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103話「巫女舞の儀」

 とうとう魔導大祭の日がやってきた。


 俺たちはいま、ロイドさんに帯同(たいどう)しながら、舞台のVIP席で護衛任務に当たっている。これから行われる巫女舞の儀を鑑賞するためだ。


 省のトップである長官にとっては、こういう催し物に出席することも重要な仕事の一部なのだそうだ。

 今回は護衛任務のため、マイの晴れ舞台を見に行けないかもしれないと思っていたが、おかげで見られることになってよかった。


「そういや、今年から新しい踊巫女(おどりみこ)に代替わりしたらしいね」


「はい。マイっていう女の子が引き継いだんですよ」


「あれ? その言い方、もしかして知り合いだったりするの?」


「ええ、まあ」


「そうか。それじゃあ、応援してあげないとね」


「はい」


 俺は不安に震えるマイの姿を思い返しながら、木で組まれた舞台を眺めた。

 まさかこれほどの大舞台だとは、想像していなかった。これなら、マイが儀式から逃げ出したくなるのもうなずける。


「おっ、そろそろみたいだよ」


 ロイドさんは姿勢を正して椅子に座り直した。


 太鼓や笛などを持って舞台脇に待機していた楽器隊が、しめやかに演奏を始める。

 厳かな雰囲気の中、リンギスの伝統的な民族衣装でもある白い巫女服を身にまとったマイが、ゆっくりと舞台上に姿を現した。


 すり足でぐるりと大きな円を描くように歩いた後、マイは舞台の中央でいったん膝をついた。それに合わせて演奏が止み、静けさが場を支配する。

 それから少しの間を置いて、マイは右手に持った扇子を振るいながら、優雅に舞い始めた。


 地味で無駄のない、非常にゆっくりとした所作でありながら、その舞には華やかさと美しさが感じられた。さらに、落ち着いた笛と太鼓の音が、舞台上の浮世離れした雰囲気を際立たせている。


 俺は艶やかなマイの動きに終始見とれていた。こんなに華麗で上品なダンスはこれまでに見たことがなかったからだ。いつもは騒がしいビヨンドメンバーたちもこれには魅了されたようで、最後まで静かだった。


 時間の感覚を忘れるほど見入っていた、というのもあるかもしれないが、マイが舞い終えるまではあっという間だった。


 舞台の中央でマイが再び静止すると、観客席のそこかしこから拍手が沸き起こった。


(やったな、マイ……!)


 無事に儀式を終えたマイを眺めながら、俺は小さくガッツポーズをした。今回の成功で自信がついたことだろうし、これからは立派な踊巫女としてやっていけるに違いない。


 その証拠に、舞台からの去り際、マイはこちらに向かって静かに微笑んだように見えた。


「いやあ、よかったね」


「はい。初めて見ましたけど、この世のものとは思えない、不思議な舞でした」


「そうかい。リンギスの伝統文化、気に入ってもらえたみたいで何よりだよ」


 ロイドさんは笑顔でうなずくと、周りに合わせて立ち上がった。


「さて、次はおみこしかな」


「その予定ですね」


 魔導大祭のもう一つの目玉イベントが、おみこしだ。

 おみこしが出発するとき、魔法省の長官がその扉を開くという慣例があるそうだ。キースさんと俺たちはこれから神社に移動して、その準備に入ることになる。


 ロイドさんを護衛しながら、俺たちは舞台のそばの通りで待機していた黒い魔導車(マギアオート)に乗り込んだ。

 これは長官専用の魔導車だそうで、内装は簡素で清潔感があり、広々としている。しかも幸いなことに、ちょうど六人全員が乗り込めるサイズの車だ。


「車の外もちゃんと護衛しますので、ご心配なく」


「頼もしいね」


 俺はエーリカの存在を伏せながらうなずいた。

 もし何か凶器や弾丸が飛んできても、車に当たる前に念動力で止められるというのは心強い。もしかしたら、このメンバーの中で一番護衛に向いているのはエーリカかもしれないな。


 全員が乗り込むと、魔導車はゆるやかに発進した。


 出発してしばらくは静かな空気が漂っていたが、じっとしていられなかったらしく、そのうち並びに座っているタオファが身を乗り出した。


「魔導車っちゅうのは勝手がいいなぁ。おらたちも買おう」


「だから、言っただろ。車は悪路には向かないって」


「だけんどもよ、平地をいちいち歩かなくて済むのはでけぇぞ」


「ダメって言ったらダメ!」


「ケチ臭いのう、アケビは」


 そんな俺たちのやり取りを聞いていたロイドさんは、くすくすと笑った。


「はは、なんだか母親と子供の会話みたいだな」


「アケビ、わたしたちのお母さんだから」


「財布のひも、すごく固いんですよ、アケビくんは」


「すぐにおねだりが始まるから、困ったもんですよ」


「そりゃ大変だ。頑張れ、マスター」


 トホホと言いながら肩を落とす俺に、ロイドさんは再びくつくつと笑う。


 そんな調子で平和に事が進めばいいと思っていた、そのときだった。


 俺たちは、突然の大きな揺れに驚いた。


「きゃあっ!」


「なんだ!? 地震か!?」


「分かりません! 状況を確認して参ります!」


「待って!」


 運転手が魔導車を降りて駆け出そうとするのを、俺は慌てて引きとめた。


「俺が状況を確認します! みんなここで待機していてください!」


「心配するな、アケビに任せておけ」


「か、かしこまりました」


 ロイドさんからも声がかかると、運転手さんはおずおずと引き下がった。


 代わりに魔導車を降りた俺は、遠方でもうもうと上がる煙にすぐ気が付いた。

 何か重大な事件が起こっているらしい。


 俺はすかさず〈硬化〉を使った連続ジャンプで空中に飛び上がると、〈千里眼〉を駆使して周囲を見渡した。


(ということは、さっきの音の出どころも……!)


 嫌な予感とともに視線を巡らせた俺は、目を見開いた。

 組み木の大舞台から、火の手が上がっていた。

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