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121話「ぐーちゃん華麗に登場☆」

 竹藪(たけやぶ)の中、道なき道を進んでいくビヨンド一行。

 ジンハオの住人たちに聞いた結果、愚妹仙人はここに一人で住んでいるそうだ。


「それにしても、よくこんなところに住む気になるよなぁ」


 視界はすっかり藪に包まれており、全く奥が見えない。歩きにくいわ虫は多いわで、住みやすさとは程遠く感じる。


「何か理由があるんだろうか?」


「人間を避けて住む輩は大抵ワケありじゃろ」


「……経験談?」


「うるさいわ、たわけ! 噛むぞ!」


 いつも通りのやり取りをしながら、草を刈って先に進んでいく。魔剣の作り手も、まさか後世でこんな風に使われることになるとは思ってもみなかっただろう。


 そのとき、一陣の風が俺たちの間を吹き抜けた。刹那、〈俯瞰視点〉を発動したタオファが、空中で何かを弾き落とす。


「これは、クナイか?」


 その暗器を注意深く拾い上げたタオファは、元きた方向に投げ返した。


「ほう、なかなかやるようじゃな」


 どこからともなく声が聞こえ、次いで現れたのは天狗の面を被った背の低い人間だった。緑色の着物を着て、足には高下駄を履いている。


「ワシはこの竹藪に住む天狗じゃ。お前たち、何の用があってここに来た? 正しき理由がなければ、帰るが良い」


 そう言ってクナイを構える小天狗に、俺は一歩進み出た。


「俺たち、暁光の杖を追ってこの国までやってきた。それで愚妹仙人が命を狙われてるかもしれないと知って、助けに来たんだよ」


「あっ、そうなの? それじゃ着いてきて」


 一触即発かと思いきや肩透かしを食らった俺たちは、小天狗の案内で先へ進むことになった。


 小天狗はいとも簡単に竹藪を歩いていく。

 俺たちはひいひい言いながらその背中を追いかけていった。


 やがてたどり着いたのは、木で出来た小屋だった。人一人が住むにはちょうどいいサイズだ。


「遠慮しないで、上がって上がって」


 小天狗は小屋の中にズカズカと上がり込んでいく。俺たちはおっかなびっくり、その小屋に足を踏み入れた。


「お邪魔しまーす……」


 中は整理が行き届いているというか、必要最低限の物しか置かれていないといった感じだった。

 小天狗は手際よく茶を汲み、テーブルの上に差し出した。


「座んなよ。疲れたっしょ?」


「それは、まあ」


「遠慮せずに、ほら」


 小天狗に促され、俺たちはおずおずと椅子に腰掛けた。

 小天狗は俺の向かいに座ると、その面を外した。現れたのは、まだあどけなさが残る少女の顔だった。


「アタシが愚妹仙人だよ。気軽にぐーちゃんって呼んでね☆」


 ロイドさんとはまた違った軽薄さだ。もちろん、仙人と言うには程遠い。

 俺が訝しげに眺めていると、愚妹仙人はぷくーっと頬を膨らませた。


「あっ、賢者の末裔だって信じてないっしょ? こう見えても本物だかんね!」


 その年齢、性別や性格と賢者の血筋とは関連性がない、というのは理解しているつもりだ。

 それでも、仙人を名乗るいかがわしい人物が現れれば、少しは疑いたくもなるというものだ。


「じゃあ一つ聞くけど、なんで初対面の俺たちを信用した?」


「うーんとそれはね、ケシム特有の邪悪な気を感じなかったから」


「気?」


 愚妹仙人は立ち上がって、壁際にある陰陽の図を手に取った。


「仙術の基本になるエネルギーのこと。魔道士たちはマナって言うみたいだけどね」


「ああ、マナのことか」


「もし暁光の杖の持ち主がいたら、ドス黒い気が漏れ出してるはずだから、すぐに分かるってワケ。どう? 納得した?」


 あのドス黒いマナが流れる感覚はいまでも鮮明に思い出せる。ケシムの存在を知っていることといい、この仙人、あながち口だけという訳ではなさそうだ。


「信じるよ、あんたが賢者の末裔だってこと」


「良かったー。ってか、あんたじゃなくて、ぐーちゃんって呼んでって言ったじゃん!」


「ぐ、ぐーちゃん」


「そそ。それが一番呼びやすいかんね」


 ぐーちゃんはニカッと笑うと、自分で注いだお茶をすすった。


「そういや、ぐーちゃんはどうしてこんな辺鄙な場所に住んでるんだ?」


「アタシ有能だからさ、外で暮らしてるとめっちゃ周りから頼られるワケ。それがめんどいから、人払いの術かけて竹藪に引きこもってんのよ」


「あー、なんか分かる気がするなそれ」


 良くも悪くも距離感を詰めやすいこの雰囲気が、彼女を困らせているのだろう。現にこの俺も、なんだかんだで彼女と談笑してしまっているわけだからな。


「あっ、そうだ。アタシからも一つ聞きたいんだけど、人払いの術、どうやって破ったん?」


「ああ、それなら私が斬ったよ」


「斬れるんだ、すごいね! 魔法剣かな?」


「ご名答」


「お兄さんたち、相当腕が立つみたいだね。んじゃ、アタシのこと助けに来たってのもガチっぽい?」


「ガチもガチ、大ガチだよ。ぐーちゃんがゲイルに殺されると、ケシムが復活しちゃうからな」


「あー、もう六人やられたんだ……それじゃますます深刻だね」


 ぐーちゃんは悲しげにため息をついた。


「それじゃあ、俺たちと一緒に王宮まで来てくれるか?」


「お兄さんたちだけだと護衛が心配なんでしょ? 分かった。一緒に行くよ」


 ぐーちゃんはそう言うと、即座に立ち上がった。こう話がスムーズに進むと、こちらとしてもやりやすい。


「お兄さんじゃなくて、アケビって呼んでくれ」


「分かった、アケビね」


 ぐーちゃんはウインクすると、早速出かける支度を始めた。ゲイルの魔の手から身を守るため、一刻も早く安全な場所に避難しなければならないことを理解しているのだろう。


 そこで俺はふと疑問を思いつき、ぐーちゃんに投げかけた。ケシムとは全く関係のない疑問だが、聞かずにはいられなかったのだ。


「ちなみにぐーちゃんっていま何歳なんだ?」


「この前200歳になったくらいかな」


「マジかよ……!?」


 どうやらガチの仙人だったみたいだ。俺は思わず目を剥いた。

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