132話「オールS」
俺たちは久しぶりに冒険者ギルドにやってきた。最近はケシムの復活阻止とぐーちゃんの護衛にかかりっきりで情報収集を怠っていたから、時代に乗り遅れているかもしれない。
ジンハオの冒険者ギルドは他の町の支部とは少し異なっており、受付カウンター周辺の業務用スペースと併設の酒場とが入り交じり、渾然一体となっている。そのせいか、混沌としていてにぎやかな独特の雰囲気を感じる。
建物の中に入った途端、周囲の冒険者たちの視線は俺たちに釘付けになった。
俺たちがケシムを討伐したことはいまや周知の事実となっており、この街ではちょっとした人気者だ。そして、それはどうやら冒険者たちが相手でも変わらないらしい。
ちょっぴり恥ずかしさを感じながら中を進んでいくと、近くに立っているワンレングスの髪型をした女性スタッフにふと呼び止められた。
「ビヨンド御一行様、お待ちしておりました! お話がありますので、どうぞ中へお入りください!」
俺たちは顔を見合わせた後、言われるがままにカウンターの奥の通路へと向かった。
それから少し歩くと、俺たちは小さな応接室に通された。白いテーブルには、ビヨンドのメンバー全員分の席が用意してある。来るのを待っていたというのは本当らしかった。
「私、アメリと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
俺たちに向かって深々とお辞儀をするアメリに、俺は軽く会釈を返した。
「かけて少々お待ちください。いま書類を持って参ります」
アメリはそう言うと、踵を返して部屋を出ていった。
俺たちは遠慮なく腰かけ、彼女が帰ってくるのを待つことにした。
「いったい何の用事だろうな?」
「また無理難題を押し付けられるんでねぇか?」
「それは勘弁してほしいなぁ」
期待と不安を感じながら、俺はそわそわと手を動かす。
手持ち無沙汰な待ち時間の後、アメリは封筒を何枚か持って戻ってきた。
「こちら、ビヨンドの皆様への通知書です」
「ありがとうございます」
受け取ってみると、宛名は俺以外のそれぞれのメンバーの名前になっていた。
ということは、もしかすると――
「やった! 昇格だって!」
「あっ、私もだ」
「おらもそうみてぇだな」
「妾もじゃ!」
開いた封筒の中身を見せあう四人。そこには確かに、Sランク昇格の文字が記されていた。
冒険者登録をしていないサーニャとエーリカを除き、これで全員がSランクと認定されたことになる。
「おめでとうございます!」
「ありがとう」
「クランのメンバー全員がSランクというのは、ヴァジュラに続く快挙ですね!」
「あっ、そうなのか」
「はい。Sランクの認定というのは、滅多に出ない貴重なものですから」
確かに、これまで長い間旅をしてきて、出会った冒険者の中でSランクだったのはヴァジュラの面々だけだ。
そして、そう簡単にSランクになれるものではないというのは、冒険者という職業の仕組みにあまり詳しくない俺でもすぐに分かることだった。
「用件っていうのはこれのことだったのか?」
「はい。すぐにお伝えした方がよろしいかと思いましたので」
「そうだな。ありがとう」
「それでは冒険者カードを更新いたしますので、みなさま私にお渡しください」
ニアたちはそれぞれ自分の冒険者カードをアメリに手渡した。
少し経ってから、アメリはプラチナ色のカードを四枚手に持って戻ってきた。
「こちらがみなさまの新しいカードになります。どうぞ」
「これがSランクのカードか。きれいだね」
「おらもついにSランクか。じんわりと嬉しさが来んなぁ」
「わーい! 見て、アケビ!」
「良かったな、ニア」
「ついに並んだぞ……くふふ……!」
無邪気にはしゃぐニアと、一人ほくそ笑むシエラ、そして冷静な反応の大人組。反応は違えど、みんな喜んでいることに代わりはなかった。
「冒険者ランクって、そんなに重要?」
「もちろん。いろんなところで受けられる待遇が全然違ってくるからな」
「ふぅん、そうなんだ。少し気になるかも」
「おっ、サーニャも冒険者登録するか?」
一瞬乗り気を見せたサーニャだったが、俺がそう尋ねると首を横に振った。
「いまはいい。まずは聖地に行って調べることの方が大事」
「ちぇっ、残念だなぁ」
こういう、何事もすぐに割り切ってクールなところはいかにもサーニャらしかった。タイミングが悪かっただけかもしれないから、折を見てまた聞いてみよう。
そうして俺たちが話を終えるのを見計らって、アメリは再び口を開いた。
「私からの用件は以上になります。なにか質問などありますか?」
「いや、特には」
「分かりました。では、カウンターの外までお送りいたします」
「ありがとう」
席を立った俺たちは、冒険者ギルドでの情報収集を開始した。
これは幸先がいい。この調子で、聖地に行っても収穫があるといいのだが。