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第1部 6.結衣と弟

ガラケー時代の都内近郊ラブストーリーです。


意外に姉思いの結衣の弟、譲が登場します。


よろしくお願いします。


 “ガルマネ!”第二号の発売予定は、五月一日だった。


 隔月刊誌なので、実際の誌面編集を始める時期までまだだいぶあった。無論、その間のほほんと他雑誌の編集手伝いをしているだけで済むはずもなく、結衣を含む“ガルマネ!”部員達は次の特集の材料探しと取材を平行して行っていた。


 年度の境目のこと、一万部単位で売り上げを競う他のマガジン部程にはスケジュールは立て込んでないものの、これはこれでなかなかに忙しいものだった。



 四月初旬、結衣は以前から目を付けていたさいたま市の大型ショッピングタウンに取材に出向いた。ひとまず営業状態を客目線から眺め、ヒットしそうな何か面白いものを感じたら、掘り下げて調べるつもりだった。


 その取材の合間に、結衣は二歳下の弟・譲と久しぶりに会った。

 彼はさいたま市内の実家に住み続けながら、ハウジング関係の技術職に就いている。たまたまこのショッピングタウンの近くに会社があったので、結衣が声をかけたのだ。


 平面にだだっ広い敷地を練り歩いた後で、かなり疲れていた結衣は、待ち合わせたカフェの柔らかい椅子に座ると、大きな溜息をついた。

「あ~、疲れた」

 譲はそれを見て呆れたように笑った。

「全く、相変わらず色気ねえなあ。そんなんじゃスグおばさんになっちまうぞ」


 右手で自分の左肩をもみながら、結衣は口を尖らせた。

「記者は体力勝負で疲れるんだから仕方ないでしょ。言っても私も今年で二十五だし。鍛えないと、衰える一方だよね」

「鍛えるって……。違うだろ。そのたくましさで更に鍛えられたら、本当に男寄って来ねーぞ」

 今度は譲が溜息をついた。


 昼時の店内は、女性グループと若いカップルがほとんどだった。周囲を見回し、彼は続けた。

「こんな所に弟と来てるなんて、泣けて来ないの? じゃなければいつも“オヒトリサマ”なんだろ?」

 結衣は膨れっ面になった。

「うるさいなぁ。あんたもお母さんも、口を開けばその話ばっかりなんだから。別に私の勝手でしょ。ほっといてよ」

 まくしたてて、ランチプレートのオムライスをパクついた。


 譲も肩をすくめて、自分のポークジンジャーを口に運んだが、それを飲み込むと少し真面目な顔になって言った。

「――でも、母さんも心配なんだよ。女手一つでオレたちを育てたけど、父親ってものを知らないで育ったせいで姉ちゃんが恋愛できないんじゃないかって」

「……」

 結衣は黙って水を少し飲んだ。


「オレは昔から時々彼女連れて来たりしてたけど、姉ちゃんはそういうの一度もなかったし」

「――友達気分でホイホイ連れてくるあんたとは違うのよ」

 オムライスの最後の一口を口に入れて、結衣はスプーンを置いた。


 譲はグラスの水を半分くらい飲み干すと、箸を置いて真面目すぎる顔を緩めた。

「まあ……いま縁がないだけなら、別にいいんだけどさ。決してブスじゃないんだし。ちょっと男勝りすぎるけど」

「ブスじゃないって何よ。そこそこ可愛いとか、もうちょっと言い方ないの?」

「え、可愛いとか言われたいつもりあったの?」

 弟は悪戯っぽく笑い、憎まれ口を叩いた。


 ウエイトレスがデザートを運んで来て、結衣はそれを写真に撮ってから食べた。

 春らしいベリーのソースがバニラアイスと絶妙のコンビネーションだった。既知の組み合わせだが、ランチにセットならポイントは高い。

(でもグルメ誌じゃないから……、切り口変えないとダメか)


 仕事の手帳にメモしていると、譲が思い出したように言った。

「あのさ、この前知ったんだけど、うちの社長がどうやらここを開発した企業の社長と旧友らしいんだよ。姉ちゃんが今やってる雑誌の役に立つなら、社長に聞いてみるけど」

「え!?」

 思いがけない美味しい情報に、結衣は目を輝かせた。


「もちろん役出つ!! ――よし、今からあんたの会社行くよ」

 言うが早いか、立ち上がった。

「え!? 今!?」

 目を白黒させている弟を尻目に、

「ここの食事おごってあげるから」

と恩着せがましく言った。



 その後、直接譲の社長に会い、無事に目当ての社長に連絡を取り次いでもらうと、結衣は意気揚々と神保町へと帰った。



お読みいただき、ありがとうございました。

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