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123話「万全の体制」

 ぐーちゃんは王宮に訪問したその日に手厚く保護された。


 俺たちもそのおこぼれに預かって、街角の宿屋では到底受けられないようなⅤⅠP待遇を受けている。

 一人に一部屋が用意されているだけでもすごいのに、王宮の大浴場に入れて、フルコースの宮廷料理まで食べられるなんて、まさに至れり尽くせりだ。


 さて、そんな些末事は脇に置いておいて、護衛の内容について整理しよう。


 大将軍と防衛計画を話し合った結果、対ゲイルには俺たちビヨンドをはじめとした冒険者の少数精鋭を当て、残りの兵士たちは巡回による哨戒や民間人の避難誘導へ回ることになった。


 具体的には、市中を見張る兵士を増員し、残りの兵士たちもいつでも出動できるように宮中に待機することになっている。

 一方、冒険者たちは宮中の中央広場付近で門の外を警戒しつつ、いつどこにでも駆けつけられるように準備しておくといった次第だ。


 これで準備は万全だ。あとは全力を尽くし、一丸となってゲイルを迎え撃つ。


 宮中が若干緊迫した雰囲気に包まれる中、ぐーちゃんはそれとは対照的に、ソファにぐでっと横たわっていた。その手には、暇つぶし用の本が握られている。


「豪華な部屋に美味しい食事がつくのはいいんだけど、いかんせん退屈だなぁ」


「ゲイルがいつ襲ってくるか分からないんだ。安全が確実に確保できるまでは我慢してくれ」


「分かってるってば。言ってみただけ」


 ぐーちゃんは本をパラパラとめくりながら、俺たちの方へちらりと視線を向けた。

 たまには顔を見せに来てほしいと言われたので、愚妹仙人の状態確認という体で、定期的に部屋に遊びに来ているのだ。


 そんなわけで、暇そうなぐーちゃんと、手持ち無沙汰な俺たちは、わずかばかりののどかな時間を過ごしているのだった。


「なあ、暁光の杖の弱点とかないのか? ゲイルを斬っても全然死なないし、困ってるんだが」


「ないよ~。あれはあくまでケシムを封印するための杖だから。そんで、斬っても死なないってことは、中に封印されてるケシムの泥と完全に一体化しちゃってる可能性が高いかも」


「一体化……」


「ケシムの精神汚染に耐え切らないと正気が保てないから、普通の人間ならやらないんだけど、そのゲイルってやつは頭のねじが吹っ飛んでるっぽいね」


 俺は、茨の魔女が堕天使と見紛う姿に変身したときのことを思い出した。

 あれも一種の一体化だったのかもしれない。


「その状態のゲイルをどうやって倒せばいい?」


「体内のどこかに(コア)があるはず。それを破壊するしかなさそうかな」


「なるほど、核か」


 スパインドラゴンと戦ったとき、相手の核を破壊することによって倒すことができた。

 それと同じことをすればいいということらしい。


 そのとき、シエラがパキポキと手の指を鳴らした。


「うーむ、何だかまどろっこしいのう。ゲイルを倒したところで、また新たな持ち主が現れたら元も子もないんじゃから、いっそのこと杖をぶっ壊してしまえばよいのではないか?」


「万が一折れたり斬れたりしないように、物理的にも魔術的にもめちゃくちゃ硬く加工してあるから、破壊しようとしても無駄だよ」


「なにぃ? じゃあ燃やすのもダメか?」


「燃えないようにちゃんと加工してあるよ。というかそもそも、杖が壊れたらケシムが復活しちゃう可能性があるから、おすすめはしないかな」


「があっ! ああ言えばこう言うじゃな!」


「事実なんだから仕方ないっしょ」


 頭をかきむしるシエラに、ぐーちゃんは淡々と言い放った。

 なるほど、道理で魔剣の刃が通らないわけだ。やはり俺たちは、ケシム復活を阻止する方向でしか動けないみたいだな。


 そんな風に会話をしていると、ユウキがふと声をあげた。


「あっ、もうこんな時間か。そろそろ警備に戻らないと」


 時計の針は来室してから二十分が経過したことを告げていた。あまり長居しすぎて、警備に穴が開くのは避けたいところだ。


「それじゃ、また来る」


「うん。アタシの護衛、みんな頑張ってね」


「ああ、もちろん」


 若干の不安を抱えつつ、俺たちはぐーちゃんの居室を後にした。


 部屋の外には宮中でも選りすぐりの優秀な武官が常に立っており、周囲を警戒している。なにか異常があれば、すぐ俺たちに連絡が届く仕組みだ。

 だから大丈夫だとは思いつつも、この場を離れるのはやっぱり心配だった。


 部屋を振り返る俺を見て、ユウキはそっと俺の背中に手を当てた。


「不安かい、アケビくん」


「まあな」


「これだけ守りを固めているんだ。よほどのことがない限りは安全だろう」


「そうだといいんだけどな」


 とはいえ、暁光の杖が絡むと、本当に何が起こるか分からない。俺は後ろ髪を引かれる思いで、警備の配置に戻っていくのだった。

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