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15話「使い魔のいざない」

 俺とニアは結局、例の化け物の調査依頼を受けることにした。

 万が一戦うことになったらと思うと恐ろしいが、まだそうと決まったわけではない。できれば追い出すなどして、平和的に解決したいところだ。


 ミーナに了解を得て、俺たちは調査がてら薬草を取りに行くことになった。これで一石二鳥だ。


「この森って本来、魔物はほとんど出ないはずなんだよ」


「どうしてなんだ?」


「森の魔力がどうとか、磁場がどうとか言われてるけど、ちゃんとした理由はまだ分かってないんだって」


「へえ」


 ミーナに教わりながら、俺たちは道なき道を抜けていく。それであんな森の奥深くに町があるということなのか。謎が一つ解けてスッキリした。


「あっ、これかな」


 そう言うと、ミーナは草むらの一角で立ち止まった。そこには確かに、薬草らしき野草が茂っている。


 俺たちが見守る中、ミーナは慣れた手つきで草をむしり、背中のカゴの中に放り込んでいく。さすが薬屋の娘だけあって、見るも鮮やかなプロの手さばきだ。


 ミーナの作業ばかり眺めているわけにもいかないと、俺が視線を上げたそのときだった。


「やばっ……!」


 木の影から、例の巨獣が俺たちの前にぬっと現れた。ちょうどタイミング悪くバッティングしてしまったのだろう。


 木の幹の後ろにいられては〈熱感知〉が効かないし、木々のざわめきや動物たちの鳴き声がうるさくて〈地獄耳〉もなかなか効果を発揮しない。上手く虚を突かれた形になってしまった。


 俺はミーナとニアを抱きかかえると、〈質量操作〉で体重を軽くし、いつでも逃げられるようにした。


(来るなら来い……!)


 ところが、巨獣は予想に反して俺たちを襲ってこなかった。それどころか、一定の距離を取ると、俺たちを待ち構えているかのようにおすわりしたのだ。


「どういうことなんだ……?」


「早く逃げようよ! 食べられちゃう!」


 この感じ、敵意はなさそうだ。〈動作予知〉にも引っかからない。

 静かなニアとジタバタするミーナを下ろすと、俺はゆっくりと巨獣に近づいていった。


「危ないよ、お兄ちゃん!」


「いや、大丈夫みたいだ」


 俺が手を差し伸べてみると、巨獣はゆっくりと首を垂れ、手のひらに頬を擦り付けてきた。まるで人間に飼われている猫そっくりだ。


 巨獣はしばらく俺の手にじゃれついた後、再び一定の距離を置いておすわりした。


「俺たちを呼んでるのか……?」


「アケビ、行こう」


「ああ。なにか訳ありみたいだ」


「ちょ、ちょっと、なんで付いてくの! ああ、もう!」


 俺とニアに遅れて、ミーナも仕方なくといった様子でついてきた。

 巨獣は常に一定の距離を取りながら進み、ときおり俺たちがついてきているかどうかを振り返って確認してきた。


 やつに誘われるがままに森を進んでいくと、やがて少し拓けた場所にボロボロの小屋があるのを発見した。

 その横で立ち止まった巨獣は、ニャーゴと野太い声で鳴き、一つ欠伸をしてからうずくまった。


「中に人がいる」


 〈地獄耳〉で室内の動向を確認した俺は、ゆっくりとその戸へ手をかけた。

 物体が動く気配はない。もしあるとすれば、開扉と同時に作動するトラップくらいか。


「ま、まさか魔女なんじゃ……! やめようよ、お兄ちゃん!」


「開けるぞ」


「って、全然聞いてないし!」


 思い切って戸を開いた俺は、幸い何事もなく小屋の中に入ることができた。


 室内にはこれまたボロいベッドがあり、その上には黒髪の少女が横たわっていた。壁際のフックには黒いマントがかけられている。


 おそらく彼女がミーナの言っていた魔女だろう。


 少女の呼吸は肩で息をするほどに荒く、顔は上気していて赤い。

 俺は〈熱感知〉を発動して彼女の体温を測った。ニアやミーナと比べると格段に高い。肌を触っただけでも熱いと感じるレベルのはずだ。


「あれ……お客さん……?」


「お前の使い魔に呼ばれて来たんだ」


「あ……ルナ、連れてきてくれたんだ……」


 少女は必死に起き上がろうとしたが、腕に力が入らず再び横になってしまった。この様子だと相当弱っているな。


「無理するな。高熱なんだろ? 寝てていいから」


「ごめんなさい……ろくなおもてなしもできなくて……」


 少女は辛そうに目をつぶると、大きなため息をついた。呼吸をするだけでも精一杯といった感じだ。ここは俺たちでなんとかしてあげたいところだ。


「なあ、ミーナ。彼女の病気に効く薬草ってなにかないのか?」


「え? あ、うん、解熱作用のある草と抗菌作用のある草をブレンドして煎じれば、たぶん効くと思うけど……もしかしてお兄ちゃん、この人を助けるつもり?」


 眉をしかめるミーナに、俺は深く頭を下げた。


「お金なら払う。頼む、ミーナしか頼れる人がいないんだ」


「……分かった。家から道具を持ってくる。ただし、町の人たちに何かしようもんなら承知しないからね!」


 ミーナは少女に向かってビシッと指を突きつけた後、小屋から出て行った。


「もしかして、お前の病気を治せる人を探すために、あの使い魔は町まで降りて来てたのか?」


「そう……だと思う……」


 蓋を開けてみれば、とんだ誤解だったというわけだ。先手必勝とか言ってぶん殴らなくて本当に良かったと思う。


 しばらく待っていると、ミーナがやってきてテキパキと準備を始めた。薬草の束をほぐしながらすり鉢で擦り、それを煮立てた鍋の湯に投入していく。

 十分に薬草の成分が煮出たところで、ミーナはそれを火から下ろした。薬液を木のお椀に注ぎ、少し冷ましてから、スプーンで少女の口に少量ずつ含ませていく。


「ちょっと苦いけど、我慢して飲んでね」


「っく……んっ……」


 飲み込むのに苦労しつつ、少女はなんとかそれを飲み終えた。ミーナはやれやれと言いたげに額を拭った。


「これをあと三日は飲んでもらうから。覚悟しといてよね」


「ありがとう……」


 それから少し経って、少女は安心したのか、くうくうと寝息を立て始めた。

 ミーナは腰に手を当てながら、少女をじっと見下ろす。


「それにしても、魔女がこんな若い女の子だなんてね。なんだか拍子抜けしちゃった」


「誤解が誤解を生んだ結果だな」


 一人ぼっちで病気に苦しむのは、さぞかし辛く心細かったことだろう。大事に至る前に彼女を見つけることができて僥倖(ぎょうこう)だったと言わざるを得ない。


「それじゃ、これから先はお姉ちゃんと私で看病するから。お兄ちゃんは来なくてもいいよ」


「なんで俺だけ仲間外れにするんだよ」


 それを聞いた途端、ミーナは目を剥きながら、俺の左肩にチョップをぶち込んだ。


「痛てっ! なんだよいきなり!」


「体を拭いたり着替えたり、色々あるでしょ! お兄ちゃんってば、デリカシーないんだから!」


「ああ、そうか。ごめん、そこまで気が回らなかった」


 確かに女の子の看病は同じ女の子に任せた方が良さそうだ。俺は頭をかきながら笑って誤魔化すしかなかった。

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