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第30話 泉の秘密

 シャルロットが目を覚ますと、すぐ横にオリヴィアがすやすやと寝ている。どうして恋人のように仲良く1つのベッドで寝る羽目になったのか、寝ぼけた頭でゆっくりと思い出す。


(そうだわ。もともとは婚約者が泊るはずのホテルだもの。そりゃあ、ベッドは1つだわ)


 昨日、ホテルの部屋に案内されたとき、そんな当たり前のことすら気づいていなかった。そして、隣にはオリヴィアが目をキラキラと輝かせていた。

 あの告白の後で同じベッドを使うのはどうかと思うが、長い階段を上り下りしていたこともあり、ふかふかのベッドで寝たいという欲求が勝ってしまった。その結果、これである。


(まずいわね……このままだとおててつないでゴールインじゃない)


 教会で二人が純白のウェディングドレスを着て、誓いのキスをするところを浮かべて、顔を赤くする。そんなところをオリヴィアに見られたら不味いが、彼女はまだ夢の中だ。「お姉さま」と怪しい寝言は聞こえるが、シャルロットは聞かなかったことにした。



 身支度を済ました二人は地図を広げながら、噴水の近くのテラス席でコーヒーを飲んでいた。二人とも甘党ということもあり、砂糖がたっぷりだ。


「さあ、今日はどこに行きます?」


「そうね。神殿は昨日行ったから、他の観光スポットに行きたいけど……」


「ミザリーの占いって良く当たるんだって~」


「ええ、ほんと~」


「占いですか……」


「占いね……」


 シャルロットたちと同じ観光客と思われる女性が通り過ぎる際に言っていた良く当たる占いとやらに興味を持った二人は、その店を探しに街中を探索することに決めたのであった。


 ややうす暗い路地にいかにも怪しげな恰好をした占い師の老婆を見つけた。丁度、前で占っていた男性客が終わったところだったので、オリヴィアはお金を払い、占ってもらうことにした。


「おお~、見えますぞ。どうやら恋に悩んでいるご様子」


「はい。どうやったらお姉さまと結ばれますか?」


(まずいわね。この子の頭の中、私しか見てないわ。そこの占い師、少しひいているじゃない。なんとかしなさい。なんとか……適当な理由で良いから結ばれないとか言って!)


 そんなシャルロットの願いを無視するかのように老婆は占いを続けていく。


「むむむ、見えますぞ。貴女の片思いしている人は貴女に関心がある様子。お勧めアイテムは指輪。南の泉に行きなされ。そこが今日のお主のパワースポットじゃ」


「はい、行きます!お姉さま、行きましょう!いますぐに!!」


「はぁ……こうなるのね」


 ため息をつきながら、元気いっぱいなオリヴィアにぐいぐいと引っ張られながら、南の泉へと向かのであった。占い師の老婆が薄気味悪くにやりと笑っていたことに気付かないまま。



 手入れが行き届いていない森の中の道を歩いていくと、1人の男性が立ち往生していた。外からでも分かる鋼のように鍛えられた肉体と2m近くの長身で黒い鎧を着込んでおり、ただの観光客でないことは確かだ。


「ん~、困ったな」


「何かあったんですか?」


「ああ、ちょっと荷物を魔物を奪われてな。向こうに行ったんだが、いかんせん魔物が多くてな。徒手空拳ではさすがにきつい」


(さすがに観光に来てるのに魔物退治はごめんよ。ここは引き返して、他の場所行きましょう)


 余計なトラブルに巻き込まれないようにシャルロットが立ち去ろうとすると、オリヴィアがスカートの橋をギュッと握って、目を輝かせている。


『お姉さまなら、助けますよね』


 と言わんばかりだ。

 無言の圧力に屈したシャルロットはこの男性の手伝いをすることにした。


「まずは武器よね。アース・ブレイド!まずはこれを持ちなさい」


「もう少し長いほうがいいのだが……」


「つべこべ言わない。無いよりかはマシでしょう」


「うむ。それもそうだな。それなりに頑丈そうではある。魔法が下手な俺からすれば羨ましい限りだ」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


「この借りはいずれ返そう。いくぞ、魔物ども!このウォーダンが一匹残らず駆逐してくれるわ!」


 ウォーダンが勇ましく剣をふるい、徘徊していたゴブリンを次から次へと切り伏していく。その勢いはとどまることを知らない。それに負けじと二人も、後ろから彼から逃げていく魔物を打ち抜いていく。


 泉の前まで来た三人だが、魔物たちの様子に違和感を感じて、一旦、茂みの中に隠れる。


「あのゴブリンの動き、まるで何かを探しているようだな」


「何を探しているんでしょう?」


「奪った荷物を無くしたとか?」


「おいおい、それは困る。あれは2つともない貴重なものなんだ」


「そんな大切なものなら、奪われないようにしなさい」


「すまない。まさか用を足している時に奪われるとは思わなかったんだ」


「……まあ、仕方ないわね。今度からパーティー組みなさい」


「一考はしておく。魔物が何を探しているかは不明だが、ここは行くしかあるまい」


「分かったわ。では、3、2、1……」


「「「0!」」」


 奇襲を受けたゴブリンがパニックになっている中、血しぶきが舞い上がり、光弾が咲き乱れる。手にした棍棒で襲いかかろうとするも、魔法を主体とするシャルロットとオリヴィアに近づくことさえできず、ウォーダンに至っては「来来世で出直してこい」と言われる始末だ。


 あっという間に、泉の前を血の海に変えた三人があたりを見渡しても、怪しいものは一つもない。


「何だったんでしょう、あのゴブリン?」


「さあ? 魔物の考えていることなんて分かるはずがないでしょう?」


「ここにもな……待て、泉から何かが近づいてくるぞ。各員、戦闘準備」


 泉の水底から黒い影が浮き上がっていき、その姿をシャルロットの前に見せる。それは青い蛇のように長く散りばめられた赤い宝玉が埋め込められた胴体をもつ水龍、リヴァイアサンだった。


「なんでこんなところにいるのよ!」


「あれ、見てください。額に何か突き刺さっています」


「剣……?」


「あれは俺の奪われた剣、バスターブレードだ!ゴブリンの奴、泉に落としたか……あの世でも見かけたら、叩き斬ってやる」


 うっ憤を晴らすかのように近くに転がっていたゴブリンの死体を踏みつぶしながら、リヴァイアサンに襲いかかる。


「泉の動物を全滅させるのもアレよね。電気攻撃は控えるとして……まずは動きを封じ込めるところから」


「「ダブル・バインド!」」


 無数の光の帯と鎖がリヴァイアサンに絡みつこうとする。リヴァイアサンがそれを撃ち落とそうと、赤い宝玉から高圧の水のレーザーで撃ち落としていく。手薄とはいえ、食らったら終わりの光線をウォーダンは紙一重で潜り抜けていく。


 目の前まで来たウォーダンが高く跳躍し、額に刺さっている剣を抜こうとしたとき、口から巨大な魔力の塊が生成されていくのが見える。それを見た彼が中断させようと、手に持った剣を投げつけるも、高密度の魔力の塊に飲み込まれ消滅するだけであった。


「ちっ、こんなときにあの剣があれば……」


「あれがあれば良いのね。オリヴィア、守りは任せた。エアームーブ、最大出力でいくわ!」


「はい。ホーリー・シールド最大展開!」


 リヴァイアサンのサイドに回り込んでいたシャルロットがロケットのように飛んでいくが、ウォーダンを跡形もなく消滅させる程の巨大な水の波導が襲いかかる。だが、それを防ぐは巨大な光の壁。


「ぐっぅぅぅぅぅぅ……」


 必死に押しとどめようとオリヴィアであったが、光の壁にひびが生じ始め、徐々に大きくなっていく。もう時間がないと、バスターブレードを抜き去ったシャルロットは急いでウォーダンに投げつける。間に合うか否かのタイミングで持ちこたえた光の壁が砕け散る。


「ウォーダンさん!」




「すまない、迷惑をかけたな。もう安心しろ。龍相手なら、おれは負けん。行くぞ!」


 ウォーダンが先ほどと同じく跳躍し、リヴァイアサンの眼前に迫る。再現するかのように放たれる水の波導。だが、先ほどと違って彼の手には愛用の獲物がある。


「魔法は苦手だが、魔力がないわけではない。物質強化!」


 柄に埋め込まれた魔石が光り輝き、剣をより強固に、さらに切れ味を強化していく。その剣で水の波導が斬られていくのを見て、リヴァイアサンはさらに魔力を注ぎ込む。だが、彼を押しのけることはできない。


「さらに強化!延びろ、我が剣!ドラゴン・スラッシュ!!」


 大剣が伸びていき、巨人が振るうのかと思われるほど巨大な剣が振られ、リヴァイアサンを真正面から、真っ二つにしていく。


「我が剣に断てぬもの無し」


 リヴァイアサンを倒した衝撃で巨大な水柱が立つ中、彼は勝利の余韻に浸っていた。


 そんなときだ。ゴゴゴと地響きが聞こえ、何事かと泉を見ていると、泉の水が中央で別れ、中から階段がせりあがってきたのは。


「隠しダンジョン?」


「入ってみましょう」


「俺も同行しよう。剣を取り返してくれた礼もあるからな。それに……だ。こういう冒険は胸が躍る」


 手慣れの剣士であるウォーダンを先頭に、三人は泉の中のダンジョンへと足を踏み入れるのであった。

 その様子を1人の女性が監視しているとは知らずに。

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[一言] ダンジョン……あ(察し
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