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16話「呪いってなかなか解けないよね」

 俺たちがボロ小屋にたどり着いてから早三日が経った。

 ミーナ特製の薬湯のおかげで、少女の体調はみるみるうちに回復していった。


 そして俺たちは、身の上話が出来るくらいに回復した少女から、こうなった経緯について聞くことができた。


 彼女の名前はユウキ・エンフィールド。

 高名な魔術士として北方で活動していたのだが、あるときとんでもない強敵に出会い、肉体年齢が少女の頃に戻る呪いをかけられてしまったそうだ。


 その呪いを解く方法を探す旅をしていたのだが、ちょうど首都を出た辺りで高熱に倒れてしまい、薬学に明るい者が多く住むここディクトルに命からがらたどり着いた。


 なんとか町の近くまで到着したはいいものの、無理がたたって動けなくなってしまったため、自分の代わりとして使い魔のルナを使いによこして、誰か助けてくれる人を呼ぼうとしていたらしい。


「全く、人騒がせにもほどがあるよね。ごめんなさい」


「いや、一人旅ならそういうこともあるだろうさ。とにかく無事で良かった」


「元気、嬉しい!」


「二人ともありがとう。それと、そこのお嬢さんもね」


 落ち込むユウキを、俺とニアは笑顔で慰めた。

 一方、ミーナはまだ彼女を信用しきれないらしく、半信半疑といったていで少し距離を置いている。


「それじゃあ、冒険者ギルドには実害なしってことで報告しておいていいよな」


「そうしてもらえると助かるよ。本当なら元のサイズで町には入れさせないんだけど、事態が事態だけに仕方なかったんだよね」


 ちょっと待て。いまなんて言った?


「もしかしてあの使い魔、サイズが変えられるのか?」


「うん、もちろん。ユニークスキル〈縮小化(ミニマイズ)〉で、あのサイズから手乗りサイズまで自由自在だよ」


 てんやわんやしていたので〈能力視認(スキルチェック)〉をまだ使っていなかったが、そんなユニークスキルを持っていたのか。


 それなら、最初から猫くらいのサイズで行動してもらえれば、こんなことには……いやしかし、それだと町の住民に緊急事態だと気づいてもらえない可能性が高い。

 苦渋の選択だったというわけか。なら仕方ない。


「それで、ユウキはこれからどうするんだ?」


「もちろん、この呪いをかけてくれた敵を追うさ。こんなちんちくりんじゃ、魔術士として格好がつかないだろ?」


 言われてみれば確かに、いまのユウキは俺より背が低いので、威厳もへったくれもあったものではない。元の身長がどのくらいなのか知らないが、戻れるなら戻った方が良さそうだ。


「ちなみに君たちはなにを?」


「俺たちは『世界の果て』を目指してる。俺の両親がそこを目指したっきり行方不明になったんだ」


「そうか……」


 ユウキは顎に手を当てながら「ふむ」とつぶやくと、そのうちにやりと笑いながら口を開いた。


「よかったら、私たちで手を組まないか? 助け合いながらお互いの目的について追い求めていけば、より効率的に達成できるだろう」


「俺は別に構わないけど、ニアはどうだ?」


「ユウキ、悪い人じゃない。大丈夫」


「ありがとう、二人とも。おかげでまた一歩、元の体に近づけた気がするよ」


 俺とニアはそれぞれユウキとがっしり握手を交わした。

 すると、それを見たミーナが呆れ顔で肩をすくめた。


「とんだお人好しだね。出会って三日しか経ってないのにパーティに入れちゃうなんて、信じられない」


「なんだよミーナ。まだユウキのこと疑ってるのか?」


「当たり前でしょ。どんな秘密を隠し持ってるか分からないんだから」


「そう言われてしまうと何も言い返せないな」


 ユウキはたじたじといった様子で苦笑した。


 もしかしたら後ろ暗い過去があるのかもしれない。彼女がどんな風に考え、どんな生き方をしてきたかなんて、彼女自身にしか分からないことだ。

 でも俺は、だからこそ、人を信じる方に賭けてみたいのだ。


「君たちは冒険者なんだろう? だったら話は早い。私をクランに入れてくれるかい?」


「ユウキも冒険者だったのか」


「そうだよ。ほら、これ」


 ユウキは壁際に立てかけてある肩掛けバッグから、冒険者カードを取り出して見せてくれた。その色は鮮やかな紫色に輝いている。


「お前、まさかAランクなのか……?」


「そうだけど、何かまずかったかな?」


 可愛らしい見かけにすっかり騙されていたが、この魔女とんでもない実力者だ。

 俺は気を取り直して、彼女に冒険者カードを返した。


「いや、びっくりしただけだ。俺たちもそれぞれBランクとCランクだから、ちょうどいい塩梅かもしれないな」


「そうだったのか。若いのに二人ともよくやるねぇ」


 俺たちの会話を聞いたミーナはあんぐりと口を開けている。まさかそんなに高ランクの冒険者だとは思われていなかったようだ。


「お兄ちゃんたち、超強い冒険者だったんだね。てっきりお人好しのお使い係かと思っちゃった」


「お使い係は余計だ、っとっと」


 俺はすかさずミーナに手の甲でツッコもうとしたが、避けられてよろけてしまった。

 そのやり取りを見たユウキはけらけらと笑った。それだけ元気に笑えるなら、体調はもう大丈夫そうだ。


「大事を取ってあと二、三日ゆっくりしたらこの町を出ようと思うけど、ユウキはそれでいいか?」


「ああ、構わないよ。それとも何か依頼でもこなしていくかい?」


「お前さんとこの使い魔のおかげで、俺たちだいぶ儲かったからな。せこせこ稼ぐ必要がなくなった」


「その件は本当に悪かったと思ってるよ。あまりほじくり返さないでくれ、病み上がりの体に響く」


 俺にいじられたユウキは困り笑いを浮かべた。あまりいじめるのも可哀想なので、これくらいにしておいてあげよう。


「あっ、そうだ。お兄ちゃん」


「どうした、ミーナ」


「はい」


 差し出された手の意味が分からず困惑する俺に、ミーナは嘆息した。


「忘れたの? ユウキさんの治療代。きっちりもらうから」


 そうだった。俺が払うと言ったのをすっかり忘れていた。


「私が払――」


「いいよ、俺が払う」


 立ち上がろうとするユウキを制すると、俺は懐から財布を取り出した。男に二言はない。


「いくら?」


「いくらにしてほしい?」


 ふふんと笑うミーナにどこか弄ばれている感覚を覚えながら、俺は必死に頭脳を巡らせた。


 店内のツボにはたしか200ジラ前後の値札がついていた。それを二種類ブレンドして、三日間飲ませたから、単純計算で1200ジラ。

 それに手間賃を足したらもう少し値上がりするだろう。


 だが、そのままの金額を支払うほど俺はバカ正直ではない。相手は子供とはいえ商人だ。ここはきっちり大人としての対応を見せなければ。


「それじゃ、1000ジラでどうだ」


「値切るの下手くそだね、お兄ちゃん。でも1000ジラでいいよ」


 グサッと胸に突き刺さる一言を残して、ミーナはちゃっかり代金を受け取っていった。

 恐るべし、薬屋の娘。

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