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第21話 森のキノコにご用心

 秋といえば、何を思いつくだろうか。スポーツの秋、音楽の秋、読書の秋、何をするにしても過ごしやすいこの季節において、彼女たちにとっては食欲の秋だった。しかし、食べれば増えるのは当然の結末というわけで……


「まずいわ。最近、スカートがきつい……」


「美味しい季節ですからね。今日のおやつは秋の味覚をふんだんに取り入れたモンブランですよ」


「アンナさん、ありがとうございます」


「ねぇ? 私の話聞いてる?」


「はい、聞いてますよ。ですから、お嬢様のモンブランは糖分控えめにしておきました」


「それなら私も、次からはそっちでお願いします」


「そうさせていただきますね」


 オリヴィアたちはテーブルの上に置かれたモンブランを食べつつ、ハーブティーを嗜む。山の方からは小鳥のさえずりも聞こえ、和やかな一日であることを告げる。


「確かにおいしいわ。でもね、いくら糖分控えめと言っても運動も大切だと思うの。あと、おかわりは禁止よ」


「私の場合、レオナさんにしごかれていますからおかわり食べても……」


「知っているわよ、貴女がスカートのベルトをこっそりと緩めていることくらい」


「ぎくっ……何のことですか? ワタシシリマセン」


「だまらっしゃい!普段止めている穴から1個ずれているのはまるっとお見通しよ!」


「うわああああ!? それを言わないでください!!」


 純然たる事実を言われて、オリヴィアは顔を赤くしながらシャルロットに抗議する。そんな二人の様子を見ながら、アンナはくすくすと笑いながら、ダイエット効果のあるハーブティーを空になったティーカップに注ぐ。


「とにかく食べて痩せるなんて淡い幻想は捨てて、運動いえ、クエストの受注をしましょう」


「そういえば、私の財布の中、一足早く冬を迎えていました」


「こっちはお金よりも経験を積みたいところ。目指すはあの鹿よりも強くなること!」


「うう、あれを倒せるのは噂で聞くドラゴンスレイヤーさんくらいですよ」


「黒衣の龍殺し――ドラゴンスレイヤー、彼が倒したドラゴンは両手では数え切れないほどで、市場に出回っている龍の素材は彼が討伐したものが大半という話ですね」


「私も知っているわ。誰も彼の正体を知らないのにその功績だけがまことしやかに流れている都市伝説的な話。そのドラゴンスレイヤーが私たちのパーティーに加われば、あの鹿の討伐も夢ではないけど、存在するか分からないものに賭けるほど愚かじゃないわ。ここは堅実的に自分たちのレベルアップよ」


「どれくらい強くなればいいんですか?」


「そうね、今の私たちの強さが15くらいなら、40くらいになれば良いんじゃないかしら。3倍じゃなくてよかったわね」


「それでも果てしなく遠い気がします」


「いつかたどり着くわよ。さてと、クエストが張られている掲示板に行きましょう」


 学園の掲示板には校庭の草むしりから、魔物のちょっとした討伐依頼などギルドで頼むほどではない依頼がたくさん張られている。どの依頼を受けようかと考えていると、オリヴィアが1枚の依頼を取る。


「これが良いです」


「どれどれ食堂から『キノコ採取の依頼』……あのね、間違いなく報酬がキノコ料理よ」


「キノコはヘルシーなので0カロリーです」


「何よ、その理屈。ここは報酬が出なさそうな図書室の整理あたりを選ぶのがベストよ」


「でも、キノコは美味しいです」


「ダイエットが目的なの、忘れてないよね」


「キノコ食べたいです」


「目がキノコになってるわ、この子……仕方ないわね、でも食べ過ぎないこと」


「わかってます!」


 頭の中がキノコのことでいっぱいになっているオリヴィアにどこまで話が通じたのか分からないシャルロットはハァとため息をつくのであった。



 シャルロットとオリヴィアは裏山でキノコ狩りをし始める。依頼内容はキノコ料理の試作に使う分だけあればいいので、本数はそこまで要らないようだ。だが、キノコが生えていそうな木陰を探してもシャルロットは一向に見つからない。それに足してオリヴィアはというと……


「ふんふ~ん。またまた発見。このクリーム茸は口の中でとろけるんですよね」


「なんで見つけれるの?」


「こういうのはキノコの気持ちになるんです」


「分からないわ……」


 キノコが生えている場所が分かる魔法など知らないし、覚えようともしなかったが、この機会に探索系の魔法の勉強でもしようかとシャルロットが考えていると、奥の茂みからガサコソと何かが動く音がする。


「巨大な猪……でも、背中からキノコが生えています」


「あれはゾンビ茸ね。生きた獣に自分の菌を植え付け、広範囲に移動させるように宿主を操って生息地域を広げる厄介なキノコよ。その効力は肉体が朽ち果てるまで続くことから、その名称がついたと言われているの」


「私たち、大丈夫なんですか。毒キノコならともかく寄生するタイプは怖いです」


「あのキノコの弱点は魔法の抵抗力の高い人間や魔物に寄生することができないことよ。魔術師なら、比較的安全に狩れるキノコともいえるわね」


「あの猪さん、いえ、キノコさん、逃がしてくれそうにもなさそうなので、一緒に倒しましょう」


「今回は貴女だけで倒しなさい。あれくらいなら1人でも十分よ」


「わ、分かりました。まずは足止め……ホーリー・バインド!」


 猪の足もとに光の帯が絡まっていくが、猪の突進をそれを引きちぎっていく。それを見たオリヴィアが慌てて、横に逃げて回避するものの後ろに合った木がミシミシと音を立てて倒れるのを見て、青ざめる。


「まともに食らったら駄目です。でも防げるから分からないし……そうだ」


 何かひらめいたのか、オリヴィアは自分の魔力を前方に集中させ、猪の突進攻撃を待ち受ける。

 そして、さっきよりも早い全力の突進攻撃を仕掛けてくる猪。それはオリヴィアの運動神経ではかわすことができない速度であった。


「受け止められないなら……一撃で倒せばいいんです!全力の……ホーリー・バスタァァァア!!」


 普段よりも太い白い光に飲み込まれていく猪の身体を蝕んでいたキノコは浄化されていくのであった。

 残された猪の死がいを見て、オリヴィアはうれしそうにぴょんぴょんと跳ねる。


「どうでしたか、お姉さま」


「あのね……背中に生えているキノコを先に切り落とせば楽に倒せるのよ、あれ。今回は力押しがうまくいったから良いけど、今度は相手の弱点をよく観察しなさい」


「ところで、あの鹿さんに弱点はあるんですか……」


「知らないわよ。闇っぽい色していたから光に弱いんじゃない」


「やっぱり先生に話すべきかと……」


「話したところでもみ消されるのがオチよ。そもそも、ギルド所属のハンターがあんな簡単な隠し通路見つけられないはずがない。つまり、発見者はあそこで打ち倒されてゾンビになったと考えられるわ。そんな強力な魔物が学園の近くにいると分かれば、通いたいと思える?」


「通いたくないです」


「しかも、あの鹿は仕掛けてこなければ襲ってこない。ならば、隠し通路の存在を隠してしまえば、ハンターの不幸な事故で済ませられるわ」


「うう、なんだか知ってはいけないものを見た気がします」


「まあ、関わらなければ何もないから深刻に考えることはないわよ。キノコも集め終わったし、帰りましょう」


「はい、採りすぎても駄目ですからね」


 かくして、二人はキノコが入ったかごを背負いながら、仲良く下山するのであった。



 食堂のおばちゃんがかごからキノコを取り出し、毒キノコが紛れていないか確認をする。そして、全てのキノコの確認をすると、依頼書に依頼達成のハンコが押され、報酬金(おこづかい)が支払われる。

 そして、おもむろに七輪を用意して、やや大きめのキノコをぬれた布で軽くふいて汚れを落とす。


「山の中を歩き回ったんなら、おなか減ったろ。採れたてのキノコを一番おいしく食べるのは炭火が一番って相場が決まっているんだ」


 ジュージューと焦げめがつき始めているキノコに塩をパラパラとまぶし、焼きキノコを二人の前に置く。


「これは美味しいに決まっているじゃないですか!」


「さてと、こっちはキノコ鍋でも用意しておくよ。少し具材を変えたから、味見もしてもらうと助かるんだけどねぇ」


「だ、出されたからには食べるしかないわね。食べたいわけじゃないからね」


「もぐもぐ……今日の夕食はキノコ鍋で決まりです!いっぱい食べますよ!」


 クエストは達成したが、ダイエットは達成できなかった二人は後日、別の依頼を受ける羽目になるのであった。

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