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12話「俺たちなんかやっちゃいました?」

 病院に搬送されていく冒険者たちを全員見届けた俺たちは、ネルカプラに無事帰ってきた。

 町に帰還した途端、入口に集まった町民たちが一斉に出迎えてくれたのには驚いた。


「アケビさん、ニアさん、おかえりなさい!」


「君たちのおかげでまた店が開ける! ありがとう!」


「打ち上げはぜひうちの店に!」


 一度は「技なし」と言われ(さげす)まれた俺がこんなに多くの人たちから讃えられるなんて、夢みたいだ。

 目が回りそうな量の挨拶と歓迎を浴びながら、俺たちは冒険者ギルドへ向かっていった。


 面倒くさいことだが、依頼目標を達成した者は一度ギルドまで報告しにいかなければならないという決まりになっている。


 しかも今回の場合、依頼達成を報告できる人間が俺たちしかいないのだ。一緒にいた他の冒険者たちはみんな逃げ帰ったか、ケガでぶっ倒れているかだろう。


 ギルドの建物の中に足を踏み入れると、スタッフ一堂総出で迎えてくれた。


「「「グランドドレイク討伐成功、おめでとうございます!」」」


「あ、ありがとうございます……」


 ここまで大げさに祝福されるとちょっと恥ずかしい。

 俺がどう反応したらいいのか戸惑いながら頭をかいていると、依頼受注を手伝ってくれたスタッフの女性が駆け寄ってきた。


「やったのね、あなたたち! 低ランクとは思えない強さね! さすがだわ!」


「はい。なんとか倒せました」


「ありがとう! これで閑古鳥が鳴かずに済む!」


 手を握ったままぶんぶんと振られて、俺はたじたじになりながら笑った。

 これで彼女の暇な日々は終わりを告げるのだろう。


「あっ、そうそう。あなたたちに渡すものがあるのよ」


 スタッフの女性はカウンターの奥にいったん引っ込むと、大きな布袋を持ってきた。中ではチャリチャリと金属のぶつかる音がしている。


「はい、これが報酬の10000ジラよ」


「えっ、たったそれだけ……?」


「ごめんなさい。討伐成功時には冒険者ランクに応じた金額を渡す、っていう風に決まっていたみたいでね。これでも上乗せしてくれたそうよ」


 討伐隊に参加した他の冒険者たちのメンツがあるから、特定の参加者にだけ大金を渡すわけにはいかないのだろう。

 労力とリスクに見合わない報酬額に少しムッとしたが、ギルドの人たちは何も悪くない。この場でごねるわけにはいかず、俺は仕方なくそれを受け取った。


「それから、あなたたちの戦果をギルド本部に送っておいたわ。近いうちに査定されて、おそらくランクが上がるはずよ」


「本当ですか!?」


「当然よ、たった二人でAランクの強敵を倒したんだもの。もっと胸を張っていいのよ」


 スタッフの女性に諭され、俺は照れながら恐縮した。


 そう言われても、なんだかあまり実感が湧いてこない。

 あれが本当にAランクの強さだとすると、あまりに弱すぎるような気がした。それとも、ユニークスキルをたくさん集めたおかげで俺が強くなりすぎてしまったのか?


 冒険者カードに依頼達成の情報を書き込み終えた女性スタッフは、それをこちらに返却してきた。


「本当におめでとう。今日はゆっくり休んでね」


「ありがとうございます」


「ありがとう!」


 俺たちは別れ際に手を振ると、続いて宿屋「ラクス」へと向かった。

 ほとんど攻撃を食らわなかったとはいえ、ユニークスキルを多用したせいか、全身が疲労感でいっぱいだ。さすがにちょっと休みたい。


 宿屋の主人である赤毛の女性は、俺たちが帰ってきたのを見るとにこりと微笑んだ。


「おかえりなさい、英雄さん」


「英雄だなんて、そんな」


「いいじゃない、事実なんだから」


 ぽんと肩を叩かれた俺は、カウンターに肘を突きながら彼女に話しかける。


「あの、申し訳ないんですけど、もう一泊していってもいいですか? グランドドレイクと戦ったせいでへとへとになっちゃって」


 すると彼女は「あはは」と声を上げて笑った。


「そんな遠慮しないで、何泊でもしていってよ! お代はいらないから」


「いえ、そんな! 申し訳ないです!」


「これはあたしからのささやかなお礼よ。あの魔物を倒してくれたおかげで、あたしはこれからあんたたちの宿代以上に儲かるの。だから気にしないで」


「すいません、ありがとうございます」


 街道が通行可能になったことによって、人通りが復活して、これからこの町にたくさんの旅行客や行商人が流入してくる。

 そうなれば、店舗を経営する人々としては売上が元に戻って万々歳、ということになる。


 なるほど、それで町民たちはみんな大喜びしていたんだな。俺たちが頑張って倒した甲斐があるというものだ。


「それじゃごゆっくり、英雄さん」


 宿屋の主人に手を振ると、俺たちは階段を上がって二階の自室へと向かった。


「アケビ、わたしねむい」


「そうだな。少し疲れたな」


「うん」


 俺たちは自室に入るなり、それぞれベッドに横たわった。

 張っていた緊張の糸が解けたせいか、それまで感じなかった疲れがどっと押し寄せてくる。


 もう少しこの街でのんびりしていくのもいいかもしれないな。

 そんな風に考えながら天井を見上げているとだんだん眠気が襲ってきて、俺は深い眠りに落ちていった。

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