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99話「『踊巫女』マイ」

 互いに自己紹介を終えた俺たちは、マイと名乗った少女の案内に従って、ウィンゲア観光を楽しむことにした。


 早速ニアとシエラが飛びついたのは、路肩の出店だった。そういえばまだ昼ご飯を食べていなかったことに気がついた俺たちは、その店で買い食いすることにした。


 数分後に俺たちが手渡されたのは、紙の皿に乗った、丸くて茶色い食べ物だった。タコの足をはじめとした具を、生地で包んで焼いてある。


 一玉かじると、パリッとした皮の中から、どろりとした熱い中身が具と一緒に出てきた。

 はふはふと空気を吸いながら舌の上で転がし、旨みを味わってから飲み込む。


「たこ焼きって言ったっけ? これ、美味いな」


「ウィンゲアの名物料理の一つだよ。良く味わって食べるといい」


「美味しい食べ物、他にもいっぱいあるからね。食べ歩きなら任せてよ」


 ウィンゲアに土地勘のある二人がいるから、初めての土地でも心強い。俺は仲間がいることのありがたみを感じながら、たこ焼きをもう一個ほおばった。


 食事を終えた俺たちは、次なる場所を目指して歩き出した。


 そのとき、道端に目立つポスターがあったので、俺はそちらにふと目を向けようとした。

 すると、マイは大手を振りながら俺たちを逆方向に向けさせた。


「はい! みんな注目! 今度はあっちに行こうよ!」


「おい、そんなに引っ張らなくても行くって」


 いきなり腕を引っ張られた俺は、やれやれと思いながらマイの後をついていく。


 やがてついたのは、先ほどとは別の出店だった。 

 マイは売り子をやっている男性に向かって、元気に駆け寄っていった。


「おじさん! たい焼き六つちょうだい!」


「おや、マイちゃん。儀式の準備はもういいのかい?」


「お、おじさん! ちょっと、いまその話はいいでしょ!」


「なんだよ、隠す必要ないじゃないか。マイちゃんはねぇ、由緒正しい踊巫女(おどりみこ)なんだよ」


 俺たちは、店の壁に並べて貼ってあるポスターを店主に示されたので、視線をやった。それは、先ほど俺が目に留めたものと全く同じものだった。

 ポスターの下部には、大きな太文字で「魔導大祭 巫女舞の儀」と書いてある。


「ねぇ、あれってもしかしてマイ?」


「本当だ、マイじゃないか」


 俺は思わず二度見した。そのポスターの中央には、ウィンゲアの民族衣装を身にまとったマイ本人がでかでかと写っていたからだ。


「あちゃー……」


「どういうことなのか、説明してもらおうか?」


 俺は腰に両手を当て、頭を抱えるマイに向き直った。俺たちに対して、彼女がなにか後ろめたい隠し事をしていると直感したからだ。

 マイは少し動揺していたが、やがて観念したように顔を上げた。


「さっき揉めてた男の人たち、うちの神社の人たちでさ……私が儀式の準備をサボってるんで、連れ戻しにきただけなんだよね」


「暴漢っていうのは嘘だったわけか?」


「このまま助けを求めれば誰かが追い払ってくれそうだし、バックレるにはちょうどいいなぁって思って、それで……」


「なるほどな」


 その話が本当なら、悪いのはマイの方じゃないか。俺たちはとんだ誤解をしていたわけだ。


「なあ、マイちゃん。巫女舞の儀ってのは大切な伝統行事なんだよ。ちゃんとやってくれないと、おじさんたち悲しいよ」


「分かってる。ちゃんとやるよ……」


 マイはそれまでの元気を急に失くし、しょんぼりとうなだれた。


 それにしてもこのマイという少女、そこまで札付きの不良少女には到底見えない。

 魔導大祭の開催を目前にして、そんな大事な儀式の準備をサボるということは、なにか相当な訳ありに違いない。


 このまま無理やり連れ戻しても、いいことにはならないような気がした。


「なあ、マイ。まだ時間ってあるか?」


「あっ、うん。いまは舞台の設営中だから、私の出番は全然ないけど……」


「よし、それじゃもう一軒だけ行こうぜ。いいだろ?」


「えっ……?」


 俺が笑顔でそう言うと、てっきり叱られると思っていたのか、マイは予想外だと言いたげに目を丸くした。


 俺だって、優等生のままで生きてきたわけじゃない。つらいときにサボりたくなる気持ちくらい分かるというものだ。

 そしてそういうときは、思いきって休むのが問題の解決に繋がることだってある。


「大丈夫、うちのマスターがそう言ってんだ。損はさせねぇ」


 タオファに優しく肩を抱かれ、マイはおっかなびっくりでうなずいた。


 そんな中、空気を読まない人物が一人。


「あっ、おっさん。たい焼き、もう二つ頼む」


「お前はもっと遠慮しろ!」


「あ痛た! なぜ殴るんじゃアケビ!」


 涙目になったシエラを引きずりながら、俺はとある馴染みの店へと向かっていった。

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