第32話 フェイカー
「まずは動きを止めます。ホーリー・バインド!」
先制攻撃を仕掛けたのはオリヴィアだった。
相手の出方が分からない以上、先を撃つという点でも行動を封じるという点でも最適な一手ともいえる。大好きなシャルロットの十八番ともいえる戦術を真似ただけとも言えるが。
「その程度か。HOLY SHOT!」
「私と同じ光魔法!?」
その光の帯を神官の杖から放たれた光弾によって、撃ち落とされていく。ただの魔法ならばともかく自分と同じ光魔法を見て、少し驚く。
「次はこちらから行かせてもらう。CRESCENT SHOT!」
「私と同じ光魔法なら、これで防ぎます。ホーリー・シールド!」
(オリヴィア、あれは同じ魔法じゃないわ。良く似せてはいるけど、他の属性の魔法を高度に組み合わせた紛い物の魔法よ)
三日月状の刃を防いでいる様子を見ながら、シャルロットはオリヴィアの近くで本物の光魔法を見ていることもあり、わずかな違和感からそう結論付ける。
だが、神官が使う魔法が本物だろうと偽物だろうと、攻撃を受けているオリヴィアには関係ない。
「だったら、こっちもお返しです。ホーリー・ショット!」
「ならば、こちらもHOLY SHIELD」
防ぎきったお返しと言わんばかりの光弾を冷静に受け止めていく神官。だが、その行動を読んでいたと言わんばかりに、オリヴィアはすぐさま別の呪文に切り替える。
「ホーリー・バスター!」
「ぐっ……防ぎきれ……」
盾が壊され、砲撃を受けた神官は壁際まで吹き飛ばされる。オリヴィアが追撃をするかためらっていたが、彼女の瞳から勝負をあきらめるところか対抗心をメラメラと燃やしていることが分かる。そのわずかな隙に神官は反撃に移る。
「よくもやってくれたな!これが私の全力だ。DIVINE BUSTER!」
「ホーリー・シールド……きゃあ!?」
ホーリー・バスターよりも極太の砲撃によって、先ほどとは逆にオリヴィアが吹き飛ばされる。それをみて、慢心することなくオリヴィアの手足を縛りあげ、ウォーダンから離れながら最後の一撃を加える準備をする。
「これで私の勝ちだ。DIVINE……」
「待て、勝負はついた。これ以上の攻撃はお前の誇りを傷つけるだけだ」
「もう遅い。DIVINE BUSTER!死ねぇぇぇぇぇ!!」
「くっ、この距離では……」
「結界に魔力のリソースを回しているせいで魔法が……逃げて!」
二人はオリヴィアを守ることができず、それを眺めることしかできない。
オリヴィアの眼前に迫りくるは呪詛を込めた一撃。先ほどよりも強力なこの攻撃はホーリー・シールドを再展開したとしても、たやすく打ち破られるだろう。
(勝って褒められたかったけど、死にはしないよね……?)
だが、目の前に迫ってくる砲撃をみれば、手加減など一切加えられていないことがひしひしと伝わってくる。死にはしなくても大けがは避けられないだろう。
(怪我をしたら、お姉さまが心配するよね。それはいやだな)
愛している人が悲しむところは見たくないという願いとわずかに芽生え始めた他者に勝ちたいという気持ちが彼女の進化の扉を開ける。
「なんだ、この光は!?」
指輪が青白い光を放ち、オリヴィアを呪縛から解放させ、水で出来た球体に包みこむ。そして、光がおさまると、そこには青いロングヘアーに変貌したオリヴィアの姿があった。彼女の周囲にはいくつもの水の球がプカプカと浮いている。
「変身など……こけおどしだ!HOLY SHOT!」
「バブルランチャー、行けぇぇぇ!」
光弾を覆い隠すほどの泡が水の球から放たれていき、神官の視界を埋め尽くさんとする。だが、彼女の光の壁によって、ダメージを与えることはできない。だが、手数で負けたということはとれる戦術が減ったということに他ならない。
「ならば、あの水の球を破壊するまでだ。HOLY BUSTER!」
「だったら、対抗するまでです。マリンキャノン、発射!」
狙われた水の球から放たれたブレスによって彼女の砲撃が徐々にだが、押し戻されていく。神官はその様子を信じられない様子で、目を見開く。水圧によって壁に叩きつけられた彼女は、残された魔力で最後の魔法を使う。
「私は……負けるわけにはいかないんだ!DIVINE BUSTER!!」
「ウンディーネ・フォーム、最大出力。ダイダロス・オーバーキャノン!発射!!」
オリヴィアは浮いていた水の球を1つにまとめあげ、そこから巨大な砲撃を放っていき、半べそを掻きながら、妄執にとらわれた神官の砲撃を真っ向から迎え撃つ。徐々に押されていく砲撃を見て、神官はさらに魔力を込めていき、拮抗させていく。
「まだだ、まだ負けるわけには……!」
「どうして、私をそこまで憎むんですか?」
「ただの平民が巫女様の生まれ変わりなど認めるわけにはいかないからだ」
「良くわからないけど、私は私です。神官さんは神官さんです。誰の生まれ変わりかなんて関係ありません」
「黙れ!私は巫女様の血を引く者。ならば、私こそがその力を使うのにふさわしい!」
「だったら、そのゆがんだ考えを撃ち抜きます。いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
拮抗は崩れ、オリヴィアの砲撃によって再度壁に叩きつけられる羽目となった神官を見て、これ以上の戦闘続行は危険だと判断したウォーダンが二人の間に入る。それを見て、オリヴィアはマリンセスモードを解除し、元の姿に戻る。
「勝者は決まったようだな」
「私が負けるなんて……ありえない」
「大丈夫ですか、神官さん?」
「なんで、なんで……なんであんたが巫女様の生まれ変わりなのよ!うわ~ん」
「えっ~と、ごめんなさい」
「なんで貴女が謝るのよ……」
オリヴィアよりも少し年上の女性が泣き始め、因縁をつけられた方が謝るというシュールな光景に二人は呆れた様子で、ことがどう転ぶか大人しく見守ることにした。
しばらくして、顔を赤くしながら泣き止んだ神官は少し前のようにキリッとした表情をするが、もはや威厳を感じない三人であった。
「とにかく今回はヘンテコな力で勝っただけなんだから、ノーカンよ。ノーカン。不意打ちがなかったら勝てるんだから。次やるときは覚えておきなさいよ」
「はい。えっ~と、名前は……」
「エルマよ。神官長を務めているわ」
「私は――『知ってる』そうですか……」
そっけない返事にオリヴィアは少ししょんぼりする。そして、エルマが立ち去るのを見て、残された三人もこの部屋から出ることにする。過去の偉人に敬意を表しながら。
外に出ると、すでに薄暗くなっていた。街からそこまで離れていないとはいえ、もたつくと森の中で一夜を過ごす羽目になりかねない。
「俺もここで別れるとしよう」
「あら、ご飯くらいおごるわよ」
「大の大人が子供におごってもらうわけにはいかんな。それにまだやり残したこともある」
「それなら良いけど」
「別れる前に君たちの名前を聞くのを忘れていた。俺はウォーダン、さすらいのハンターだ」
「オリヴィアです。将来の夢はお姉さまと一緒にパン屋を開くことです」
「なんなのその夢。スポンサーくらいにはなるけど。私はシャルロット・エスカルド。少しは名の知れた貴族令嬢よ」
「オリヴィアに、シャルロットだな。もし、何か困っていることがあればいつでも呼んでくれ。辺境だろうと駆けつけるさ」
「あら頼もしいわね」
「オリヴィアを危険にさらしてしまったからな。そのときが来れば、ギルドに話を通してくれ」
ウォーダンが森の中へと入っていくのを見送り、オリヴィアとシャルロットは街に戻るのであった。




