プロローグ1
「そろそろ違う街にでも引っ越すかな〜」
40代も半ばを過ぎてまだまだ軽さの残るこの男、名はハルキという。散りゆく桜を見ながらラフな格好でそんな事をボソッと呟いた。
若い頃から数年毎に住む土地を変え、仕事を変え、彼女を変えながら結構楽しく生きてきた。が、なんか駄目なのだ。フラットに戻りたくなる瞬間が来ると我慢できずに色々投げ出してしまう。
とはいえ根が真面目なのか仕事も彼女も喧嘩別れする訳ではなく、今まで関わってきた人達にもそれなりに好かれている。
そう、ちょっと駄目なキョロ充なのである。
結構長く付き合った彼女と別れて半年、仕事も辞めるにはタイミングもいい。次の街に住んでも一年位は生活できる程度の貯金もある。ハルキにとってはいつものフラットになりたくなる波が今、来ていた。
それから一ヶ月後、世間ではゴールデンウィークが終わった頃に少ない荷物を故郷に送り、ハルキは次の街を物色しながら地元に帰ろうかと里帰りの旅に出た。
安めのビジネスホテルを取りながら三つ目の街で飲んだ夜、ハルキは異世界に転移した。
「ん、どこで寝たんだっけ?」
少し飲み過ぎたかなと思いながら昨日の夜を振り返る。一軒目のバーで知り合った人と居酒屋に行って、その後女の人のいるお店に行って、更に別のバーに行ってそこで女の子と仲良くなったが楽しく話だけして1人ホテルに帰ろうとした。
だけどホテルに着いた記憶は無い。若い頃は道で寝て警官に起こされるなんて事も何度かあったが、昨日はそこまで酔った覚えはない。だけどいま自分が見ている天井はとてもじゃないけどビジネスホテルのそれでは無い。
整理しきれない頭を回転させながら薄暗い部屋の粗末なベッドの中で身体を起こし、周りをゆっくり見渡した。