながらにやりと笑った。

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