表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/133

105話「新たな持ち主」

 俺たちは魔導車を降り、炎上する事故現場へと向かっている。

 

 「俺たち」の中にはロイドさんも含まれている。

 国の大事(だいじ)である以上、そのまま放ってはおけないとのことで、彼も同行することになったのだ。


「その、大丈夫なんですか? 危ないところに来ちゃって」


「いざとなれば、自分の身くらい自分で守れるさ。それより、先を急ごう」


「はい」


 俺はロイドさんに促され、再び走り出した。「賢者」と呼ばれるからには、魔法による戦闘にも長けているのかもしれない。


 それから間もなくして、俺たちは組み木舞台の残骸の前にたどり着いた。


「それにしても、ひどい有様じゃな」


「ああ」


 さっきまでそこにあったはずの組み木舞台は、まるで嵐が通った後かのように、めちゃくちゃに破壊されていた。

 支柱が一本、ぽっきり二つに折れているのが見える。相当強い力を加えなければ、こんなことにはならないはずだ。


「うん……?」


 よく見ると、その支柱には太い茨が絡みついている。

 それは明らかに魔法で生み出されたものだと分かる、漆黒の色をしている。

 

 これは嫌な予感がぷんぷんしてきたぞ。


「ねえみんな、あれを見て!」


 ニアが指差した先にあったのは、いま見つけたのと同じ黒い茨で出来たドームだった。


 俺たちはそちらに向かって駆け寄っていった。


 間近で見ると、そのドームは思ったよりも大きかった。

 直接触れてみると、茨同士ががんじがらめになっており、そう簡単には破れそうにない。


 また、ドームの周囲には、しおれた死体が無数に転がっていた。みな一様に、まるで全身のエネルギーを吸い取られたかのような顔面蒼白で死んでいる。


「これは……!」


「ああ、間違いない」


 緊迫した面持ちで顔を見合わせる俺たちビヨンドメンバーを見て、ロイドさんは鋭い目を光らせた。


「君たち、なにか訳知りだね?」


「はい。暁光の杖というとても危険な杖があって、俺たちはその行方を追っていたところなんです」


「なるほど。つまり今回の事件はその杖が元凶だと、そういうことかな?」


「察しが良くて助かります」


 ロイドさんも戦いに協力してくれるなら心強い。


 とはいえ、まずはこのドームを取り払わなければ調査できない。

 どうしたものかと考えていると、俺たちの眼前で次なる変化が起こった。


 ドームを形作っていた茨が、枯れるようにして、はらりはらりと散っていく。


 やがて姿を現したのは、黒いマントを羽織った男と、全身ボロボロで地面に倒れ伏すマイの姿だった。その近くには、スラッシュが宿る短剣が落ちている。


「マイ!」


「なんだ、その賢者の知り合いか?」


 俺は耳を疑った。


 なんてことだ。どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう。

 由緒正しい血筋だと何度も聞いたじゃないか。


 賢者の末裔はロイドさんではなく、マイだったのだ。


「俺にとっちゃ、もう用済みだ。返してやるよ」


 男は地面から伸びた茨を操ってマイを持ち上げると、あろうことか、その身体を空中に放り投げた。


 俺は慌てて飛び上がり、マイをキャッチした。

 俺の腕に抱えられたマイは、焦点の定まらない瞳でこちらを見つめた。その胸に大きく開いた穴から、血がとめどなく流れ落ちる。


「アケ……ビ……」


「マイ! しっかりしろ、マイ!」


「ごめん……私、もう……」


「バカなこと言うな! これから踊巫女(おどりみこ)としてやっていくんだろ!? しっかりしろよ!」


 俺が体を揺すぶっても、マイの状態が良くなるわけではない。それは分かっている。でも、こんな最期なんてあんまりだ。


「アケビ……あり……が……と……」


「マイ!」


 マイは精一杯の笑顔を作ると、そのまま事切れた。


 俺はマイを優しく地面に下ろしてから、背を向けて立ち去ろうとする男をじっと見据えた。


「おい、待てよ」


「なんだよ。俺はもうこの場所に用はないんだが?」


「俺たちはテメェに用があるんだよ……!」


 他のメンバーたちも、憤りに満ちた目つきで俺に並び立つ。

 出会ってまだ日が浅いとはいえ、マイは大切な友人だ。それをこんなむごい姿で殺すなんて、絶対に許せない。


 男は「はん」と半笑いしてから、指をくいくいと動かして手招いた。


「このゲイル様に楯突こうってのか? いいぜ。そんなに死にたいなら、お望み通り地獄へ送ってやるよ。そのマイとかいうお友達と一緒にな」


「野郎……!」


 人の気持ちをどこまで踏みにじれば気が済むのだろうか。俺は怒りに震える手で魔剣を抜き払った。他のメンバーたちも、思い思いの構えを取る。


 ゲイルと名乗った男は狂気的なにやけ面で杖をだらしなく構えた。隙と無駄だらけのそのポーズは、お世辞にも戦闘に長けているとは思えない。


 しかし、相手は暁光の杖の持ち主だ。何が起きてもおかしくない。

 俺は〈俯瞰視点〉で場の状況を把握しながら、じりじりと間合いを詰めていく。


 そして極限まで張り詰めた均衡は、一瞬にして弾け飛んだ。


 俺が間合いに踏み込むのと同時に、ゲイルが無数の茨を伸ばす。

 俺は次々と襲い掛かる茨を斬り払いながら、一歩ずつ前進していき、やつの懐に潜り込んだ。


「殺された人たちの痛み、思い知れ!」


 俺はゲイルの心臓を魔剣で一突きにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
「応援したい!」
と思ったら、↑の[☆☆☆☆☆]から評価をよろしくお願いします!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ