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126話「ぐーちゃん大ピンチだぞ☆」

 愚妹仙人は部屋の外から聞こえる物騒な物音を特段気にすることもなく、読書に集中していた。

 いまさら慌てたところで仕方がない、なるようにしかならないと思っているからである。


 だから、居室のドアがノックされたときも、冷静にソファから立ち上がって対応した。


「あっ、ワンフー将軍じゃん。どしたん?」


 ドアの鍵をかけたまま、のぞき穴から外をのぞくと、そこにはワンフーが立っていた。


「ゲイルの襲撃が始まりました。いますぐに避難を」


「避難? 襲撃が終わるまでここで待機するって話は?」


「計画に大きな変更があったのです」


 愚妹仙人は少し思案した末に、小さくうなずいた。


「分かった。入っていいよ」


「ありがとうございます」


 ワンフーはそう言うと、ドアノブに手をかけてひねった。

 しかしガチャリと音がするだけで、ドアは開かなかった。


「おや、鍵が開いておりませんぞ。さあ、扉をお開けくだされ」


「一つだけ聞いてもいい?」


「はい、何でありましょうか」


「アンタ、いつから左利きになった?」


 途端、場を沈黙が支配する。

 しばしの後、ワンフーはくつくつと笑い出した。


「たまたま左でドアノブを握っただけなのに、全く疑り深いお方ですな」


「そっか、そうなんだ――なんてね! 風仙術 壱の型 鎌鼬(かまいたち)!」


 愚妹仙人が放った風の刃はドアを上下真っ二つに切り裂き、そのままワンフーの腹部にジャストミートした。


「そんなドス黒い気を垂れ流して、バレバレなんだよ!」


 愚妹仙人が指を差すと、ワンフーは薄笑いを浮かべながら立ち上がり、みるみるうちにその姿かたちを変えていった。

 

「上手くいくと思ったんだがなぁ。俺の演技、下手だったか?」


「反吐が出るくらいね! 火仙術 参の型 燃縄鞭(ねんじょうべん)!」


 愚妹仙人は生み出した燃える火のムチをゲイルの体に巻きつけ、そのまま部屋の壁に叩きつけた。

 その衝撃で壁面がクレーターのようにひび割れ、がれきがパラパラと床に落ちる。


 しかしゲイルはにやついた顔を崩さず、部屋から逃げ出していく愚妹仙人の背中をなおも見据える。


「いいねぇ。活きがいい女をメタメタにぶっ殺すのは気持ちがいいってもんだ!」


「アイツ、サイアクな性格してやがる!」


 王宮の廊下を走りながら、愚妹仙人はさらなる仙術を発動する。


「土仙術 弐の型 土隆壁(どりゅうへき)! よし、これで時間が稼げるはず!」


 廊下を塞ぐようにせり上がった土の壁を一目見てから、愚妹仙人は再び駆け出した。


 なにもゲイルと真正面から戦う必要はない。駆けつけてきたSランク冒険者と合流できれば、十分な安全が確保できるに違いないからだ。だからいまは、ひたすら時間を稼ぐことに専念する。


 そう考えていた愚妹仙人は、廊下の窓をぶち破って目の前に現れたゲイルに度肝を抜かれた。どうやら王宮の外壁を伝って移動してきたらしい。


「どこにお前がいるか、俺には感覚で分かるんだよ」


「ストーカー? キモいなぁ!」


「さあ、大人しくしてもらうぜぇ!」


 ゲイルは愚妹仙人に向かって周囲の床から茨を伸ばしてきた。

 

「風仙術 伍の型 回流斬(かいりゅうざん)!」


 無数の風の刃が竜巻のように体を包み込み、近づく茨を次々と切り落としていく。


「なにぃ?」


 こちらは二百年もの間、準備と鍛錬を重ねてきたのだ。簡単にやられてたまるか。

 そう思った愚妹仙人は、ゲイルの眼前に勢い良く踏み込んだ。


「火仙術 (しち)の型 爆熱破(ばくねつは)!」


 強烈な爆発によって、ゲイルの上半身がバラバラに砕け散る。

 その隙に、愚妹仙人は再び逃げ出した。


 できれば王宮の外に出たいところだが、それだけの余裕はもうないだろう。


 廊下のような狭い場所では、茨を自在に操れるゲイルに地の利がある。

 せめてどこかもっと広い場所に出て、少しでも時間を稼ぎたい。


 そう思いながら廊下を走っていると、中庭に通じる扉を見つけた。


 愚妹仙人は迷わずその扉をくぐった。

 広々とした庭園の中央には、広場のような開けた場所がある。


 ここなら思い切り戦える。

 愚妹仙人はそう確信し、ゲイルを迎え撃つことにした。


「まずはこれ……!」


 愚妹仙人はスマートボールを使ってアケビに連絡を取ることにした。

 空間に投影された画面を震える手で操作し、通話をかける。


「お願い……!」


 その祈りが通じたか、通話はすぐにつながった。


〈もしもし! 大丈夫か、ぐーちゃん!〉


「いまゲイルに追われてる! 中庭まで来て!」


〈分かった! すぐに向かう! 踏ん張れよ!〉


 愚妹仙人は、一瞬言葉を交わしただけなのに、大きな安心感を得ることができた。アケビならきっと助けに来てくれるという信頼が、心のどこかにあるのだろう。


 スマートボールを懐にしまったぐーちゃんは、歩み寄ってきたゲイルに向き直った。

 先ほど吹き飛ばしたやつの上半身は、すでに何事もなかったかのように再生していた。


「お友達とのおしゃべりは終わったか?」


「おかげで整ったよ。アンタをぶちのめす準備がね」


 愚妹仙人は両の手のひらをゲイルに向け、半身に構えた。

 ゲイルもそれを見て、杖を構える。


「最後の賢者の魂、いただくぜ」


「やれるもんならやってみな!」


 そして、ゲイルと愚妹仙人は互いに駆け出した。

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