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129話「ビヨンド&ヴァジュラvsケシム その2」

 アケビは〈地獄耳〉と〈千里眼〉で他のメンバーたちの様子をうかがいながら、〈硬化〉を利用して空中ジャンプを始めた。


 地上でのチーム分けは、剣士であるジャックとユウキのチーム、近距離攻撃に長けるシエラとオズワルドのチーム、武闘家であるタオファとテルマのチーム、遠距離攻撃型のニアとサーニャ、さらにメルティが組んだチーム、そして不慮の事故をカバーする遊撃手エーリカの単独チームとなっている。


 ちなみにアケビはというと、一人でひたすら空中ジャンプをして上空に向かう係だ。傍目からすれば遊んでいるかのように見えるが、その実、最も重要なポジションである。


 作戦は、魔道士たちの攻撃から始まった。


 ニアとメルティはそれぞれ呪文を唱えて、大きな炎の玉を出現させ、ケシムの体に繰り返しぶつけていく。

 一方、サーニャはケシムの足元を氷で固め、歩きにくくしようと試みている。

 どちらも、ケシムが侵攻する勢いを少しでも弱めるためだ。


 その間に、他のメンバーたちは所定の位置についた。ケシムの後足を二チームが担当し、攻撃を開始する。


「おりゃァッ!」


「はっ!」


 ジャックとユウキはケシムの左後足に向かって立て続けに斬撃を放った。爆撃と雷撃の華麗なるコンビネーションによって、固い鱗が硬質な音とともにガリガリと削れていく。


「うむ、いい太刀筋だッ!」


「それはどうも」


 ユウキは自身の体を雷と化しているため、〈爆破〉の影響を受けることがない。その意味において、二人の相性は抜群だといえよう。


 では続いて、右後足がどうなっているか見てみよう。

 担当しているのは、タオファとテルマのチームだ。


 タオファはケシムの固い黒鱗をものともせず、ガンガン攻撃していく。テルマは驚いた様子でそれを横目に見た。


「素手でそんなに強く殴って、痛くないのか?」


「ああ、日頃から手を鍛えてるかんな」


「世の中にはすごい冒険者もいたもんだな」


 テルマはそう言いつつ、〈圧縮〉した大量の空気を一気に解放して、すさまじい衝撃を加える。

 今度は、タオファがそれを見て驚く番だった。


「そんなに破裂させて大丈夫なんか?」


「うん。エネルギーが向かう方向を絞ってるから大丈夫だ」


「すげぇなぁ! おらも負けてらんねぇ!」


 タオファは奮起しながらさらに激しく腕を動かした。それはもはや目にも止まらぬ速さだ。

 こうして互いを高め合いながら、二人は拳を振るっていく。


 その頃、シエラとオズワルドはケシムの周囲をうろつくスパインドラゴンたちをひたすら攻撃していた。いわゆる露払いというやつだ。


「ふん!」


「ヒャッハァ! たぎってきたぜェ!」


 シエラが拳を叩き込む横で、オズワルドはレイピアを一心不乱に振り回している。


「お主、そんなキャラだったか……?」


「だから言ったろ! 俺はなァ! 戦うと性格が変わるんだよ! イーヤッハァ!」


 オズワルドは引き続き奇声を上げながら、スパインドラゴンの体を切り刻む。


 それもそのはず、オズワルドのユニークスキルは〈狂化(バーサーク)〉と呼ばれるスキルで、理性を飛ばす代わりに強力なパワーを得ることができるのだ。


 昔は敵味方の見境なく暴れ回っていたそうだが、いまでは自分の精神状態をある程度コントロールできるようになったという。


 事前にその話を聞いてはいたシエラだったが、実際に彼の豹変ぶりを目の当たりにしてみると、驚きを隠すことができなかった。


 とはいえ、心強い味方であることに変わりはない。彼の動きを極力邪魔しないようにしながら、シエラはスパインドラゴンに打撃を与えていく。


 こうしてそれぞれがきっちりと役目を果たすように努めていると、その成果は如実に現れた。


 ケシムは二本の後足でその体重を支え切れず、尻餅をつくような形で地面に座り込んだのだ。


「よし、いった!」


「いや、まだだ!」


 ケシムは大きく口を開き、再びエネルギーを球状に集中させ始めた。ビームを撃つ予兆だ。

 しかも今回、ケシムが向いている先はジンハオの街だ。このまま攻撃が発動してしまえば、何万人という住民の命が失われる。それだけは絶対に避けなければならない。


 すかさず、タオファはテルマに声をかけた。


「頼む! やつの顔面に向かって吹き飛ばしてくれ!」


「分かった! 行くぞ!」


「「せーのっ!」」


 タオファが飛び上がるのに合わせて、テルマは〈圧縮〉した空気を解放した。爆発的な速度で打ち出されたタオファが、ケシムの顔面に向かって飛んでいく。


 その様子を見たジャックとユウキは、少し遅れて駆け出した。そして剣を構えながら、それぞれ左右に飛び上がる。


「はああああああっ!!」


 タオファは、魂がこもった叫び声とともにケシムの下あごを蹴り上げた。開いていた口が無理やり閉じられ、勢い余って頭ごと上方へ跳ね上がった。


 そのタイミングに合わせて、ケシムの両の口角をジャックとユウキが斬り裂く。ケシムはたまらず、唸り声を轟かせながらのけぞった。


 刹那、溜まっていたエネルギーが放出され、天に向かって高らかにビームが走る。これによって、ジンハオへの直撃を避けることができただけでなく、次の攻撃への布石も整った。


「アケビ! いけええええええええっっ!!」


 いまや遥か上空にまで飛び上がったアケビに向かって、タオファは力の限り叫んだ。

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