くのいち(男)と魔法使いは友情を育むか
友達っていいな。 @短編その64
おれ、くのいちです
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魔法使いは14歳
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の、続編。
「う、わ!うわわ!!」
崖から足を踏み外し、落ちそうになるが、体がふわりと浮いて、影の上に戻される。
「助かった!有難いけど魔法使いのくせに逃げてばかりだな!」
「助けたのになんて言い草!お前、忍者だろ?男なんだから!なんでくのいちなんだよ!」
「なんでって、くのいちだからだっ!」
「おかしいな?俺の知識が間違っているのか?異世界の人の本で読んだんだけど、男は忍者だろ?なんで女のくのいちって言ってるんだ?」
「うるせーー!!喋ってないで、反撃しろ!うわ、来た!!」
不細工な服・・だぶだぶした変な服を着た、男のくせにくのいちとか言う戯け、ニッコゥ。
こいつ、王子だって。こいつが嫡男なんて、将来国潰れるんじゃないか?
と、ローブ姿の少年は、くのいちをじと目で見る。
そういう彼を、くのいちも絶賛疑心暗鬼中だ。
魔法使いという希少な存在は、彼の国にいない。大国のセブライでさえいないという。
それに膨大な魔力に豊富な知識、普通は40〜50歳くらい、こんなに若い魔法使いなど前代未聞だ。
魔法少年、アルジュール。たしかに魔法の杖も持っている。だからって、若すぎる。
さて、このくのいちニッコゥと魔法使いアルジュール、共に15歳だ。
たまたまある店に入り、注文をしたら・・・材料がなくて食べられないと言われた。
この世界でもこの店にしか無い、ドラゴンエッグプリン。
ドラゴンの卵で作るプリンだ。
暇なSやAランクの冒険者が、気が向いたら取ってきてくれるドラゴンの卵で作るから、滅多に店頭に並ばない商品だ。
「じゃ、俺が取ってくる」
二人が同時に店主に宣言したわけだ。
・・そういう事だ。で、絶賛ドラゴンに追われている。
ふたりはドラゴンピークスと呼ばれるドラゴン生育地に訪れている。
で、ドラゴンの卵をくすねたので、母ドラゴンにめっちゃ追われているわけだ。
だが二人とも巨大な卵を背に背負っている。くすねるのには成功していた。だから執拗に母ドラゴンが追っかけてくるのだ。そりゃそうだ。卵2個だ。死に物狂いで追っかけてくるので、こっちも死ぬ勢いで逃げている。
流石にドラゴンが住む場所、木が無いつるっぱげの大地で、逃げ場も隠れる場所も無い。
「火幕!!」
アルジュールが振り向きざまに魔法発動、巨大なカーテン状の炎の幕が、ドラゴンの前に現れて幕引きしたので慌てて避けようとするが、幕に体当たりした。火がドラゴンを覆うので、絶叫を上げてきりきり舞いで地面に激突した。
「業火絢爛!!」
とどめの最上位火魔法をドラゴンに叩きつけると、一瞬で燃えて炭となった。
「すげーー!!魔法使いって本当だったんだ!」
「ははは、褒め称えよ」
彼は無詠唱で魔法が使えた。だけど、術名を言っている。それは何故か・・・
かっこいいからだ!!15歳の男の子は、かっこいいが行動の起源だ!!
なんて事していたら、またドラゴン・・今度のドラゴンは、先ほどよりも大きい!!
「お父さんでしょうかねぇ」
「かもな」
「では、アルジュ、俺に掴まれ」
「なにをなれなれしっ、い?お、おい!!」
手早くくのいちは彼を小脇に抱え、猛スピードで駆け出した。
半端無く早い。ジグザクに飛ぶように駆けて行く。
「腹を押すな、苦しいな!!もう少しなんとかならんのか!」
「空を飛んで逃げるとドラゴンに追われる。これが一番でしょ?」
「〜〜〜!」
何か術を唱えると、腕にいた少年の姿が変わった。
「え・・ええ?フクロ狐?」
「卵を捨てたく無いのでな。自分で進むから離せ」
袋に大きな卵を入れているので、ポンポンに膨れている。
手を離すと、ぴょ〜〜んと飛んで進んで行く。
「すげえ、変身出来るんだ」
「ふふ」
上空のドラゴンは、二人に向かって火炎を吐いてくる。
それら攻撃をひらりひらりと飛んで避けて・・
「鬱陶しいなぁ・・ドラゴン・・・お、ち、ろっ!!」
右腕をドラゴンに向けて天に伸ばし、大きく開いた掌はまるで何かをつかむようにぎゅっと握られて・・・
ぐいっと勢いよく下に振り下ろした。
同時に空飛ぶドラゴンは、何かに飛ぶのを止められたように空中で止まり、ぎゅんと下に真っ逆さまに落ちていき、地面に叩きつけられて絶命した。
「え」
フクロ狐姿が人間に戻り、魔法使いはクノイチ、そしてドラゴンを交互に見比べる。
「魔法じゃ無いね、今の」
「忍術だ。ニンニ〜ン」
「え・・?忍術?」
「忍法『ぎゅっと掴んで、たーーーっ!!』の術!」
「・・・・」
魔法使いは無言だ。
それ、魔法では無いが、忍法でも無いでしょ、と思っていた。
とにかく注意しながら山を下り、安全を確認して空を飛んで街へ戻る。
魔法使いは風魔法を利用して空を飛び、くのいちはゲーラという凧で滑空するのだった。
ふたりは例のドラゴンプリンの店に卵を卸し、プリンは翌日に販売すると聞いて予約をして店をでた。
「美味いといいな」
「楽しみだな」
ご機嫌で宿屋にチェックインして、ゆっくりと休むことにした。
そして夕食、お風呂も一緒。その日は早めに就寝した。
そして翌日。
二人はプリンを購入し、公園のベンチで食べた。
プリンの味談義から始まったおしゃべりだが、いつしか自分たちの近況、興味のある場所やグルメの話に移り・・・
これがきっかけで、二人は一緒に旅をする事となった。
お互い改めて考えたら、似たような年の『友達』はいなかった。
くのいちは王子だったし、魔法使いはじじいと二人で山奥に住んでいた。
友達。
二人にとって、とても新鮮な関係だった。
魔法使いは1年余り、学院に通ったが、馴染めなくて友人は出来なかった。
王子は身分が高すぎて、高位貴族も近寄って来なかった。
だから、ふたりでおしゃべりをして、いろいろな事を提案して、一緒に旅をする。なんと楽しい事だろうか。
だが、ある日の事・・割と大きな街まであと数時間で着くな、なんて話しているところに・・
「殿下!」
背の高い男が駆け寄り、くのいちに話しかけてきたのだ。
そして男は、魔法使いをじろりと詮索するような目で見るではないか。不愉快な目だ、魔法使いは顔を顰める。
確かに小汚いローブを纏っているが、これはじじい特製の魔法使い用のローブだ。
見る人が見たら、ルーン文字が織込まれていて付与がいくつも付いた最高の品と分かる物だ。
「殿下、このような貧しい者と一緒にいるのは」
用件を言い終えた男だが、立ち去ろうとせず魔法使いを遠ざけようと、二人の間に立ったのだ。
くのいちはすぐに文句を言う事が出来なかった。
あまりにも失礼で、こんな男を部下にもっているのが恥ずかしくて、魔法使いに申し訳なくて・・・
暫し呆然としていると、足音がするので魔法使いを見るとどんどん向こうに行ってしまうでは無いか。
ああ、怒らせてしまった。
魔法使いは足早に行ってしまい、小さくなって行くのを見て、くのいち王子は胸がジリッと痛んだ。
「お前という男を・・・これほど恥ずかしいと思ったことはないぞ。俺の前に、2度と現れるな」
そして忍術で男の影を縛り、動けなくすると魔法使いの後を追った。影縛りは日が沈めば効果が切れる。尿意や便意で恥を掻くだろうが、知った事か。
ようやく魔法使いを見つけるが・・・彼は王子だ。謝り方を知らない、というか頭の下げ方を知らなかった。
それでも、彼にしては努力して謝ったのだが、魔法使いは却って怒ってしまった。
怒った理由は、じじいのローブを馬鹿にした事だった。そして、くのいちが男の言うことに何も文句を言わないで、黙っていた事だった。言いたい事を言うと、魔法使いは彼を置いてまた何処かへ行ってしまった。
もしも誰かが、彼が今着ているくのいちの衣装を笑ったら、俺は・・・
魔法使いの知り合いが、俺の悪口を言っているのに、彼が黙っていたら・・・
ああ、俺は本当に悪い事をした。
彼を傷付けた。
くのいち王子は・・・初めて他人に対して涙を零したのだった。
もう一緒に旅を続ける事は出来ないのだろうか。
いや、もう話すことも無いのだろうか。
・・・顔さえ見てもらえなくなってしまうのだろうか。
いやだ。
アルジュールは、俺の初めての友達なんだ。
こんな嫌な別れ方はしたく無い。
王子は忍術を使えばもっと早く探し出せたのに、必死で街を彷徨って、魔法使いを探し回った。
忍術のことさえ思い及ばなかったのだ。
半ベソをかきながら、走って、走って・・・
そして屋根の上から辺りを見渡す事をようやく思いつき、屋根に登ると・・・
魔法使いが、いた。
彼も半ベソをかいていた。
くのいち王子はやはり謝り方、謝る言葉が分からなくて、それでも彼を傷付けた事を詫び、初めて頭を下げたのだった。
「変な謝り方だな。俺が教えてやろう。見本を見せるから、覚えろ」
そうして魔法使いも、くのいちに謝ったのだった。
男の伝言だが、『そろそろ帰ってこい』という内容だった。もう2年近く国に帰っていない。
「なあ、俺と一緒に国に来ないか?魔法使いは絶賛募集中だ」
「そうだなぁ・・・俺は大魔法使いだ、敬うなら考えてやる」
こうしてふたりはくのいちの国に帰って来た。
この見た目がおんぼろのローブだが・・
魔法に詳しいタリアテッレ近衛騎士団長に見せたところ、大いに驚き、感心して褒め称えたおかげで、価値が皆に知れ渡ったのだった。売って欲しいまで言われたが、じじいの形見でもあるし、なにより背が高い大男のタリアテッレでは、着る事が出来ないサイズだったのでお断りをしたのだった。
魔法使いの実力を知るや、国中で大歓迎をされた。なんたって、今は希少な存在の大魔法使いなのだ。
王子の親友である魔法使いは、この国に留まり魔法の発展に貢献したのである・・・と言いたいが、まだ二人は15歳。国に戻ったがすぐに国を飛び出し、あちこち旅を続けているのだった。
二人が戻るのは、まだ先の事・・・
さて、国に戻ったふたりだが、くのいちの技を教えてくれたと言うばあちゃまに会いに行き、くのいちの事を魔法使いは尋ねた。
じっちゃまもばあちゃまも笑った。
「ほら、分かる奴には分かるじゃないか」
孫は男だから本当はニンジャだと・・今更言われた・・訂正されたのだった。魔法使いが言っていたように、女がくのいちだと。
くのいち、いやニンジャ王子は恥ずかしさでのたうちまわり、大好きなばあちゃまに初めて暴言を吐いたのだった。
「ばあちゃまの、ばかーーー!!」
だがばあちゃまも、じいちゃまも楽しげに笑っているのだ。
すっかりいじけ、怒ってしまった孫は、親友の手を引いて国から出て行ったと言う事で・・・
楽しい旅の日々は、また始まったばかり。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。
連載もあります〜。