124話「ゲイル襲来」
それは、俺たちがぐーちゃんの居室から出て数時間後のことだった。
中央広場にて待機していると、腰につけているスマートボールから連絡が入った。このスマートボールという機械、宮中であればどこにいても通話ができるという優れものだ。
〈正門にて侵入者が襲撃を開始! 敵は杖を持った男と、大量のドラゴンです! 至急援護をお願いします!〉
「ついに来たか」
「そうみてぇだな」
これは十中八九ゲイルだろう。正面から堂々と侵入してくるとは、よほどの自信があるらしい。
時は夕暮れ、そろそろ日が落ちるかどうかという頃合いだ。俺たちは地面に伸びる影法師を背に、正門へと向かっていく。
その途中、俺たちは他の場所で護衛に当たっていたクラン「ヴァジュラ」と合流した。
「行くぞ、ビヨンド!」
「おう!」
宮中を駆け抜けながら、「ヴァジュラ」のクランマスターであるジャックが発破をかける。
Sランク冒険者だけが集まって結成したクラン、それが「ヴァジュラ」だ。メンバーはそれぞれ二つのユニークスキルを持っており、自他共に認めるエリート集団である。
彼らとはバティス帝国の首都カドゥシアで一度すれ違ったことがあるが、そのときはまさか共闘することになるとは思いもしなかった。ゲイルという強敵を相手にして、彼らのような強者が味方についているのはとても心強いことだ。
「私たちの足、引っ張らないでよ~?」
「そっちがな!」
ローブを羽織った緑色の長髪の女性メルティの売り言葉に、シエラは買い言葉で答えた。
すると、隣にいる黄色いベリーショートの女性テルマが、メルティのローブをちょいちょいと引っ張った。
「こらこら。これから一緒に戦うんだから、あんまり煽んなって」
「まあ、テルマちゃんがそう言うなら……」
メルティはテルマの言葉に素直に従い、すごすごと引き下がった。シエラはそれを見て、ふんと鼻を鳴らした。
続いて、俺に声をかけてきたのは、セミロングの茶髪をした男性オズワルドだ。
「すいませんね、うちの魔道士はこう見えて血気盛んなもんで」
「戦う気力があるのはいいことだよ」
「そう言ってもらえると助かります」
彼は苦笑交じりに頬をかいた。
向こうのパーティもこちらに違わず、結構な個性派揃いみたいだな。
そうして走ることわずか数分。
中央広場付近で待機していたおかげで、当初の予定通り、すぐに戦場へと駆けつけることができた。
正門はすでに突破され、宮中に地上と空中の両方からスパインドラゴンが侵入してきている。戦況はあまり芳しいと言えなさそうだ。
「ギャオオオオオオオオッ!」
正門近くに到着するやいなや、俺たちが来るのを待ち構えていたかのように、無数のスパインドラゴンが行く手を阻む。
そこですかさず、ジャックが先陣を切った。
「邪魔ァッ!」
ジャックは大剣を振るい、〈爆破〉と〈溶断〉を組み合わせた強烈な斬撃をスパインドラゴンの首根っこに食らわせた。バッサリと切断された首が宙を舞う。
しかし、失われたはずのドラゴンの首は、切断面からすぐさま生えてきてしまった。
「なにッ!?」
「こいつら、再生するんだ! 体内の核を狙え!」
「ちいっ、こざかしい! メルティ!」
「はい~、ヴァルマ・ヒュズ~」
メルティは〈魔眼〉を使ってマナの流れを可視化しつつ、ドラゴンの身体を巨大な風刃で切り裂き、核を露わにした。
「そこだぁ!」
素早く踏み込んだテルマが右の拳を当てた瞬間、〈圧縮〉した空気が爆発し、核は粉々に吹き飛んだ。スパインドラゴンはもはや体を維持できなくなり、解けた茨の中から泥が漏れ出す。
「俺たちも行くぞ!」
「ああ!」
そばにいた別のスパインドラゴンの顔面をタオファが蹴り上げ、その隙にユウキが胸部を斬り刻む。
「そこ!」
それを見たサーニャは即座に傷口を凍らせて固定した。これでやつの再生を妨げることができる。
「左胸部、深さ二十センチくらいのところに核があるのだ!」
スパインドラゴンの体内を透視したエーリカの指示に従い、俺は魔剣を振るう。
「クロスエッジ!」
十字に斬りつけた中心点を一気に突き刺すと、ぐさりと固い物を貫く感触がして、スパインドラゴンは動きを停止。その全身を形作る茨と泥が地面に散らばっていった。
「やるな、ビヨンド!」
「そっちも!」
俺とジャックは横並びに立ち、互いに笑いあった。この調子なら、多少の劣勢は覆すことができるに違いない。
そんなわずかな希望を抱いた、そのときだった。
「また会ったな、お前らぁ。ドラゴン討伐、頑張ってますかぁ?」
聞く者を嘲笑するかのような軽薄な声音が響く。スパインドラゴンの群れを割って、正門のある方角から、ゲイルは悠然と歩いてきた。
「ゲイル……!」
「あいつが件の男か」
「あれあれぇ? 仲良く慣れ合っちゃって、もしかして本気で俺を倒すつもり?」
「当然だ」
怒りと共ににらみつける俺を、ゲイルはじっと見つめて、にんまりと笑った。
「いいねぇ。その真剣な顔を後悔と絶望でぐちゃぐちゃにするのがたまらなく楽しみだぜ」
ゲイルは周囲の地面から茨を生やし、へらへらと笑いながら杖を構える。
「来な。遊んでやるよ」
「ゲイルゥッ!!」
たまらず、俺は魔剣を握りしめて駆け出した。