第18話 護衛依頼(前編)
シャルロットたちが港町ギョッコーに着いたのは、もうしばらくすれば夕方になる頃合いであった。その間、出会った魔物は少なく、はぐれ魔物数匹を倒した程度であった。
街に入るとコゼニーが魔法で浮かせていた荷車を下し、一息入れる。
「ふぅ、この年になると疲れるわい」
「昨日も見ましたけど、魔法で浮かせてラクラク移動は良いですよね。私もあんな風に使ってみたいです」
「パン屋で何に使うのよ」
「小麦粉の袋は重たいので、魔法で運べば楽かなと。魔法パンの実現にまた一歩です」
(魔法で運んだからって、味が変わるのかしら?)
オリヴィアの描いているパンがいかなるものなのか、それはシャルロットでさえ分からない。そんな夢見る少女と共に、コゼニーが案内する海岸付近の倉庫へと向かう。
そこには数体のゴーレムがいかにも重そうなコンテナを運び、倉庫の広さの割には少ない人が梱包作業等をしている。その中の一人、ぶっきらぼうな感じの中年男性にコゼニーが声をかける。
「ブッシー、久しぶりじゃな」
「ん? ああ、コゼニーか。この時期にここに来るとは珍しい。話なら奥でしよう。そこのガキ共もな」
倉庫の一角、応客室として使っているスペースでコゼニーはこれまでの一連の出来事をかいつまんで話す。
「なんでもかんでもコストカットとか言って護衛をつけないからそうなるんだ。『はぐれの魔物程度ならワシでも倒せる。働かない護衛など不要』な考えはやめておけ」
「ふん。ギルド所属のハンターには当たり外れが多すぎる。優秀な奴はとことん優秀だが、はずれを引いたら盗賊を雇うようなものじゃ。隙を見せたら商品を盗まれる」
「一理あるがな。で、これが不足分のリストか…………まあ、これくらいなら融通してやってもいいぜ。割高になるがな」
「信用を落とすよりかはマシじゃ」
「商談成立。今日はここに泊るんだろう。明日の朝に出発できるように荷物を積んでおく」
「やれやれこれで一安心じゃわい」
コゼニーが胸をなでおろしたとき、倉庫からガラガラと荷物が崩れる音がする。急いで駆け付けブッシーが近くの従業員に怪我がないか確認した後、事情を聴く。
「何が合った?」
「運搬用のゴーレムがバランスを崩したみたいで……すみません、荷物が駄目に」
「商品はまた仕入れたら良い。お前らが無事なだけましだ。手を開いているものは駄目になった中身を在庫のものと入れ替えろ」
ブッシーが故障したゴーレムをじっくりと見る。膝関節にひびが入っており、それが原因のようだ。
「これくらいなら直せるな。よし、俺はマギの塔に向かう。コゼニー、すまんがゴーレムを運んでくれないか」
「構わんが、先の価格を割り引くことじゃな」
「全く油断も隙もねぇな。そこの学生さんも来るかい? 見てて楽しいものはないが」
「行ってみたいです!」
何も考えずにオリヴィアが元気良く手を挙げて、名乗りを上げる。それに追随して他の三人も承諾する。
そして、ブッシーは街のはずれにある少し古びた灯台に向かう。
「これ、塔ではなく灯台ですよね?」
「ああ、今は使われてないがな。古い灯台を買い取ったマギの爺さんがあそこでなんかの研究をしていたんだ。で、俺は飯とか材料を運んでやる代わりにゴーレムを頂いたってわけさ」
「では、そのマギという方に直してもらうと」
「残念ながら、ずいぶんと前に流行った病でな。いろんなところから仕入れた薬を片っ端から試したんだが、どれも効かず……」
「亡くなったと。では、どうやってゴーレムを?」
「ああ、死ぬ間際にゴーレムのメンテナンス用の魔法陣を残してくれた。今はそれで定期的なメンテナンスを行っている」
「死後も動く魔法陣……死後どれくらい動いているかは知りませんが、その方はきっと高名な方だったのでしょうね」
「爺さんはあまり自分のことを話したがらなかったからな。どこ出身でどこで魔法を身につけたかまでは知らん。世話をしていた俺にここのカギを渡して、ぽっくり逝ったからな」
カギを開けて中へ入れた途端、明かりがつき、客を出迎える。壁にはぐるりと本が並べており、らせん状の階段が中央に見える。床には4つの魔法陣が掘られており、どれも複雑怪奇な模様だ。
「思っていたより広いです。というより、見た目より広い?」
「驚いたわね。死んだ後も機能する空間制御魔法」
「人を認識する仕掛けといい……アタシが知っている魔術師でもこれらができるのは片手で数える程度しかおりませんわ」
「そうかい。あの爺さんはそれだけ凄いやつだったか!ゴーレムの魔法陣は右奥の魔法陣だ。コゼニー、その魔法陣の中央に置いてくれ」
「よっこらせと……これで良いか」
「ああ。それで良い。あとは土と粘土も中に入れて、魔法陣の溝に神殿から仕入れた聖水を流し込む」
魔法陣に聖水が満たされると、青白い光が放たれ、ゴーレムを修繕していく。
「半日もあれば、直るだろう。本当なら、さっさと帰るところだが、久しぶりに爺さんの部屋に花でも飾ってやるか。生徒たちはマギの爺さんに興味あるだろ?」
「「「はい」」」
「爺さんの部屋は2階だ。持ち出しは駄目だが、見る分には構わん」
ブッシーがそう言い残し、花を買いに灯台から出ていく。残されたシャルロットたちが2階へと入ると、机には数冊の本が積まれており、書きかけの資料が当時のまま保存されていた。
「えっ~と、魔法関連だけでなく神話に関する図書も置かれているわ」
「神話となると、アルカンディア様の話ですよね」
「ええ、授業でもやったように大昔、災厄を引き起こした獣『アビス』をアルカンディア神と『光の巫女』によって打ち倒したと言われる『アルカンディア神話』。『アビス』を打ち倒して以来、このアルカンディアには天変地異が起こらず、悠久の平和が訪れたと言われていますわ」
開いたページの挿絵には黒い禍々しい狼のような魔物と相対する6対の翼をもつ女性、その足元に小さく書かれている巫女服姿の女性が描かれている。
そして、次のページを開くと、人間たちが勝利し、役目を終えた女神が昇天する姿が描かれていた。
「ここ最近は魔物被害も増えているけどね。『アビス』は倒していないんじゃない?」
「あら? シャルロットは神話にケチをつけるおつもりで?」
「……そういう考え方もあるってことよ」
(やっぱり、信じてくれないか。私も神話が嘘だと知った時は衝撃をうけたもの)
シャルロットはチラリとアンナをみる。彼女は一時教会に居たものの奴隷として売られた経緯もあり、神の存在を信じてはいなかった。そのため、ゲームに酷似している世界であり、神話が嘘であることを疑いなく信じてくれた唯一の理解者となったのだ。
「マギさんはここで何をしていたのでしょうか?」
「そうね、地図には×印がついているところがあるわ。トラス山脈はよくわからないけど、そのほかはセントレア神殿になじみ深い場所だらけね」
「マギさんは神話好きだったのかな」
「さあ、故人がどう考えていたかなんて、それこそ蘇らせないとわからないわ」
色々と物色した後、ブッシーが戻ってきて、花瓶に白い花をさす。そして、全員で祈りをささげた後、灯台を後にするのであった。
「うわー、どれも美味しそうです」
「酒と肉、どんどん持ってこい」
「肉は良いが、酒は自腹だぞ」
ゴーレムの中に入っていたものが食品の詰め合わせだったということもあり、捨てるくらいなら、みんなで食べようと海岸でバーベキューをすることとなった。
肉のジュージューと焼ける音が、お昼をまともに食べていないシャルロットたちに直撃し、焼けるのが今か今かと待たされる。
「やっぱり肉はタレよね」
「あら塩でしょう?」
「どっちも美味しいんですよ」
「漁師の方から頂いた(売れ残りの)魚も焼いていくので、食べましょう」
「「おー!!」」
アンナが持ってきた魚を見て、肉に飽きてきた従業員らも大喜びで、それらにかぶりつく。売れ残りとはいえ、今朝採れた魚には違いないので、脂が乗っており、パリパリに焼けた皮の触感と相まって美味しい。
「私、太るわ」
「……我慢するくらいならポッチャリになっても構いません」
彼女たちはこの学園に来てから何度、このセリフを吐いたことやら。このうたげは夜中まで続きくのであった。




