表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/133

116話「いわくつきの依頼」

 俺たちビヨンド一行は、長旅を経てついに首都ジンハオに到着した。


 赤を基調とした街並みは他の町と相変わらずだが、その広さは桁違いだ。繁華街は多くの人でごった返しており、普通に歩くだけでも大変だ。

 さすが、国土面積最大の国ナジアと言うべきだろう。


「それで、これからどうするんだっけ?」


「冒険者ギルドで、ゲイルや賢者の末裔につながる情報を探る」


「まあ、それが一番可能性のあるやり方だろうね」


「しかし、そう簡単に見つかるとは思えんな」


「そうだなぁ。長期戦も視野に入れた方がいいかもな」


 これまでは運良く依頼や情報が舞い込んできていたが、これからもそうだとは限らない。

 しかしなんとしても、ケシムの復活だけは食い止めなければならない。


 なにか問題解決の糸口が見つかることを天に祈りながら、俺は冒険者ギルドの敷居をまたいだ。


 大国なだけあってか、冒険者ギルドの建物もとても大きい。

 俺は視線を巡らせ、たまたま空いていた窓口のスタッフに話しかけた。


「あの、すいません。俺、ビヨンドのアケビ・スカイっていう者なんですけど」


「アケビ・スカイ様ですね! 少々お待ちください」


 そのスタッフは俺の冒険者カードを目にすると、いったんカウンターの奥に入ってから戻ってきた。


「こちらへどうぞ」


 どうやら、Sランク冒険者は応接室で接待するというのが決まりらしい。

 別室に案内された俺たちは早速、赤いソファに腰掛けた。


「私、レイラが対応いたします。今回はどのようなご用件でしょうか?」


「いま俺たちは『賢者』と呼ばれる人物を探しているんですけど、なにかそれらしい情報は入ってきていませんか?」


「『賢者』ですか? そうですね、私が知りうる限りでは、これといった情報はありませんね」


「そうですか。それじゃあ、ゲイルという男については何か?」


「いえ、聞いたこともありません。お力になれず、申し訳ございません」


 まあ、そうだろうな。それで見つかるなら苦労はしない。


「できれば、偉いやつに会って直談判できればいいんじゃがなぁ」


「馬鹿、そんな依頼あるわけないだろ」


 俺がシエラにいつものようにチョップしようとすると、レイラはずずいと身を乗り出した。


「それなら、ありますよ」


「えっ?」


「ただし、誰も受注しようとしない、いわくつきの依頼です。それでもよろしければ、ご案内差し上げますが、いかがいたしましょう」


 深刻な顔つきでこちらを見やるレイラに、俺は恐る恐る尋ねた。


「いわくつきって言うと、具体的には?」


「依頼の説明を受けたら、必ず受注しなくてはならないという条件がついているんです。しかも、依頼主様がこれまた大層なお方で」


「一体誰なんです?」


 レイラはごくりと唾を飲み込んでから、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「皇后陛下です」


「皇后陛下ぁ!?」


 タオファはレイラの言葉を聞くなり、後ろにひっくり返った。


「それって、そんなにすごい人なのか?」


 隣にいたユウキとニアに支えられて、起き上がったタオファは、口角泡を飛ばした。


「皇帝陛下と並んでナジアの頂点に君臨する、ど(えれ)ぇお方だ。滅多なことでは会えねぇぞ」


「そうなのか。それじゃ受けよう」


 あっさりと言い放った俺に、タオファは慌てて掴みかかった。


「待て、アケビ! よく考えてみろ! 皇后陛下直々の、しかもそんな特殊な条件がついた依頼、失敗したらどうなるか、分からねぇぞ!」


「それじゃ、黙って賢者が殺されるのを見てろってか? 俺はそんなの嫌だね」


「そうは言ってねぇだろ! 無理難題を押し付けられるかもしれねぇって話だ!」


 レイラは口論する俺たちを見かねて、助け舟を出した。


「これまでに何度かSランク冒険者の方に依頼の受注を打診したことがあるのですが、皆さん断られました」


「ほら見ろ。危ねぇ依頼に決まってる」


「アケビくん。急いては事を仕損じるという話もある。少し考える時間を取った方がいいんじゃないかな」


「妾は受注に賛成じゃ。ひとっとびにパイプがつながる、うってつけの依頼じゃろ」


「わたしは反対。アケビが危険にさらされるのは嫌」


〈私はアケビのサポートを全力でするだけなのだ〉


「私は賛成。皇后陛下に『聖地』のこと、お願いできるかもしれない」


 慎重派のタオファを筆頭に、それぞれが意見を口にする。そして、最後の決断は俺に委ねられた。


 たしかに、この依頼は踏むべきではない地雷なのかもしれない。

 だが、敵の後手に回って後悔するのはもう嫌だ。先手を打つためには、皇后陛下に直接会うことができる機会をみすみす逃すわけにはいかない。


「俺はこの依頼、受けようと思う。みんな、覚悟しておいてくれ」


「やっぱりそうなっちまうか……分かった。おらも腹を括る」


「それでは、受注するということでよろしいですか?」


「ああ、頼むよレイラ」


 こうして、俺たちは皇后陛下の依頼を受けることになった。

 この選択が、果たして吉と出るか凶と出るか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
「応援したい!」
と思ったら、↑の[☆☆☆☆☆]から評価をよろしくお願いします!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ