130話「ビヨンド&ヴァジュラvsケシム その3」
ケシムが米粒に見えるほど上空まで到達した俺は、ニアが空に向けて撃った火球の合図を目にして、降下を開始した。
〈質量操作〉で体を重くし、できる限り風に流されないようにしながら、ケシム目掛けて落下していく。
「アケビ!」
「エーリカ!」
「軌道修正なら任せるのだ! アケビは思い切りぶちまかすことにだけ集中するといいのだ!」
エーリカの念動力に全身がサポートされる感覚がする。俺は言われた通り攻撃に意識を集中しながら、魔剣を下向きに握りしめた。
それから、マナを魔剣に送り込み、刀身を包むマナの刃を巨大化させていく。
それは毎晩の修行のときに気がついたことだった。斬撃を飛ばすことができるなら、刃を変形させることもできるのではないかと思い、試したところ、見事に成功したのだ。
超弩級の大剣と化した魔剣を手に、俺はケシムを見定めた。徐々に近づいてきたその大きな姿へ向けて〈加速〉を発動し、さらに落下速度を上げていく。
次に、そろそろ頃合いと見た俺は〈身体強化〉と〈硬化〉を発動した。激突の衝撃を最大限に和らげるためだが、どれほどの反動が来るか分からないので、正直なところ不安ではある。
とはいえ、ケシムを倒せる方法はこれしかない。最後の仕上げは、複数のユニークスキルが使いこなせる俺自身がやり遂げるしかないのだ。
そのとき、ケシムは俺の方に向けて口をパックリと開けた。口の中に溜まったエネルギー球から、極太のビームが放たれる。
「やべっ……!」
俺は一瞬死を覚悟した。エーリカの念動力によって、体が強引に引き寄せられるのが分かる。
直後、ビームは俺の目の前スレスレを通って、上空へとかき消えた。
ピンチは逆にチャンスとなり得る。いまやケシムは無防備にその口腔をさらけ出している。外皮は硬くとも、体内まで硬くはないはずだ。
「いくのだ! アケビ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」
俺の叫び声とともに、〈質量操作〉〈加速〉〈硬化〉〈身体強化〉のクアッドコンボに重力を加えた渾身の一撃が炸裂した。
超巨大魔剣はケシムの口の中に深々と突き刺さった。剣先はやつの喉元を過ぎて、さらにその奥へズブズブと入り込んでいく。
やがて、俺はケシムの体内の核を捉えた。確実になにか固いものが砕ける感覚がして、ケシムはその動きを止める。
次の瞬間、ケシムの体を構成している泥が球状に小さくまとまり、それから四方八方に砕け散った。
「アケビ、やったのだ! ケシムを倒したのだ!」
「そうみたいだな」
体力とマナを使い切った俺は、エーリカにその身を任せながら脱力した。ふわふわと漂いながら、ゆっくりと降ろされていくのを感じる。
周囲に飛び交っていたスパインドラゴンたちは、エネルギーの根源を失い、一斉に崩れ落ち始めた。これなら、魔導大祭のときのように残党の討伐に四苦八苦する心配はなさそうだ。
頭上からは、黒い泥の雨が降り注いでいる。無惨に破壊された王宮の残骸のこともあるし、これは後片付けが大変そうだ。
地表に降り立つと、ビヨンドのメンバーたちが駆け寄ってきた。
「お疲れ様、アケビくん」
「上手くいって、よかった」
「やったな、アケビ!」
「よくやった! さすが、妾が見込んだ男じゃ」
「アケビ、大丈夫? 体、痛くない?」
「ああ、大丈夫だよ。ありがとな、ニア」
ニアの頭を撫でていると、ヴァジュラのメンバーたちも遅れてやってきた。
「まさかあのデカブツを本当に倒してしまうなんて、大した男だな!」
「これは俺だけの力じゃない。みんなの協力があったから、成し遂げることができたんだ」
それは心からの本音だった。ここにいる誰一人欠けても、作戦は上手くいかなかったに違いない。
しかし、テルマはいたずらな顔をしながら、俺のことを肘で突いてきた。
「そう謙遜するなって。あんたが立案したんだから、あんたの手柄だよ。ちょっと悔しいけどね」
「そうだね〜、テルマちゃん。今回は特別に認めてあげる〜」
「否定的なことを言ってすまなかった。君は本物の英雄だよ」
そんなに褒めちぎられると、なんだかこそばゆい。俺は照れながら頭をかいた。
「何はともあれ、ケシム討伐はこれにて完了だ。みんな、お疲れ様!」
俺は他のメンバーと互いに苦労を労いながら、その場を後にしようとした。そのとき、ユウキがふと立ち止まった。
「そういえば、なんか忘れてないかな?」
「なんかって?」
「うーん、思い出せそうで思い出せない――」
思い悩むユウキの左肩に、細くて白い腕が後ろから置かれた。俺たちが振り向くとそこには、血の気の引いたぐーちゃんが自力で立っていた。
「怪我人を……放って行かないでよね……」
「あっ、ごめんぐーちゃん! すっかり忘れてた!」
「このヤロー、ぶん殴るぞ☆」
怒りをたたえるぐーちゃんを必死になだめながら、俺たちは崩壊した泥だらけの王宮を後にした。
これにて、暁光の杖を巡る騒動はようやく終わりを告げることとなったのである。
執筆ストックが底を尽きてしまったので、今後は毎日更新ではなくなるかもしれません。(頑張ってできる限り早く更新していきます)
お話はもうちょっとだけ続くので、最後までお付き合いよろしくお願いします!