第22話 学園の隠し部屋
ダイエットのため、そして、経験を積むため、再び掲示板に訪れたシャルロットたちは、1つのクエストを受注する。それはシャルロットが目星をつけていた図書室の本の整理のクエストだ。これならば、報酬が食べ物である確率は低いだろうと考えてのことだ。
「図書室は試験勉強のとき、使いましたけどきれいに並べていましたよね」
「そうね。この依頼書によると、本の貸し借りが多いこの時期、返却された本を元の場所に戻すのに時間がかかるらしいわ。そこで、私たちの手伝いが必要ってわけ」
「そういえば、カフェテラスでも本を読んでいる人をよく見かけます」
「私たちは食べてばかりだけどね」
「だて、アンナさんの手作り料理がおいしいから……」
「そりゃあ、元・宮廷料理人仕込みだもの。美味しいに決まっているわ」
「そんな凄い人が居るんですね。ぜひ会いたいです。目指せ、宮廷料理人仕込みのパン屋です!」
「そのパンにかける情熱を魔法や勉強に回してほしいところね」
そんなやり取りをしながら、図書室に行くと、依頼者である司書のノルベーに図書室の奥にある小部屋に案内される。そこには返却された本が山積みになっており、一度でも崩れたら生き埋めになるのではと思うほどだ。
「本を読んでくれるのはうれしいのだが、こうも多いとな。しかも、もう一人の司書であるホロエは風邪で寝込んでいる。猫の手も借りたくなる気持ちはわからんでもないだろう?」
「これは……私の想像以上ね」
「が、頑張って元の場所に戻しましょう」
「ホロエが戻ってくるまでの期間だけど、無理してすべての本を戻さなくてもいいからな。君たちが体を壊されるほうが困るから」
「やれる範囲でやってみるわ」
「ではとりかかりましょう」
シャルロットたちが、本のラベルを見ながら、どこの本棚に置くかを確認しながら元の場所に戻していく。あまりの多さに魔法で楽しようという考えがよぎったが、それではダイエットにならないため、台車に多くの本を積んでいき、放課後の図書室を巡っていく。
初日こそはもたついていたこともあり、時間がかかっていたが、さすがに何日か働いていると、度重なる増築で入り組んだ広大な図書室の配置も覚え、てきぱきと動きその作業ペースを上げていく。
「山積みになった本もだいぶ減ったわね」
「この調子なら、今日中にはこの本の山がなくなっているかもしれません」
「風邪で休んでいた人も明日には復帰できるみたいだし、あとひと踏ん張り頑張りましょう」
「そうですね、今日は休館日だから戻したはしから読まれることもないですし……あれ、この本、整理用のラベルがついていません」
「どれどれ……本当ね。中身は魔法学の歴史だから、西の壁側の本棚のところね」
「相当古そうな本ですし、ラベルがはがれたんでしょうか」
「そうかもしれないわね。この1冊分のスペースが余っているかもしれないから、ここにある同じ歴史学の本を持っていて、空いているラベル番号を確認しましょう」
「はい、わかりました」
同ジャンルの本を持って行き、西側の本棚を埋めていくと、1冊分のスペースが生まれる。ここがラベルがなかった本の場所なのだろうと、抜けているラベルの番号を控えようとすると……
「あら? 変ね。番号が飛んでいないわ」
「7、8、9……本当です。その前も末尾の番号が4、5、6と続いています」
「でも、置くスペースがある以上、個人の本ではないわよね。とりあえず、置いときましょう。明日、依頼の報告ついでに話せば、解決してくれるでしょう」
「はい。では……6と7の間に置いておきますね」
オリヴィアが本を置いた瞬間、本棚がゴゴゴと音を立てながらスライドしていき、隠し扉が二人の前に現れる。その様子を見て、二人の間にしばらく沈黙が流れる。
「……入ってみる?」
「入ってみましょう。古い本に隠し扉……小さい時に聞いた冒険談みたいです」
「それじゃあ、入るわよ」
シャルロットがガチャリと扉をあけると、錆ついた金属音がこだまする。どうやら、長い間使われていなかったようだ。中には電気がついて居なかったので、オリヴィアが魔法で明かりを灯す。
すると、そこには巨大な円形のホールのようになっており、壁側には人が入れるのではないかという程の巨大な試験管とすでに停止している機械が並んでおり、中央には台座のようなものが見える。
「広い!」
「灯台でみた空間制御系の魔法ね。増築を繰り返した話は聞いていたけど、もしかするとこの機材の搬入のためなのかもしれないわね」
「ということは私たちが使っている図書室は本当はもっと狭いスペースでマギさんみたいに魔法で広げているということですか?」
「その可能性が高いってだけよ。こっちの方を広げている可能性もあるし。それにしても、ほこりがだいぶ積もっているわね……何かあったのかしら?」
「あの台座の上に何かあるみたいです」
二人が台座に近づくと、経年劣化のせいか割れたガラスケースの中に装飾品のない古びた指輪が置かれていた。錆ついており、その金銭的価値はほぼないと言って差し支えないだろう。
「この指輪……一体、何に使っていたのかしら?」
「とりあえず、触ってみましょう」
オリヴィアが割れたケースの中から指輪を取り出すと、台座を挟んだ向こう側の床に魔法陣が描かれる。
「これって、あのときと同じ……」
「あの鹿が出てくるなら、指輪を戻して逃げるわよ」
「分かっています!」
魔法陣の光がおさまると、そこには黒い人型のゾンビのような化け物が現れる。肌や顔がゾンビのように溶けているものの、右腕が銃口になっており、首元にケーブルがつながれている。また、左腕は刀のようになっている。
銃口から放たれた魔力弾を防いだ二人に向かって、ゾンビとは思えないほどの速さで迫ってくる。
「なんなんですか、あれ!」
「知らないわよ!とにかく向こうは見逃してくれる様子もないし、こっちも応戦よ。アース・バインド!」
地面に固定された鎖で片腕ずつ縛られたゾンビもどきがその進行を止める。いかにゾンビといえども力が弱いという欠点は補っていないらしい。
これなら余裕で勝てると思ったシャルロットは次の瞬間、目を見開くこととなる。
「腕が爆発しましたよ!」
「魔力を暴走させた自爆だろうけど、あんなのゾンビといえども戦闘ふ……」
爆発した衝撃が待ったほこりがおさまると、そこには両腕が欠損したゾンビもどきが居た。腕の武器を失いダルマ状態になったゾンビに後れをとるようなことはない二人だが、ゾンビもどきはニチャとした表情で薄気味悪く笑う。
「み、みてください。あれ……」
「嘘でしょう。腕が……再生していく」
右腕からツタのようなケーブルが絡みながら生えてくると、それが大砲のような大きさと形状になっていく。その一方で、左腕は巨大化した右腕を支えるためか、人の手と同じ形状になっていく。
そして、出来たばかりの腕がケーブルから漏れてきた粘液によって先ほどと同じような皮膚状態になる。
そして、右腕から放たれた砲撃は二人の視界を黒く染めていく。
「ホーリー・バリア!」
「エアーダッシュ!」
バリアでわずかな時間を稼いでいる隙に、シャルロットがオリヴィアの手を引っ張り、射程範囲の外へと出る。
後ろに合った機械が跡形もなく消し飛んでいることから、あの攻撃を受けたらただでは済まないことは明白だ。
「指輪置いて逃げましょう!」
「もうあれは、私たちを敵として認識しているわ。逃げたとしても追いかけてくるでしょうね」
「ということは……」
「私たちが生き残る手段はたった1つ。あのゾンビもどきを倒すことよ!」
シャルロットがゾンビもどきをにらめつける。それをみたゾンビもどきは再度、腕を爆散し、両腕を砲身に変える。どうやら1発で仕留めずに2発目で仕留める方針に切り替えたようだ。
「でもね、こっちもやられっぱなしってわけじゃないのよ!ゾンビなら頭部を吹き飛ばせばいいでしょう!サンダー・スピア!!」
「光の刃よ、斬り裂け!クレセント・ショット!」
三日月状の刃がゾンビの逃げ道を防ぐように放たれ、ゾンビもどきの動きを封じる。そして、動かない的を外すことようなもなく、雷の槍が頭部を吹き飛ばす。ジュージューと肉の焼ける匂いが鼻につき、顔をしかめる。
だが、失った頭部さえも先ほどの腕と同様に復活していく様子を見て、二人はじりじりと後ろに下がる。
「普通のゾンビの弱点である頭部への攻撃も通じないとなると、いよいよってところね……」
「ど、どうするんですか!?」
「こういうときは……弱点がわかるまで、攻撃するまで!サンダー・バレット乱れ撃ち!」
「はい!ホーリー・ショット!」
数多くの魔力弾を撃って、撃ちまくって、ゾンビもどきの身体に命中させていくが、その傷を回復させながら砲身への魔力供給を止めない。そして、収束していく光を見ながら、ぎりぎりまで攻撃を続ける。
「そろそろ来るわね……アース・バインド!」
天井から生えた鎖がシャルロットたちの腕に絡みつき、その身体を宙に浮かせる。それを見たゾンビもどきが素早くオリヴィアに向けて2発目を放とうとするも、天井の鎖を消して床から生やした鎖で素早く落下することで、その砲撃からも難を逃れる。
「さてと、これをみたアイツがどんな変身するかだけど……」
「もう変身しなくていいです。そのままでお願いします。ノーチェンジです」
だが、オリヴィアの祈りもむなしく、ゾンビもどきが腕を爆散させ、姿形状を変えていく。その両腕は一番最初に見た時の左腕と同じく、刀身になっていた。しかも、身軽になったせいか、追いかけてくるスピードが先よりも段違いに速い。
「うわぁぁああああ!逃げるだけで精一杯で攻撃する暇がありません」
「速さは強さというわけね。遠距離攻撃を捨てて接近戦に切り替えてくるだけでこんなにも面倒なんて……でも、こういう手はどうかしら。エアームーブ!」
シャルロットがオリヴィアを抱え、一時的に空中に避難する。それを見たゾンビもどきが二人の落下着地地点に素早く移動し、二人を切り刻む準備に取り掛かる。エアームーブが解除され、落下していく二人はゾンビもどきを真正面に捉える。
「今ならアイツは攻撃してこないわ!」
「これなら外しません!ホーリー・バスタァァァア!!」
ゾンビもどきがその攻撃を避けようと、足を動かそうとしたとき、鎖が足元に絡みついていることに気づく。ゾンビがゆえに触覚が無く、高機動型にも関わらず、足を止めてしまったこと。それがゾンビもどきの敗因だった。
巨大な光に包まれたゾンビもどきは上半身を吹き飛ばされていく。だが、下半身だけになっても修復をしようとしたところに頭上から雷が落ちてきて、復活していくケーブルを焼き払っていく。
「先から何度も見ているけど、自己修復中は動きを止めなければならないんでしょう。だったら、焼き続ければ、あんたは身動き一つとれない」
「そして、これだけの時間を稼いでくれたら、もう一回攻撃することができます!ホーリー・バスター!」
オリヴィアの2度目の砲撃で下半身を吹き飛ばして、ゾンビもどきの消滅を見届けた2人は息を荒くしながら、その場にバタリと倒れる。
「はぁはぁ……きついわ。これは痩せたわね」
「ダイエットとかいうレベルじゃないですよ。あれ」
「なんだったのよ、あれ」
「お姉さまがわからないのに私がわかるわけないです」
「それもそうね。とりあえず、その呪われた指輪(仮)は貴女がもってなさい」
「うう、なんか持っているだけで運気が下がりそうです。それに夢の中であのゾンビさんと追いかけっこしそう」
「夢の中でももう二度と見たくないわ」
「私もです」
へとへとになった二人はしばらく隠し部屋で休んだ後、残りの仕事をさっさと終えて自室へと戻った。
こうして、二人はいろんな謎を抱えながらもダイエットすることに成功するのであった。




