古道具屋
「今日も客が来ないねぇ……」
店主であろう少年は、つばの広い帽子を被り、ごちゃごちゃとした店内の奥の机に座ったまま、独りごちた。
暇に任せてグリモワールでも読もうかとしているところ、乱暴に戸が開かれた。
滅茶苦茶に鳴るドアベルの中、店主の「いらっしゃい!」の声が響き渡る。
「いやー、ヒマしてたんですよねぇ、ボク。なにかご入り用で? 結構珍しいグリモワールなんか置いてますよぉ」
入ってきた客は、初老の男性であった。普通の身形をしているが、正体は不明といったところだ。
「探し物がある」
客はそう呟くと、ガシャガシャと辺りを探り始めた。
「あの、お客さん。探し物を探すための水晶玉なんかも……」
店主の言うことなんか聞いちゃいない。客は一心不乱に何かを探していた。
店主はつまらなく思い、さっさとカウンターに戻って、グリモワールを読み始めた。
しばらく経った頃、店主がふと目を上げると、客は一つの人形の前に立ち塞がっていた。
大人の身長ほどある、年代物の女性の人形だ。
「あ、お客さん、その人形――」
客が手をかけると、その人形の心臓部分を開いた。
胸の奥に手を突っ込むこと数十秒、「あった……!」
客は何かを引き摺り出すと、さっと胸にしまい込み、「幾らだ?」と訊いてきた。
「ああ……大金貨3枚――」
「5枚だす。他言無用だ」
一陣の風のように、客は代金を払ってからドアの向こうに消え去った。
「まったく……。慌ただしい……」
店主の少年は、お金をレジに仕舞い込んだ。
グリモワールに栞を挟むと、「行くの?」と訊いた。
「トリカエシニ、イッテキマス」
人形が答えた。
「それじゃ、銀のナイフでもお使い。健闘を祈ってるよ」
人形は何も言わずに、近場のナイフを手に取ると、店を出て行った。
「ふう……。続きを読むか」
店主は栞の挟んであった場所を開くと、再びグリモワールを読み進めていった。