第19話 護衛依頼(後編)
翌朝、シャルロットたちがゴーレムの様子を見に灯台に行くと、すでに修理が終わったのか新品同然のゴーレムが灯台から出ていた。
「本当に直っているわね。さすがにマギ製のゴーレムだけとは思うけど、手に入りやすい材料で直せるのは魅力的だわ」
「俺たちは当たり前だと思っていたんがな。まあ、爺さんも草葉の陰で喜んでいるだろうさ。こいつ以外のゴーレムを夜中の間、働かせておいたから物資の積み込みは終わっているぜ」
「お前さんとはもう少し語りたいところだが、こちらは不手際があった身。さっさと帰らないと評判が落ちるわい」
「それでは学園に戻りましょう。きっとおばちゃんが美味しい料理を作ってくれるはずです」
「昨日、あれだけ食べたのにまだ食べますの? 欲望に従ったら身の破滅につながることを覚えておきなさい」
「はーい」
「……本当にわかっているのかしら、この子」
倉庫前に戻り、コゼニーが不足の品が無いかリストと照らし合わせて確認する。そして、学園に戻るためシャルロットたちはギョッコーを出て、なだらかな丘を歩いていた。そんあとき、先頭を歩いていたレオナが立ち止まり、後続を制止させる。
「目の前に強力な魔力を感じますわ」
「GRUUUUU!」
「あれは黒いオーラのシルバーウルフ!」
彼女たちの目の前に突如として現れたのは額にX字の傷がある黒いオーラを纏った白銀の狼。眼が血のように赤く染まり、凶暴性がさらに増している。
「俊敏な魔物に黒いオーラがついているのは厄介だけど、所詮はシルバーウルフ。私たちの敵じゃ……」
「ひ、額にエックス字の傷跡……あれは噂に聞く『魔導獣シルバー』!」
「なんですか、それは?」
「昔、この近くに住む魔術師が究極のキメラを作り上げようとした際に、逃げ出したシルバーウルフの個体が居たそうだ。日夜様々な実験を受けたその狼は人間をひどく恨み、何百年たった今でもどこからともなく現れては証拠を残さず人を殺し、闇に消えるという」
「怖い話です。その狼さんには傷跡があったというわけですか」
「そういうことじゃ。傷跡がある理由が実験によってつけられたもの、過去の犠牲者がつけたものと諸説あるが、共通しているのは額の傷というわけじゃな」
「とにかくあれが危険な個体なのはわかったわ。アンナ、あんたはコゼニーと荷物を守りなさい」
「ま、待て。その子を前線に出したほうがよくないか。盗賊に襲われたとき、とんでもない戦闘力だったのだがね!」
「いえいえ、私なんてお嬢様の足元にも及びません」
「謙遜している場合かね!?」
「言い合いはあとよ。向こうさん、しびれを切らし始めたみたいだから」
アンナがコゼニーを守るように氷の障壁を作り出し、流れ弾が来ても大丈夫なようにする。
後ろを気にせずに戦えるようになったシャルロットたちは勢いよく走ってくるに向かってくるシルバーに魔力弾を放っていくが、それを残像が残るかと思うほどの勢いかつ最小限の動きでかわしていく。
「くっ……懐に!? ですが、対処できないとでも!」
レオナは氷の短剣をすばやく精製し、近寄ってきたシルバーの頭部に突き付けようとした。変異魔物に対してカウンター攻撃は非常に有効だが、狼が大きく口を開けて放たれたブレス攻撃に大きく吹き飛ばされてしまう。
「シルバーウルフに咆哮による攻撃はなかったはず」
「そうですよ。ドラゴンならともかくシルバーウルフは魔力を持たない魔物のはずです」
「うむ。これはかの魔術師の違法実験の一つの成果なのかもしれんな」
「厄介にもほどがあるわ!大丈夫、レオナ?」
「ええ。なんとか。あの魔物の動きを止めないとどうしようもありませんわ」
「……動きを止めるには相手の行動を抑止する必要がある。目と耳ならともかく、鼻を封じる手段が無いわ」
「あら、こちらは鼻を封じる手段なら思いつきましたわ」
「それなら手を合わせれば」「怖いものはないですわね」
耳打ちするようなこともせず、レオナは懐に入れていた小瓶をシルバーに向けて投げつける。
(あれは、レオナが使っている香水の小瓶。そういうことね。ならば、私がやることは……)
その小瓶をみたシャルロットは狼の上部に到達したとき、熱風の刃で断ち切る。充満した甘い香りにシルバーは耐えきれず、苦い顔をする。その隙を逃さず、畳みかけるようにシャルロットは呪文を唱える。
「舞い上がれ、砂塵の大嵐!サンド・ストーム!」
砂嵐のドームに閉じ込められたシャルロットたちは目の前にいるシルバーさえ見えなくなり、小さな石や砂がこすれる音があちこちから聞こえる。
「これではシルバーが見えない上に目も開けられないではないのかね」
「お嬢様のことですから、風を操って私たちのところだけ砂が来ないように気流を操作していると思います。実際、荷物に砂がついていないでしょう」
「た、確かに……そういうことなら早く言いたまえ。この状態ではシルバーも下手に身動きがとれまい」
コゼニーの話が分かるはずもないが、シルバーは目を閉じながら、その妄言を否定するかのように首を振る。
(不自然に風がよけているところに人間がいる。そして、あそこには茶髪の子がいる。そこから魔力の収束を感じる)
目も耳も鼻も封じられたシルバーに残されたのは、長きにわたる戦いで積んできた研ぎ澄まされたセンスと風を読む力だ。そこから、予測される行動を瞬時に読み取り、オリヴィアの魔法を避けていく。
「あ、あたりません!」
そして、オリヴィアの攻撃が効かないとみたのか不自然に風が避けている場所が前に動き始める。
(あそこは金髪の子。この術者を倒せば、砂嵐は止むはず)
自分の足かせになっている砂嵐を止めさせるため、ブレス攻撃を行うための魔力を最大限に収束させ、放つ。
それは砂嵐を穿つ一撃。
ドームを外から見るものが居れば、そこの部分だけ消滅しているのがわかるほどの威力だ。それをまともに受けば、どんな生き物だろうと間違いなく致命傷だろう。
確かに風よけ箇所を撃ったそれは、正確に『何もない空間』を貫いただけだった。
「最初にブレス攻撃をしたのが間違いよ。風使いのシルバーウルフ!ライトニング・ボルテックス!!」
「GYAAAAAA!!」
背後からの奇襲に成功したオリヴィアはブレス攻撃へのカウンターにより、黒オーラを貫き、シルバーに電撃を浴びさせることに成功する。
砂嵐を起こしたシャルロットはアンナの推測通り味方に被害を受けないようにするため、風を操っていた。だが、相手がブレス攻撃、すなわち風属性の魔法を使う相手ならばそれでも不十分だと考えた。
そこで、自分だけはその場所から抜け出したことにより、シャルロットがまだ無風地域にいると勘違いさせたのだ。
砂まみれになりながら、シルバーに流す電撃を強め、その意識を失わせていく。もはや、ピクピクと痙攣するだけになったのを見て、砂嵐のドームを解除する。
「死んでませんよね」
「この黒いオーラのせいで魔物の戦闘力を向上させているのであれば、生きている標本は大切よ」
「レオナさん、ダメです。それは!なんとなくですけど、このオーラのせいで暴れていた……そんな気がするんです。だから、このオーラを取り除いたら……」
「取り除いたという話は聞いたことが無いわ」
「……取り除ける自信はある?」
「ちょっ、シャルロット!?」
「は、はい!」
「それならやりなさい。でも逃げないように手足を縛っておくし、失敗したらギルドに引き取ってもらう。それでいいわね」
「構いません……では、いきます。我が身に宿りし、癒しの力よ!かの者に宿りし、不浄を取り除け!ヒール!」
それは光魔法の中でも初級の中の初級。ただの回復魔法に過ぎない。
だが、オリヴィアの放ったヒールは黒いオーラを中和させるかのように霧散させていき、シルバーの傷を回復させていく。
そして、傷が全快したシルバーが目を覚まし、目の前にいる人間を評価するかのようにじっくりと見る。そして、結論を出すのを保留するかのように、踵を返し、どこかへとテレポートする。
「魔法が使えるシルバーウルフ。こんなのを作り上げる魔術師が居たのはびっくりね」
「しかし、ヒールで変異魔物を治すというのは聞いたことがありませんわ」
「だからこそ、光の巫女の生まれ変わりと思われているんでしょう」
「それもそうですわね。きっと、この子を中心に世界は動く。そう感じる戦いでしたわ。シャルロット、アタシは死なせないためにこれ以上の厳しい訓練をしますが、女の子のメンタルケアまではできません」
「貴方に女心は分からないわよね。メンタルくらいは支えていくつもりよ。一人で背負い込まずに私に頼りなさい。だって、貴方は……私の婚約者だもの」
「お姉さま、レオナさん、何を話しているんですか?」
「ふふふ、学園に帰ったら視界不良の訓練の話よ」
「うう……数撃てば当たるわけではないと学びました」
「それができたら、アンナがおやつを持ってきてくれるわよ」
「はい、手作りクッキーを焼いてきますね」
「頑張ります!」
「相変わらず現金ね、この子」
「ニンジンをぶら下げたウマに見えますわ」
2人はあきれながら、辺りに不審者がいないか確認をする。
その後、帰路に着いたコゼニー一行は学園に無事に着き、護衛任務は成功するのであった。




