119話「ビヨンドvsドラゴロン」
「グオオオオオオオオオオ!!」
再び咆哮を轟かせた後、ドラゴロンはその巨体を丸めて転がってきた。質量に任せた大味な攻撃だが、脅威であることには違いない。
「どうする!?」
「俺に任せろ!」
俺は足の裏に〈粘着〉を使いながら〈質量操作〉を発動。上半身を〈身体強化〉と〈硬化〉で補強しながら、ドラゴロンの突進を受け止めた。
「オゥラァッ!」
そして俺は、軽くしたドラゴロンを真横に放り投げた。横転したドラゴロンは、困惑した様子でもがいている。
「いまだ!」
「言われなくとも!」
タオファとシエラは、露わになったドラゴロンの腹部目掛けて、強烈な飛び蹴りをお見舞いした。
しかしガンと鈍い音がして、二人の蹴り足は跳ね返された。
「硬ってぇ!」
「全然効いとらんぞ!」
「甲殻が硬すぎるんだ!」
そうして俺たちが攻め切れない間に、ドラゴロンは横に転がって起き上がってしまった。首を振りながら体勢を立て直したドラゴロンは、こちらをギロリと睨みつける。
その瞬間、〈動作予知〉が危険な攻撃の予兆を感じ取った。
「サーニャ! あいつの口を凍らせてくれ! ブレスが来る!」
「それじゃあ、遠慮なく」
サーニャがぱちんと指を鳴らすと、ドラゴロンの頭全体が分厚い氷に覆われた。
驚いたドラゴロンは、自分の頭を何度も岩壁に叩きつけて、それを割ろうとするが、なかなか割れない。
そのおかげで、ドラゴロンの攻略法を考えるわずかな時間ができた。
このドラゴンの弱点は、おそらく甲殻の下の柔らかい皮膚だ。そこに攻撃を到達させるためには、わずかな甲殻のすき間を狙うか、甲殻そのものを剥がす必要がある。
「やっぱ甲殻を割るしかねぇか……!」
「でも、どうやって?」
「俺に一つ、いい考えがある!」
俺は魔剣から斬撃を飛ばして、そばに立っていた太い石柱を切り取った。
おそらく、持っている物体を打撃武器と認識していれば〈剛腕〉は発動するはずだ。
俺はこの巨大こん棒を〈質量操作〉で軽量化し、高々と持ち上げた。
「動きは押さえたのだ! いまなのだ!」
「食らえ! ヘビースマッシュ!」
こん棒が落下する勢いに合わせて、俺はその質量を一気に大きくし、さらに〈硬化〉と〈加速〉を併用した。
〈質量操作〉、〈硬化〉、〈加速〉、〈剛腕〉の四つのユニークスキルが組み合わさり、絶大な威力を持った一撃がドラゴロンの背中にぶち当たる。
激突の衝撃によって背甲がメキメキと音を立てて割れ、ドラゴロンは力なく地に伏した。
「よし、ここは任せてくれ!」
ユウキは電光と化して頭上に飛び上がると、天から降る雷に見紛う一撃を、ドラゴロンのひび割れた傷口に叩き込んだ。
「とどめはわたしが! rednuht ekorodot!」
ニアの唱えた呪文によって雷の柱が立ち上り、ユウキが突き刺した刀を媒介にして、ドラゴロンの体内へと流れ込んでいく。
やがて、全身から黒い煙を立ち昇らせながら、ドラゴロンは力尽きた。肉の焼ける臭いが鼻をつく。
「ふぃ~。一丁上がり、ってか」
「なかなかの強敵だったのだ」
「そりゃそうだ。討伐難度Sランクの凶悪なドラゴンだかんな」
「あっ、そうなんだ。全然知らなかったぜ、そんなの」
道理で、普段出会う魔物よりも強かったわけだ。
あの硬い甲殻で全身を包んでいることがSランク認定の理由だろうな。旅に出たばかりでまだ弱い頃の俺だったら、おそらく倒せていないだろうと思う。
「そういう抜けたところがアケビらしいのう」
「褒めてんのか馬鹿にしてんのかどっちだ?」
「両方じゃ」
「なんだよそれ」
漫才のような会話をしながら、俺たちはドラゴロンの甲殻や内蔵をテキパキと剥ぎ取っていく。使えそうなところは、持ち帰ってギルドの鑑定所に渡せば結構な金額で売れるからだ。
しばらくして、目ぼしい部位を剥ぎ取り終えたところで、俺はそれらをまとめて背負った。
〈質量操作〉のスキルがある俺は、いつだってパーティの荷物持ちだ。最初のうちは嫌だなぁと思うこともあったが、いまではもう慣れたものだった。
「よし、それじゃそろそろ行くか」
「そうだね。騒ぎを聞きつけた他のドラゴンたちが駆けつけてこないとも限らない」
「一匹一匹が強すぎるし、まともに相手してたらきりがねぇぞ」
「ああ、全くだ。ってなわけで〈隠密〉」
今回は月雫草の花を手に入れるのが目的であって、ドラゴンを倒すことが目的ではない。夜は視界が悪く、さらに足場も悪くて戦いにくいから、不用意な戦闘はこれ以上避けたいところだ。
ドラゴロンが通せんぼしていた場所を見ると、奥に道が続いているのが分かった。俺たちが通ってきた道はこれに違いない。
一息ついた俺たちは、その道を静かに伝って、再び谷の外へと向かっていった。