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第17話 捜索依頼(後編)

 アンナとシャルロットは茂みから西の洞窟の様子をうかがっていた。特に見張りはなく、人がいる気配はない。


「静かですね」


「出入りしていた人って、野営していた人なのかな?」


「かもしれませんが、油断は禁物です。中に入って、調べましょう」


 2人が洞窟の中へと入っていくと、じりじりと肌が焦げ付くような暑さだった外とは違い、ひんやりとした空気へと変わっていく。オリヴィアが魔法で光を照らしているおかげで、日の光が届かない暗い中を手探りで探すような真似をしなくて済みそうだ。


「なんだか薄気味悪いですね」


「ですが、少なくともここに人が居たのは間違いなさそうですよ」


「どうしてわかるんですか?」


「ここに焦げ跡があります。入口からほど近いですし、おそらくここで夜の見張り当番と暖を取っていたのではないかと」


 アンナが指さした地面をよく見ると、焼け焦げた跡とすすが残っている。数日前に入ったときに、一晩でもたき火をしていたら、このような跡があってもおかしくはない。

 ギルドの目撃証言を裏付ける証拠を見つけた2人は余計な足音を立てないように、慎重に歩いていく。すると、奥の方から、男のうめき声が聞こえる。


「この声もしかして……」


「しっ。静かに……」


 近くの岩陰から奥を伺うと、行商人と思われる小太りの男性とその荷物と思われる木箱が積まれている。ここまで、誰とも遭遇しなかったということは盗賊たちは仕事中なのだろう。オリヴィアがアンナから借りたナイフでロープを斬り、さるぐつわを外す。


「ぷはー、助かったわい」


「学園にくる予定の行商人の方ですよね」


「いかにも、ワシがコゼニーじゃ。もう荷物は諦めて早く逃げんと、奴らがもど――」


「おっと、だれから逃げるって?」


 三人が声がしたほうを振り向くと、そこには手下と思われるバンダナの男性と朝方見かけたモヒカンのガラの悪い男性たちが居た。


「どこかで見た顔だと思ったら、奴隷じゃねぇか」


「もう一人も可愛いし、高く売れそうでっせ」


「てめぇら、女の顔には傷つけるな。そこの行商人は触媒の入った箱の暗証番号を聞き出そうとしたが、やめだ。こっちのほうが高く売れそうだからな」


 下卑た笑いを浮かべながら、捕らぬ狸の皮算用をする盗賊のモヒカン。子分はすでに剣を抜いており、一触即発の空気が漂う。


「装備から察するにハンター崩れというところでしょうか。オリヴィアさん、コゼニーさんを守ってください」


「えっ? でも、二人で戦ったほうが……」


「護衛を守ることも戦いですよ」


「作戦会議は終わったか。しかし、お前さんとこのご主人様も馬鹿だな。こんなところにノコノコと現れて、ばか面をして。どうせ、俺たちに売られるんだ。『たちゅけてまんま~』とか泣き叫んでも良いんだぜ」


「だったら、奴隷にして二束三文で買いなおして、お世話係にするのもいいぜ。『ゆるちて~』とかいわせるのはどうだ」


「げへへへ。それもいいかもなぁ」


 アンナをオリヴィアの奴隷と勘違いしている物言いなのだが、彼女にとって主人を馬鹿にした態度と彼女の盗賊に売られた幼少期の体験も加わり――



 ぷっつん



 アンナの中で何かがキレた。


「……オリヴィアさん」


「は、はい」


「バリア張って、動かないでくださいね」


 アンナの顔が普段と同じように笑みを浮かべているのが、逆に怖いとオリヴィアは怯えた。手がプルプルと震えながら呪文を唱えていく。


「聖なる守護の光よ、我を守れ!ホーリーバリア!」


 オリヴィアとコゼニーの前に半透明の白い光の壁が現れ、アンナと分断される。それを見たモヒカンが馬鹿にするかのようにゲラゲラと笑う。


「おいおい、奴隷だけでやりあおうとしてやがる」


「へへへ、野郎どもやっちまえ!」


「キィエエエ――!!」


「アクアジェット!」


 剣をもって勢いよく襲い掛かる子分たちを足元から噴き出た水流で上空へとかわしていく。想定外の方法でかわされたのか、盗賊たちは何もしかけてくる様子はない。それがチャンスと言わんばかりに次の呪文を唱える。


「氷のつぶてよ、奴らを貫け!アイス・レイン!」


 氷の塊が弾丸のごとく降り注ぎ、手に持っていた剣を打ち落としていく。剣を拾い上げるその一瞬、無防備になった隙に着地したアンナはすかさず追い打ちをかける。


「撃ちぬけ、我が炎の弾丸よ、ファイアーボール乱れ撃ち!」


 通常よりもやや小ぶりな火球が盗賊たちに襲いかかる。だが、数が数だけに盗賊たちに当たらず、地面に当たるものも多い。だが、先ほどまでの攻撃で生じた水や氷に当たることで、白い水蒸気が立ち込めていく。


「くっそ、これじゃあどこにいるか分かりもしねえ!」


「てめぇら、変に動くんじゃねぇぞ」


「動くなって言われても、このままだとあの奴隷女に……ぎゃああああ!!」


 後ろから斬りつけられた子分が悲鳴を上げながら倒れていく。それを聞いた子分たちが統率がとれぬまま、自分たちの判断で逃げ回る。

 そんな中、子分の一人が氷の短剣を持って襲いかかろうとするアンナの姿をみる。彼から見れば、緩慢な動きであった彼女の動きを見切り、持っていた件でカウンターの要領で斬りつける。


「なっ……てごたえがねぇだと……」


「それは分身体(ミラージュ)ですよ。アイスダガー・クロススラッシュ!」


 X字に子分の背中を切りつけ、戦闘不能にしていく。さすがに時間経過で水蒸気が薄くなってくるので、追加の水蒸気を排出し、視界の悪さをキープしていく。

 襲いかかる複数の分身体とその本体に惑わされ、逃げ回っていた子分もその足を止める。


「まるで……白い亡霊じゃないか」


「うろたえるんじゃね!亡霊だろうが、分身だろうが、本物は1つだ」


(バンダナ男は強くありませんが、モヒカン男は厄介ですね。ここは一気に勝負を決めましょう)


 アンナは最後のモヒカン男をきりつけ、モヒカン頭の男性たちに狙いを絞る。手に顔よりも大きめの水球を作り、モヒカン頭に向けて投げつける。


「ごぽぽぽぽ……!?


「息苦しいようでしたら、手を叩いてくださいね」


 顔にまとわりついた水を必死にはがそうとするが、もがけばもがくほど息が続かなくなっていく。術者を倒すのが先だと感じたモヒカンのリーダーが黒光りする曲刀でアンナに襲いかかっていく。


「あらあら、そんだけ激しく動くと息が切れますよ」


(なぜ、当たらない。この俺様がこんな奴隷なんかに……)


 平常時ならばともかく、視界不良と焦りながら振り回すそれは精彩さに欠けており、かわすだけなら実戦経験の乏しいアンナでさえ可能なものになり下がっていた。

 激昂しながら襲いかかっていることもあり、他のモヒカンよりも早く息切れをし、ギブアップと言った感じで手をたたく。


「……オリヴィアさん、彼ら、手を()()()()()()()よね」


「えっ、叩いたけど……」


「叩いていませんよね」


「オリヴィアくん、あれは『はい』か『YES』しか選択肢がない。ここは叩いていないと言うべきだ!あれはやばい。ウチのおかみと同じくらいにな!!」


「あっはい」


 にっこりと笑うアンナに怯えるコゼニーと強制的にYESと言わされたオリヴィアはもはやイジメとしか見えない戦場を遠い視線で見つめる。


「叩いていないようなので、もう一度」


「パン」「パン」「パーン」


「聞こえないなぁ? もう一度やれば聞こえるかもぉ。パチパチパチ」


「パンパンパン」「パンパンパン」「パーンパーン」


「手も叩けないんですか。仕方ありませんねぇ。では、大きく息を吸って、腹の底からワンと鳴いて貰いましょうか?」


(((できるか!!)))


 必死でパンパンと叩いていた手拍子していたモヒカンたちはついに酸欠状態となり、倒れてしまう。それが演技でないことを足蹴りして確かめたアンナは、魔法を解除し、虫の息となった彼らを助ける。


「ふぅ……オリヴィアさん、戦闘終わりましたよ。早く荷物を運びましょう」


「なにこれ。ワシは悪夢でも見ているのかね!」


「アンナさんの笑顔が怖い、笑顔が怖い……」


 モヒカンたちをぼこったことですっきりした表情で満面の笑みを浮かべるアンナとトラウマを植えつけられた二人。コゼニーが洞窟の奥に置いてあった荷車をひいている間、アンナは盗賊たちにきつけでもしているのか身体に水をかけている。


「何をしているんですか?」


「こうするんですよ。アイス・ウォール!」


 氷の壁が出現し、男たちを洞窟の奥に閉じ込める。水をかけていた理由は分からないが、盗賊を閉じ込めるためだということは分かる。


「待て待て。貴様は鬼か、そこまでやるかね!」


「コゼニーさん、どういうことですか?」


「こんなところで巨大な氷なんか出したら洞窟内の温度は一気に下がる。なら、濡れた衣服は一気に体温を奪う凶器になって……」


「夏に凍死って風流ですね」


「どこが!? 季節感無視もいいところです」


「まあ、ギルドに匿名で盗賊が居たことを伝えば、調査には来るでしょう。彼らに助けてもらえればいいんですよ。あの様子だと余罪はありそうですから、彼らの好きな奴隷になれるでしょう」


「怖い、怖いよ、あの笑顔……」


「真冬にパンツ一丁で放り出したワシのおかみといい勝負なのがおかしいわ!」


 二人の抗議もむなしく、アンナは魔法を解除せずに洞窟内を出ていく。その後、匿名の通報を受けたギルドより派遣されたハンターたちによって低体温症になっていた盗賊たちを発見、保護となった。


「今までの悪事洗いざらい吐くから、牢獄に入れてくれぇ!」


「あの白い悪魔には……会いたくなぇんだ!!」


 奴隷に落ちた彼らは二度と悪だくみをすることはなく、その一生を全うしたと聞く。




 そんな盗賊たちのことを知らず、シャルロットは真っ赤なソースがかかったパスタを恐る恐る口に入れる。


「辛っ!? 見た目からして分かっていたけど、辛っ!」


「荷物をとり返したのは良いんですけど、盗賊たちが飲み食いしていたこともあって、冷製パスタくらいしか出せませんでした」


「うう……それは分かったけど、なんで辛いものを?」


「お姉さま、夏には辛いものが一番です。おかわりもありますよ」


「出されたものは残さず食べるけど……私、辛党じゃないのよ」


 渋々と言った表情で、水を飲みながらパスタを食べるのを見たレオナは苦笑する。そんな4人のところにコゼニーがやってくる。


「いやはや、この度は助かったわい。皆様に実は1つ頼みたいことがあってじゃな」


「なんですか?」


「荷物をすべて届けることができなかったのは商人として許すことができん。そこで、南の港町ギョッコーにいる知人を訪ねて、失った分の補てんをしようと考えておる。だが、また盗賊に襲われるかもしれん。そこで、皆様方に護衛の依頼をしたいのじゃが……」


「アタシたちは構わないけど、学園の許可は貰っているの?」


「もちろんだとも。さすがに日帰りというわけにはいかん。宿泊・お食事などは全額ワシが負担することになっておる。安心せい」


「それなら、なんのデメリットもないわね。皆で行きましょう」


「はい、お嬢様がそう決めたなら、ついていきますとも」


 アンナの笑顔を見て、ビクッとトラウマを植えつけられた二人が反応する。トラウマが治るまで時間がかかりそうである。

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