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13話「未曾有の大躍進」

 旅支度を終えた俺たちは、宿屋「ラクス」の入口で見送ってくれている赤毛の女性に向かって手を振った。


「それじゃ、いってきます」


「またいつでもいらっしゃいな」


 お世話になった宿を後にすると、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

 今日は俺とニアのランク査定が本部から通達される日だ。俺はDランクにきっちり昇格できているだろうか。


 建物内に入ると、いつも応対してくれている女性スタッフであるレオナの下に向かう。


「おはよう、レオナ」


「おはよう!」


「来たわね、二人とも……ふっふっふ……」


 意味深な笑みを浮かべながら、レオナは机の下から二枚の封筒を取り出した。

 間違いない、ランク査定の通知書だ。宛名が俺とニアになっている。


「さあ、どっちから読みたい?」


「よし……それじゃ俺から」


「はい、どうぞ」


 俺は封筒を受け取ると、渡されたペーパーナイフで封を開いた。

 深呼吸をして、それからばっと開く。

 そこにはこう書かれていた。


『アケビ・スカイをBランク冒険者に認定する』


「俺がBランク――!?」


「すごいじゃない! EランクからBランクに昇格なんて聞いたことないわよ!」


 俺自身、その通知が信じられない。何かの見間違いじゃないのか。

 しかし、何度見直してもその文面は同じだった。


 そのとき、ちょいちょいと俺の裾が引っ張られるのを感じ、俺はニアの方に視線を移した。そこには少し不満そうな顔のニアがいた。


「アケビ、わたしは?」


「ああ、ごめん。レオナ、もう一枚の方を」


「はい、どうぞ」


 俺は気を取り直して、ニア宛の封筒を開いた。そして、ニアにも見えるように紙を開く。

 そこにはこう書かれていた。


『ニア・ニーツをCランク冒険者に認定する』


「C! C!」


「FランクからCランクっていうのも聞いたことないわね。あなたたち、本当にすごいわ」


 二人とも3ランク特進だ。寝ぼけているわけじゃないよな? これは現実だよな?


「ほら、ボーッとしてないで。冒険者カード、更新するから渡してちょうだい」


「え、ああ……」


 俺とニアがそれぞれ赤とオレンジの冒険者カードを手渡すと、レオナは奥に引っ込んで作業を始めた。

 それからしばらくして出てきたレオナの右手には、全く色の違う二枚のカードが握られていた。


「こっちがアケビくんのカードで、こっちがニアちゃんのカードよ。はい、どうぞ」


 俺のカードはサファイアのような青色に、ニアのカードはエメラルドのような緑色に輝いている。


 冒険者カードはそれぞれが宝石の色に対応しているとか、いないとか言われている。その噂通り、見る目に美しい色鮮やかさだ。


「良かったわね。これからも頑張ってね」


「ありがとう、レオナ」


 それから俺は、ニアとともに手を振る。


「俺たち、きっとまたこの町に遊びに来るよ」


「ええ。そのときはまた一緒にお仕事しましょ! 元気でね!」


 出会いと別れは旅の常だ。確かに居心地は良いが、こんなところで立ち止まってはいられない。

 俺は自分に気合を入れ直すと、後ろ髪を引かれる思いで冒険者ギルドを出た。


 ネルカプラの街並みを背に、俺たちは大通りから伸びる街道を進んでいく。


 次に向かうのはディクトルだ。ネルカプラの住人たちから聞いたところによると、そこは森に囲まれた閑静な町らしい。

 心の中で期待が高まるのを感じながら、俺はニアと歩いていく。


 つい先日通ったときには全く人通りのなかった街道には、いまや多くの通行人がいる。


 俺たちの挙げた成果がこうして人々のためになったのだと思うと、じんわりと嬉しさがこみ上げてくる。

 ニアも思うところがあるようで、笑顔で通行人たちを眺めている。頑張って本当に良かった。


 達成感に浸りながら、俺たちは山のふもとを歩いていく。もう凶悪な魔物に襲われる心配はないという安心感からか、足取りも自ずとゆっくりになる。


「アケビ! あれ!」


「ん、どうした?」


 ニアがふと指差した先に目をやると、山の中腹あたりでシカの親子が草を食んでいるのが見えた。


「あれはシカって言うんだよ」


「シカ! 二人も!」


「二匹、な」


「二匹!」


 ニアははしゃぎながらそちらをじっと眺める。

 野生動物が姿を見せるなんて、珍しいこともあるものだ。今日はツイてる日かもしれない。


「アケビ! あれも!」


 続いて声を上げたニアの指先に、俺は視線を向けた。

 一頭のイノシシが、ものすごい勢いで山の斜面を駆け上がっていく様子が見える。


「あれはイノシシって言うんだよ」


「イノシシ!」


 ニアは嬉しそうに言うと、イノシシの行く先を目で追いかけていく。

 それにしても、あんなに小さな動物の姿を次から次へとよく見つけるものだ。古代人は目が良いとか、そういうことはあるのだろうか。


「アケビ!」


「今度は何だ?」


「あれは?」


「あれはな――」


 やれやれと思いながら、俺は三度ニアが指差す先を見つめた。

 翼の生えた巨大な黒猫が、何かの獲物を口にくわえながら空を駆けていた。


「いや、何だあれ……?」


 黒猫は二股の尻尾を揺らしながら、遠くの森へと降りていった。


 あんな生き物、いままで生きてきて一度も見たことがない。

 マジで何なんだ? 動物か? たぶん魔物だよな? いや、それすらも怪しい。


 俺は何と言うべきか考えながら数秒間黙りこくった挙句、素直に白状することにした。


「ごめん、分かんないや」


「アケビも分からないの?」


「そ、そういうこともあるさ」


「ふぅん」


 ニアはがっかりした様子で石ころを蹴った。

 ニアには少し悪いことをしてしまったかもしれないが、分からないものは分からないのだから仕方がない。ディクトルに着いたら、町の人にちょっと聞いてみよう。


 そんな想定外のハプニングもありつつ、俺たちは順調に歩を進めていった。


 道が進むにつれて、周囲にはだんだんと草木が増えていく。そうして、開けた景色は次第に鬱蒼とした森へと変わっていった。


 まだ昼間だというのに辺りは薄暗く、かすかな木漏れ日が薄っすらと道を照らしている。ちょっとでも道を外れたら迷ってしまいそうだ。


「これ、本当に合ってるんだよな……?」


「こわい……」


 しがみついてくるニアをそっと抱き寄せながら、俺は慎重に進んでいく。


 そうしてどれくらい歩いた頃だろうか。俺たちの目の前にようやく、人気(ひとけ)のある街並みが広がった。


 おそらくここがディクトルの町だろう。魔物に出会わず無事に着くことができ、俺はほっと胸を撫で下ろした。


 町の周囲は切り拓かれており、眩しい日の光が差し込んでいる。そのおかげで、薄暗い森と明るい町の鮮やかなコントラストが描き出されていた。


 俺たちが情報収集のため、冒険者ギルドに向かおうとした、そのときだった。


「化け猫が出たぞ!」


 大声で叫びながら、住人らしき男性が街に駆け込んできた。その声を聞いた途端、人々は一斉に建物の中に入ってしまった。


「な、なんだ?」


 何が何だか分からず右往左往している俺たちを、誰かの手が引っ張る。

 されるがままに物陰へ引き込まれた俺たちは、茶髪の少女ににらみつけられた。


「バカ! 危ないでしょ!」


「ご、ごめん」


 腰に手を当てた少女に叱責され、俺たちは訳もわからないまま謝罪した。


 それから少し遅れて街に現れたのは、先ほど空で見かけた、翼と二股の尻尾を持つ巨獣だった。

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