表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/133

104話「スラッシュ、奮闘す」

 立派に大役を務めたマイは、控え室で椅子に座って休憩していた。

 今日の出番はこれで終了。あとは神社に帰るだけだ。


「お役目、ご苦労様です」


「ありがとうございます」


 神社のスタッフから飲み水を受け取りながら、マイはふうとため息をついた。

 巫女舞の儀が上手くいったのは、いざというときの心構えを教えてくれたアケビのおかげだ。あの出会いがなかったら、今ごろどうなっていたか分からない。


(今度会ったら、お礼を言わなくちゃ)


 アケビの顔を思い浮かべながらかすかに微笑み、水を口に含んだ、そのときだった。 

 突如として轟音が鳴り響き、マイは思わず目を閉じながら首を縮めた。


「な、なに!?」


 様子をうかがうために控え室から顔を出したマイは、逃げる関係者たちの姿を目にした。みな一様に怯えた表情で、一目散に駆けていく。その有様はまるでパニック映画のようだ。


 何がどうなっているのか分からず、呆然と立ち尽くしていると、たまたま通りかかった顔見知りの氏子(うじこ)の男性から声をかけられた。


「マイさん! 早く逃げてください!」


「何があったの!?」


「杖を持った男が、急に襲い掛かってきて――ぐわぁっ!」


 地面から生えてきた茨に全身を絡めとられたその男性は、言葉半ばで締め上げられた。

 たじろいだマイの前に、通路の奥から現れたのは、黒いマントを羽織り、長い木の杖を持ったゲイルだった。


「おーおー、いたじゃねぇの」


 ゲイルは嬉しそうに笑いながら、マイの方を凝視した。相手が纏う異質な雰囲気に、マイは思わず数歩退く。


「逃げ……て……」


「お前に用はないの。死んどけ」


 ゲイルが氏子の男性に杖の先端を突き立てると、杖がドクンドクンと脈動し、男性の体はみるみるうちにしなびていった。マイは恐怖のあまり、尻餅をついた。


「さあ、これで六人目だ。いよいよ復活のときが近づいてきたぞ」


 狂気を目に宿したゲイルは、獲物を狩る虎のように、じわじわとマイに近づいていく。それに伴い、地面から生えた無数の茨がマイの方へと伸びていく。


 このままではやられる。そう思ったマイの脳裏に、アケビの顔がふと浮かんだ。


(そうだ、護身用の短剣……!)


 マイは懐に忍ばせておいた短剣を取り出して抜き払うと、ゲイルに向かって突きつけた。


「来ないで!」


「おいおい、その小さいナイフで俺と戦おうってのか?」


「その通りっすよ」


 マイは迫りくる茨を切り刻みながら、数回バク転した。

 急激な変化を遂げたその身のこなしに、ゲイルは目を見開く。


「ま、戦うっていうよりは逃げるって感じっすけどね」


「へえ、そういうのもあるのか。面白ぇじゃねぇの?」


 ゲイルは不気味な笑みを浮かべながら、杖を構えた。それに合わせて、マイの体を借りたスラッシュも中腰でナイフを構える。


 しばしにらみ合いの後、先に動いたのはゲイルの方だった。杖からマナを発して茨を操ることで、マイの体を捕らえんとする。


 スラッシュはそれらの茨を丁寧かつ迅速に切り落としていく。そして、その俊敏さの方が、茨が生える速度よりも上だったらしい。後退りしながら茨を捌き続け、やがてスラッシュは屋外へと躍り出た。


 背後には組み木舞台の残骸が積み上がり、もうもうと燃え盛っている。その所々には黒い茨が巻きついており、ゲイルが破壊したであろうことをうかがわせた。


「ここまで来たらこっちのもんっす!」


 託されたマイの命を守るため、スラッシュは逃走を第一に考えていた。


 狭い屋内での戦闘ではゲイルに地の利があったが、視界が開けた建物の外なら逃げることは容易い。このまま逃げ切って、アケビたちと合流するのが良いだろう。


 そう思ったスラッシュが駆け出したのも束の間、ゲイルは杖を天高く振りかざした。


「逃がすかよ!」


 ゲイルの手にある杖からマナが発せられると、二人を囲うように生えた茨が互いに絡み合い、巨大なドームを生み出していく。


「そんなの、ありっすか……!?」


 スラッシュは垂れてきた冷や汗を拭った。閉鎖空間で、しかもアウェイでのタイマンとは、いささか分が悪い。


 ゲイルは相変わらず楽しそうな笑みを浮かべながら、両腕を広げた。


「これで逃げ道はもうなくなった。大人しくこの杖に命を捧げろ」


「それは無理な相談っすねぇ。そんなことしたら、アニキにもマイさんにも怒られちまうんでね」


「そうかよ。なら、苦しんで死ね!」


 ゲイルがそう叫んだ瞬間、ドーム全体から茨が伸び、スラッシュの四方八方を取り囲む。

 スラッシュは極めて劣勢なこの戦況の突破口を探りながら、必死に茨を切り刻んでいく。


(アニキたち、早く来てください……!)


 助けが来るのを祈りながら、スラッシュの孤軍奮闘は続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
「応援したい!」
と思ったら、↑の[☆☆☆☆☆]から評価をよろしくお願いします!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ