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115話「偽ビヨンド、反省す」

 セーラと名乗った依頼主の少女を連れて、偽ビヨンド一行は街道を行く。


「いい天気ですね、アケビ様」


「ああ、そうだな」


 タンザは両手を頭の後ろで組みながら空を見上げた。

 町を出てから、一度も魔物に会っていない。絶好の護衛日和だ。

 

 このまま無事に首都まで直行して、報酬をぶんどってやる。

 そう思っていたタンザだったが、物事はそう上手くはいかなかった。


 峠に差し掛かってしばらく歩いたところで、タンザたちは行く手を謎の人物に阻まれた。


「お前、アケビ・スカイだな」


「ああ、そうだ。何か用か?」


「私は氷の魔女。ゲイル様の命令でお前たちを抹殺しに来た」


「はぁ? 一体なんのこと――」


 フードの女が手をかざした次の瞬間、人間の頭くらいの大きさをした氷塊が猛スピードでタンザの顔をかすった。


「……へ?」


「次は当てる」


 氷の魔女は体の周囲に無数の氷のつぶてを浮かべながら凄む。タンザはその迫力に押されて数歩退いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! どうして俺たちを狙う!」


「ビヨンドはケシム様の復活にとって邪魔な存在。だから早いうちに潰しておく」


(何を言ってるか全然分かんねぇが、ビヨンドが狙われてるってことに違いはねぇ!)


 プライドなど微塵の欠片もないタンザは、慌てて両手を合わせた。


「すまん! 俺たち、本物のビヨンドじゃないんだ! 名前を借りてただけなんだ! だから許してくれ!」


「偽者でも構わない。少しでもビヨンドだという可能性があるなら、殺す」


 氷の魔女の両の瞳には明確な殺意が灯っていた。これは話し合いで解決することは難しそうだ。

 こうなったら、やるしかない。


「し、下手に出てりゃつけあがりやがって! そっちがその気なら容赦しねぇぞ!」


 タンザは剣を抜いて威嚇するも、氷の魔女は全く動じない。それどころか、戦意有りとみなしたようで、今度は両手をかざした。


「ちょっとアンタ! なんとかしてよ!」


「うるせぇ! お前も文句を言うばかりじゃなく、少しは戦え!」


「無茶言うんじゃないよ! 剣どころかナイフすらまともに握ったことないんだから!」


「無理ですよぉ、タンザ様ぁ」


「助けてください、タンザ様ぁ」


「タンザ様ぁ」


「こら、まとわりつくな! 動きづらいだろ!」


 無駄な口論をしている間に、氷の魔女はタンザたちの頭上に巨大な氷塊を生み出した。

 口をあんぐりと開けるタンザたちに向かって、氷の魔女は両腕を振り下ろした。


「さようなら、ビヨンド」


「ひ、ひいぃっ!」


 タンザたちは走って逃げ出そうとしたが、みな一斉に尻餅をついた。いつの間にか両足を氷で固定されていたからだ。


 万事休す。タンザはアケビ・スカイを名乗ったことを死ぬほど後悔しながら目を瞑った。


 それから、しばし静寂の時が流れた。


 恐る恐る目を開けたタンザは、両手を腰に当てた氷の魔女とセーラに、じっと見下ろされていることに気がついた。頭上からは、砕け散った氷片がキラキラと舞い落ちてくる。


「ビヨンドを名乗るからには少しはやるのかと思っておったが、なんとも情けないのう」


 やれやれと首を振ったセーラは、左手で髪をふぁさっと払うと、大声で叫んだ。


「お主ら、出番じゃぞ!」


「あいよ!」


 右手にある崖の上から颯爽と現れたのは、セーラと同年代くらいに見える少年たちだった。


 茶髪の少年は、呆然と座り込むタンザたちの前に歩み寄ってきた。


「あんたたちだな、ビヨンドを名乗ってるっていうのは」


「はっ、はい」


 氷の魔女の襲撃が終わり軽く放心状態だったタンザは、思わず敬語になってしまった。


「アケビ。こやつらのこと、どうしてやろうか」


「氷漬けにする?」


「いや、そこまではしなくていいよ」


「アケビって、まさかあんた――」


「ああ。俺がアケビ・スカイだ。本物のな」


 タンザたちはその瞬間、彼らが何者であるかを理解した。


「「「「「すみませんでした!!」」」」」


 タンザたちはそう叫びながら、即座に両膝をついた。


「ほんの出来心だったんです! ビヨンドの皆さんを貶めるつもりはありませんでした!」


「ほう、いい度胸じゃねぇか」


 アケビはすらりと魔剣を抜き、タンザの首元に刃を当てた。

 タンザはごくりと唾を飲み込んだ。額から冷や汗が流れる。


 彼がこのまま刃を横に振り抜けば、タンザの首は簡単に吹っ飛ぶことだろう。


「こんなことはもう二度としないって約束するなら、許してやってもいいよ」


「はい、それはもう! 当然のことでございます!」


「本当だな?」


「本当です! 神に誓って!」


 タンザの心臓が、口から飛び出しそうなほど激しく拍動する。

 やがて、アケビは「ふぅ」とため息をつきながら魔剣を引き、鞘にしまった。


「分かった。それじゃあ、もう行っていいぞ」


「本当に、すみませんでした! ほら、早く立ちな!」


「う、ううっ」


 地面にへたり込んだタンザを強引に支えながら、取り巻きの女性たちはそそくさと退散していった。


「道中気をつけろよ~! って、もう聞こえてないか」


「大したことないやつらじゃったな」


「偽者なんてそんなもんでしょ」


 どんな奴らが名を騙っているのかと思い、蓋を開けてみれば、三流冒険者とその囲いという、なんとも残念なオチだった。

 ビヨンドを名乗るならせめてもう少し骨のある冒険者であってほしかった、と思うアケビであった。


「さて。なにはともあれ、これで心置きなくジンハオに向かえるな」


「そうだね。行こう、サーニャ!」


「あっ、うん」


 サーニャにすっかり懐いてしまったニアを優しく見守りながら、アケビは街道を進んでいくのだった。

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