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第42話 花祭り

 オリヴィアたちが駅から出ると、観光客を歓迎するかのように様々な花が植えられている植木鉢が道の端に置かれており、花のロードとなっている。植えられているのは一般的な花だが、こうも数が多いと壮観である。


「うわー、すごくきれいです」


「年に一回の花祭りですもの。各地から観光客が来るから武装した警備員も多いわ……今年はなんだか、その数も多い気がするけど」


 マリアンヌの指摘の通り、剣を携えて警備をしている人間が視界から消えないほどの人数が動員されている。だが、回を重ねるごとに観光客が増えるこの祭りのことを考えれば、動員数が増えるのはやむなしだろう。


「花祭りって何がきっかけで生まれたんですか」


「各地に似たような祭りはあるけど、ここの花祭りは大昔にドラゴンを討伐した騎士が花が好きだったことが由来らしいわ」


「ドラゴンですか? 見たことありますが、討伐するような悪い感じはしませんでしたよ」


「そこは飢饉による餌不足だの、気性が荒いだの、悪い魔術師に操られていただのドラゴンが暴れた理由は諸説あるけど、人を襲ったのは間違いないわ。そうなれば討伐されるも当然よ」


「その騎士さんが討伐したと。まさに昔のドラゴンスレイヤーさんですね」


「ドラゴンの討伐は数百人規模の多人数で行うのが常。一人で何体もドラゴンを討伐なんてできるわけないわ」


「お姉さまにも都市伝説だと言われました。でも、そういう人がいるって思うほうがロマンありません?」


「え、ええ、そうね」


 マリアンヌは急にのぞき込んできたオリヴィアにドキリとする。そんなことをつゆとも思わないオリヴィアはは一輪の花を見る。


「あっ、この花。くるくる回転してますよ。何ていうのかな?」


「風車花ね。花弁を回転させて、匂いを遠くまで行き届かせる。この近くでしか採れない花よ」


「それなら、これは? 白い花ですけど、見たことありません」


「これはドラゴン草。葉っぱの形が東に生息するドラゴンに似ているところからついたそうよ。本来は夏に咲く花だけど、成長系の魔法でこの時期に咲かせているみたいね」


「つまり魔法を使えば、一年中、モモやクリが採り放題と!?」


「理論上はできても、需要と供給のバランスが崩れるから売ることはできないわ。このドラゴン草だって、販売目的でないから魔法を使っているのよ」


「でも、一人で楽しむ分には大丈夫と」


「……まあ、個人でやる分には文句は言わないんじゃない」


「なるほど。目指せ、フルーツタルト食べ放題です!」


 私利私欲に魔法を使っているはずなのだが、なんとまあ平和的な使い方である。いくらでも悪用の仕方がありそうな魔法でさえ、他人を傷つけないオリヴィアをマリアンヌは微笑ましく思った。


「なんで笑っているんですか?」


「ふふ。食べすぎには注意しないとね」


「うっ、それは……あっ、あそこに人だかりができていますよ」


 2人の前には花が口のように開く巨大な植物の魔物が見世物になっていた。普通なら討伐対象になりそうだが、運営から許可をもらっているそうだ。万が一に備え、武装した警備員もいる。


「この魔物は僕が品種改良したメディカル・プランツでございます。そこのおじいさん、ちょっとこっちに来て」


「儂、かのう……」


 前に出てきたのは杖をついたよぼよぼの爺さんだ。腰も曲がっており、弱弱しく歩いている。そんな爺さんにいくつかの注意点を記載した紙にサインさせ、実演が開始される。


「では、メディカル・プランツ。食べちゃってください」


「ほへっ? ぐああああ、なんじゃあああああ!?」


 植物の魔物がパクリと丸呑みして、咀嚼するような動きをする。周りからは助けたほうが良いのではと疑問の声がちらほらと出てくる。


「見た目は悪いですが、このメディカル・プランツの唾液にはポーションと似た効果を持っています。さらに舌によって身体全身のツボを押すことで、全身の血行を促進させます。必要とあれば歯で針治療も可能です。さてと、そろそろ治療が終わるころです」


 魔物がペッと爺さんを吐き出すと、腰が曲がっていたはずの爺さんがピンと背筋を伸ばす。


「お、おお、おおおおお!まるで30歳くらい若返った気分じゃわい!もう杖などいらんわ」


 元気があまり余って、杖を放り投げた爺さんはどこかへと走り出す。衣服がべとべとなところを見ると、自宅だろうか。それらの様子を見た観客たちは青年に盛大な拍手を送る。


「凄いです。でも、食べられたくないです」


「同じだわ」


 治療目的とはいえ、魔物もどきの植物があちこちに植えられてそこらで食べられてしまう、いや入院するような光景は誰も見たくないだろう。興味を持った業者らしき人はいるようだが、多くの人は別の場所へと散っている。


「……他の花もみましょう」


「ところで、アレを超えるインパクトのあるお花あるんですか?」


「……思いつかないわ」


 2人が花壇を見ながら、市内を探索していると、目の前に大きな古びた建造物がある。魔法により最低限の補修はされているようだが、長い年月によって風化されたそれはどこか寂しさを感じさせる。


「ここはえっ~と、コロッセウム?」


「昔、ここで騎士同士が自身のプライドを賭けて決闘した一方で、観客たちは自身のお金を賭けて熱狂したみたい」


「賭博場ですか?」


「大昔のね。今は禁止されているけど。中に入ってみましょう」


 入館料を払い、コロッセウムの中へと入っていくと、中央のステージには当時の激しい戦いをそのまま残したような傷跡が残る石畳みがあり、その当時の戦いが今にでもよみがえってきそうだ。

 元は選手の控室だったらしいが、今は当時の資料が展示されている部屋となっており、当時の武器を再現したレプリカも展示されている。


「私の背よりも大きい……こんな大きな斧を振り回していたんですか?」


「今なら私でも強化魔法を使えば振り回せるわ。でも、当時の魔法はそこまで効力が無いから、当時の騎士の屈強さがわかる」


「今の方が強いんですか?」


「そりゃあそうよ。基礎技術を作った昔の人をけなすわけじゃないけど、少しずつ魔法の精度や威力は上がっているわ。昔の人が今に来たら、ただの火を出す呪文も大魔法として見られるかも」


「ウンディーネ・フォームのことがあったから、昔の人の方が強いのかと」


「貴女の魔法は例外だわ」


「ええ~、どうしてですか!」


 マリアンヌは今になってシャルロットの気苦労が身に染みて分かった。好きになった身ではあるため、毛嫌いするつもりは毛頭ないが。

 喉が渇いてきたこともあり、近くのカフェで一休みすることにした二人。注文したジュースにはきれいな花が1輪刺さっている。


「あれ、ストローは?」


「この花はね、茎が空洞になっているから、ストロー代わりになるのよ」


「おお、変わってます」


「花びらをこのジュースに入れると、色が変わるわ」


 マリアンヌが言われるまま、青い花びらをパラパラと入れると鮮やかな赤色に変わっていく。香りだけでなく目でも楽しめるこのジュースは、花祭りに相応しいものと言えよう。


「こんなジュース初めて飲みました」


「このジュースに使う果物もこの地方でしか採れないから、知らなくても当然だわ」


「マリアンヌさん、連れてきてくださってありがとうございます」


(か、かわいい……!?)


 オリヴィアの満面の笑顔を見て、マリアンヌの顔が真っ赤になる。こういうとき、何を言えばいいのだろうと答え無き回答を探し求める。


「そ、そうね。うん。そういえば、高台があって、そこからの夕日はきれいだと聞いたわ」


「もうそんな時間ですか。早くいきましょう」


「ええ、そうね」


 握られた小さな手にドキマギしながら、マリアンヌは近くの高台へと向かうのであった。

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