第20話 ダンジョン攻略
夏休みが終わり、新学期が始まる。
ゴブリン騒動のせいか、数名の生徒が自主的に学園を辞めたことを除けば、シャルロットのクラスは1学期と同じように平和な日々を送っていた。
「今日は今までの勉強の成果を見るため、裏山のダンジョンに潜ってもらう。ダンジョンの奥に設置された宝箱から、この指輪を持ちかえるのが目的だ」
ヨハネス先生が掲げたのは赤い宝石が付いた指輪。凝った装飾もなくシンプルな指輪で価値は高くないだろう。そして、生徒たちからの質疑応答の時間が始まる。
「先生、ダンジョンの危険性は?」
「過去に何度も調査をしており、見返りはないが危険なモンスターも罠も少ない。無論。なめてかかれば命を落とすことにはなるが、逆に言えば余程のことが無い限りは安全だと言える。他に質問が無ければ、5人1組のパーティーを組んでもらう」
シャルロットは、もはやお馴染みになったオリヴィアとレオナの2人に、ヴィンデルが加わり4人に。
「さてと、あと一人どうするかだな。俺の連れは別のパーティーに入っているから、こちらには入れることができん」
「そうね、私たちだけでも戦力は十分だから、あとは仲間はずれでボッチな人でも……」
「どうやら、僕の力を借りたいみたいだね」
そう言いながらすり寄ってきたのは、取り巻きが不審な退学をしたアランだった。アンナのことで不愉快な気分にさせられたこともあり、シャルロットは不機嫌そうな顔をする。
「アラン卿か。1学期の成績を考えても、十分すぎる戦力だな」
「ふん。僕よりも高い成績を出したから調子に乗るなよ、僕のほうが優秀だってところみせてやる」
「そうかそうか。だったら、その実力をじっくりと見せてもらおうとしよう」
(あわわ……学年の成績トップクラスに紛れて、下から数えたほうが早い私が浮いています!?)
場違い感を感じ始めたオリヴィアはあたふたとし、男2人の間に静かな火花が散る。いや本当は三人いるがあちらはカウントはしない。
そしてパーティーが組み終わり次第、ダンジョン内に入っていく。
シャルロットたちが、迷路のように入り組んだ道をマーキングしながら歩いていくと、曲がり角の先にゴブリンが数匹いるのを見つける。見張りのようだが、幸い、こちらには気が付いていないようだ。
「さてと、仲間を呼ばれないようにさっさと倒すか」
「これだから、脳筋は……ここは僕に任せてもらおう」
「そこまで言うなら、見せてもらおうか」
「ふん。奴らに怠惰な眠りを誘え、スリープ・ミスト!」
ゴブリンたちがいる通路が白い霧に覆われていく。それに気づいたゴブリンが、仲間に知らせようと息を大きく吸うと、激しい睡魔に襲われ、ぐーすかぴーすか寝てしまう。
霧を解除したところで、たまたま通りかかったゴブリンが寝ている仲間を見つけたが、いつものようにサボっているだけだと思ったのか通り過ぎてしまう。
「状態異常……闇魔法の一つね」
「どうだ。数少ない闇魔法の使い手だ。これで僕が……いや俺が天才だということが分かっただろ!」
「大声を出すとせっかく寝かしたゴブリンが起きてしまいますわ」
「おっと、そうだな。確実に殺そうとしよう。喰らえ致死性の猛毒、ポイズン・ショット!」
紫色の液体をかぶったゴブリンは痛みを感じる間さえなく、ぶくぶくとその皮膚や骨を溶かし液状へと還元させていく。その残酷なやり方にオリヴィアは少し顔をそむける。
「俺が本気を出せば、これくらいは楽勝というわけさ。さっさと奥へ進もうぜ」
「その意見は賛成だが、あまり女の子に刺激の与えるような真似は控えたほうが良いぞ」
「あん? 魔物や奴隷なんかに人権なんかねぇだろうがよ」
アランの物言いにシャルロットはピキッと眉間にしわを寄せる。アンナを普通の人間として扱っている彼女からすれば、魔物と奴隷を同程度の扱いをしていることに腹が立つのも当然だ。だが、ここで彼に殴りかかるような真似をするわけにはいかない。
「ちっ、数が多いな。眠りが回りきる前に動かれたら面倒だ。パラライズ・フラッシュ!」
「喰らいなさい、サンダー・ショット乱れ撃ち!」
「GOBGOB~」
そのため、出会う魔物たちに八つ当たり気味に魔法をぶつけることにした。アランが眠りや麻痺をばらまき、弱ったところでシャルロットの強力な魔法が飛んでくるという他の3人が引くような惨劇を引き起こすこととなった。
そんなこんなでダンジョンの最奥部の部屋へとたどり着き、近くにいたゴブリンどもを一掃する。部屋の奥の壁近くにある宝箱から指輪を手に入れる。指輪の数が減っていないところから、シャルロットたちが一番乗りのようだ。
「あっさりと手に入れましたね」
「行き止まりとかのはずれの道を引かなかったのが大きいですわ」
「これはすべて俺様のおかげだからな」
「ああ、確かに。お前さんの実力はわかったよ。俺たちだけならここまで早くたどり着けなかったからな」
「でも歩き疲れたので、少しやす……うわ!?」
オリヴィアが壁にもたれかかった時、後ろの壁がくるりと回転し、奥の通路へと続く道が開かれる。
「いたたた……なんですか、これ?」
「これは隠し通路か……?」
「へへ、つまり、先生も知らないってわけだよな。つまり、手柄を上げるチャンスってわけだ!」
「待て、アラン卿!一人で行くな!!」
「お前らは臆病風に吹かれてここで待ってな」
「くっ……どうする、みんな?」
「行くしかないでしょ!」
「そうですわね。先生方を呼んでいる間にもアラン卿が無事だという保証はありません」
「早く助けに行きましょう」
「わかった。だが、俺たちの手に余ると判断したら、すぐ引き返し、先生たちの応援を呼ぶぞ」
ヴィンデルを先頭に4人は先に行ったアランを追いかける。眼を離したのはわずかな時間のはずだが、あちこちで魔物の残骸が転がっている。
「どれもアランさんがやったのでしょうか?」
「だろうな。毒で溶けている死体だらけだ。うかつに近づくなよ」
アランの攻撃を掻い潜ったのか数匹のゾンビが襲い掛かるが、ヴィンデル卿のファイアーソードで焼却していく。たとえ相手が痛みを感じぬ不死の身体でも、燃やせば問題ないのだ。
そして、部屋の奥に通じる扉の前で今まさに入ろうとしているアラン卿に追いつく。
「遅かったじゃないか」
「お前が早すぎるだけだ。手遅れになる前に引き返そう」
「おいおい、お宝を目の前にそれは……無いぜ!」
アランが勢いよく部屋に入ったのを見て、シャルロットたちは意を決してその部屋の中へと入っていた。そこにはかつて戦った時と同じ黒いオーラのオークが居た。あの時と違うのは1匹だけでなく他にも数体いることだろう。
「あれは変異魔物のオーク!? 1匹だけで大変だったというのに4体となると……」
「はん。お前ら、オーク如きに後れを取ったのかよ。見てな、俺がオークの倒し方を教えてやる!」
「待て、うかつに近づくな!」
「ほらよ、ポイズン・ショット!はい、俺のか……へっ?」
アランが間抜けな声をあげる。
彼の文字通りの必殺の攻撃技がオーラに阻まれ、通用しなかったのだから、それは無理のないことだ。そして、何事もなかったかのようにオークは彼をつかみ取り、握りつぶそうと力を入れる。
「ぐぁああああああああ!!」
「ええい、だから言わんこっちゃない。炎月一閃!」
炎の刃が弧を描き、オークの腕を切り落とす。ヴィンデルが助けた時にはあまりの激痛のため、アランの意識は失っていた。しかし、内臓へのダメージがどうなっているかは外見では判断しづらいこともあり、すぐさまオリヴィアに回復の魔法をかけてもらう。
「さてと、これでアランは良いが、残るオークも厄介だぞ」
「ええ。ここは手分けして倒しましょう」
「それが一番だな。俺は手傷を負わせたものともう1体やるから、残りの2匹は任せた」
「わかりましたわ。まずはその足を封じましょう。アイスステージ!」
オーク2匹の足元が氷に覆われる。こんなもので滑らせようとでも思っているのかとニチャと馬鹿にしたような顔をしたオークは氷の上に足を踏み入れると、氷がバキバキと音を立てて割れていく。
馬鹿にしたような様子で歩こうとしたとき、床と足がくっついたかのように動かなくなる。
「BUOOOOG!?」
「あら? 私のことを忘れたかしら。金属の床って真冬に濡れた足で歩くと引っ付くのよ。私の飼っている子犬以下ね」
「オークに知性を求めるのは無粋ですわ。それにしてもよく思いつきますわね」
「いくらオーラ付きの魔物といえども歩いているということは、足の裏はオーラで覆われていないか極端に薄いかのどちらかだもの」
「こうなれば、近づかないと攻撃手段の無いオークより、近づかなくても攻撃できるアタシたちの方が有利なのは明確」
「さあ、覚悟しなさい。ライトニング・スピアー!」
「撃ち貫け、アイス・ジャベリン!」
電撃と氷の槍が2体のオークに襲い掛かる。無理やりはがそうとしているせいでカウンター判定が出ているオークはその抵抗もむなしく、貫かれて絶命する。それと同時にヴィンデルもオークを倒すことに成功する。
「みんな、無事のようだな」
「さすがに数か月前に合った魔物にまた苦戦するわけにはいきませんわ」
「うむ、それは俺も同じだ、レオナ嬢。で、問題は目の前にある禍々しい黒い扉を開けるかどうかだが……」
「気にはなるわね」
「ちらりと覗いて危ないと思ったら逃げましょう」
「コソ泥のような気持ちはせんでもないが、ここまで来たからにはな……」
ヴィンデルが黒い扉に近づこうとしたとき、扉の前に魔法陣が現れ、とっさに後ろに下がる。その魔法陣からは巨大な黒い鹿のような魔物が現れ、ヴィンデルたちを睨めつける。
「こいつはまずい……」
「ええ、逃げるわ!文句はないでしょ!」
「当たり前ですわ、あれは……今のあたしたちでは勝てない!」
「待ってください、アランさんは?」
「俺が背負う!走れ!!」
圧倒的な威圧感と、あのときのオーガもどきと同じ禍々しい黒い魔物であると判断したヴィンデルたちは一目散に逃げだす。それを見た黒い鹿の魔物は追うような真似をせず、その姿を消すのであった。
ダンジョンの外ではすでにいくつかのパーティーが帰っており、最後ではないこともあり、先生に怪しまれることはなかった。
(でも、あのダンジョンの先に何があったのかしら?)
今のシャルロットにその答えを知るすべはない。だが、いつか、もう一度ここに来るような予感を感じながら、最後のパーティーが戻ってくるのを待つのであった。
なお、安全なダンジョンで意識を失うほどのけがをしたアランの存在もあり、シャルロットたちのパーティーは大幅な減点になった。




