128話「ビヨンド&ヴァジュラvsケシム その1」
覚悟を決めた俺たちは、ケシムに向き直る。あんなデカブツとどうやって戦えばいいのか、全く分からないが、とにかくやるしかない。
そのとき、背後から叫ぶ声がして、俺は振り向いた。
「おーい! 大丈夫かー!」
ジャックが手を振りながら、遠くから走ってくるのが見えた。その後ろには残りの三人も続いている。俺たちのことを心配して、様子を見に来てくれたようだ。
やがて俺たちの下へ駆けつけたヴァジュラのメンバーたちは、ケシムの姿を見て驚いているようだった。
「なんなんだ、あれはッ!?」
「ケシムという古の邪神が目覚めたんだ! このまま放置しておくと世界が危ない! だから、俺たちはいまからあいつを倒す!」
「よし、分かった! 俺たちも協力するぞッ!」
「え〜、めんどくさい〜」
ぶーぶーと不平を漏らすメルティの手を、テルマはがしりと掴む。
「どうかあたしのために手伝ってくれないか、メルティ?」
「テルマちゃんのためなら……!」
メルティはとろけそうな表情でテルマを見つめながら、こくりとうなずく。それを見たオズワルドは、やれやれと苦笑した。
こうして俺たちが一致団結する中、ケシムが何もしていないわけではなかった。
その口を大きく開けたケシムは、口の中にエネルギーを球状に溜め始めた。きっと攻撃の予備動作に違いない。
「デカいのが来るぞッ!」
「ここはわたしが! reirrab egesuf!」
ニアは呪文を唱え、半球状のバリアを張った。すると、その背中にメルティがおぶさり、肩の上から手を回してニアの杖を持った。
「えっ!?」
「私がサポートするよ。あなたは魔法に集中して〜」
「わ、分かった」
メルティは杖を通して、ニアのマナを包み込むように自分のマナを送り込んでいく。
すると、薄い膜のようだったバリアはみるみるうちにその厚さを増し、分厚い防壁となった。
一方ケシムは、口の中にエネルギーを集め終えると、それを直線状のビームとして放出した。
眩い光の奔流がバリアにぶち当たり、バチバチと音を立てる。
「ぐっ……!」
「一撃がこんなに重いなんて……!」
バリアは次第にミシミシときしみ、ひび割れていく。それでも、ニアとメルティは歯を食いしばりながら、マナをバリアに注ぎ込み続ける。
もはや限界かと思われたそのとき、ケシムはようやくビーム放射を終えた。最初の一撃は辛うじて防ぎ切ることができたみたいだ。
「こっちからも攻撃しないと、ジリ貧になりそうだね」
「攻撃するったって、どこを殴ればいいんだ?」
「スパインドラゴンと同じように、やつの体内にも核があるはずだ。エーリカ」
「はいなのだ!」
エーリカが姿を現した途端、ヴァジュラのメンバーたちはぎょっとした。まあ、いきなり目の前に幽霊が現れたのだから無理もない。
「ゆ、幽霊ッ!?」
「驚いたな。まさか本当に存在したとはね」
「あ、あたしこういうのダメなんだよぉ……!」
「大丈夫だよ、テルマちゃん。あなたは私が守るから」
四者四様の反応を示す中、俺はパンパンと手を叩いた。
「すまない、エーリカの話は後回しにさせてくれ。いまはケシムの核の話を」
「すまない、そうだったな。続けてくれ」
話を元に戻した俺は、空中に漂うエーリカを振り仰ぐ。すると、エーリカはえっへんと言いたげに胸を張りながら口を開いた。
「ケシムの核の場所は首の付け根の真下、胸部の真上。表皮からおよそ20mの深さにあるのだ」」
「そんなに奥深くにあるのかい? どうやって攻撃を届かせればいいのやら」
「それでもやるしかないだろう!」
とはいえ、具体的な方法がないのでは戦いようがない。暗雲が立ち込めそうな雰囲気の中、俺は意を決して口を開いた。
「俺にいい考えが一つある。ただ、それを成功させるためには、みんなの力が要るんだ」
それから俺は思いついた作戦の内容について披露した。
俺の話を聞き終えたみんなは、揃って目を丸くした。それから、ビヨンドのメンバーは期待に満ちた目で、ヴァジュラのメンバーは半信半疑の目で俺を見つめた。
「そんなこと、本当にできるのかい?」
「正直、やってみないと分からない。でも、何もしないよりはいいだろ?」
「それはそうだけど……」
「なんじゃ? アケビの案に問題でもあるのか?」
「ないと言えば嘘になるだろうね」
「なんじゃと?」
シエラとオズワルドがバチバチと視線の火花を散らす中、ジャックはパンと手を叩いた。
「よし! 俺はアケビに賭ける!」
「それしかないみたいだね〜」
「よし、やるか!」
「いいな、オズ?」
ジャックにじっと見つめられたオズワルドは、観念したというようにため息をついた。
「多数決じゃあ仕方ないな。確率は低いが、試してみる価値はあるだろう」
そうして結論がまとまった瞬間、ズシンと地面が揺れた。体組織の構築を完了したケシムが、ついに歩き出したのだ。
「みんな配置について!」
俺はそう叫びながら駆け出した。
失敗すれば命の保証はない。緊張と恐怖に心臓の鼓動が早まるのを感じながら、俺は魔剣の柄をぎゅっと握りしめるのだった。