第15話 盗賊団
翌朝、外の騒々しい音と共にシャルロットたちは起きる。まだ来て数日しか経っていないが、このような経験は初めてだ。何かしらの異常を感じたシャルロットは手早く着替え、隣のヴィンデル卿の下へと向かう。
「何があったんですか?」
「俺もさっき聞いたばかりだが、街の上をドラゴンが火を吐きながら旋回しているらしい」
「ドラゴンが? 手出ししないはずじゃあなかったの?」
「分からん。とにかく外に出よう。誤報だったらいいのだが……」
三人が急いで外に出て、空を見上げると、そこには街の上空をぐるりと一周しながら、時たま威嚇するように炎を吐いているドラゴンの姿があった。
「どうして、ドラゴンが来ているんですか?」
「まあ、いくらか想像できることはある。俺はこの街の長と話をする。君たちはこの宿で待機してくれ」
ヴィンデル卿が二人を置いて、街の中心部へと向かっていく。残されたオリヴィアはシャルロットの方をじっと見つめている。
「私は待たされるのが嫌いだけど、貴女はどうしたい?」
「はい、ヴィンデルさんのお手伝いをしたいです」
「私も同じね。とりあえず、このことをしでかした張本人に話でも聞きに行きましょう?」
「張本人? 誰がこんなことをしたのか分かったんですか!?」
「どこの誰がやったかは知らないけどね」
オリヴィアは大通りをまっすぐ歩きながら、シャルロットが話す内容を聞いていく。
「まず、ドラゴンは手出ししない限り襲わない。つまり、誰かがドラゴンに手出しをしたというわけよ。あの火口で高価なものは色々あったでしょう?」
「お魚さんにドラゴンの卵、子供のドラゴンのことでしょうか?」
「魚はともかく、ドラゴンは鱗でも高値が付く。子供や卵なんていくらで取引されるか。それらを狙った違法ハンターが居てもおかしくない」
「なるほど。ではその人は何処に行ったのでしょう?」
「ドラゴンの嗅覚は優れていると聞くわ。でも、いくらドラゴンと言えども同じ人間が多く生息する場所に紛れ込まれたら、嗅ぎ分けるのは厳しいと思う。つまり……」
「犯人はこの中にいる!というわけですね。それではこの街をしらみつぶしに……」
「仮に卵を持っていたとして、この街にずっといたいと思う?」
「さすがにそれは……できれば遠く離れて安心した……あっ!?」
「つまり、犯人もそう考えるから、仮に近くにアジトがあろうと最終的にたどり着く場所はここよ!」
2人の目の前にあるのは我先に逃げようとする観光客や一部の住民たちでごった返している駅だ。駅員もこの状況に対応しきれていないのかあらかじめ切符を買っていたものが我関せずと中へと入っていく。
「この状況なら、無賃乗車したとしてもやむなしになる可能性が高い」
「でも、馬とか徒歩で移動している場合は?」
「汽車の方が馬より速いのよ。一刻も早く逃げ出したい彼らがわざわざ遅い移動手段をとる必要性はないわ。外れても、ヴィンデル卿にごめんなさいと謝ればいいのよ」
「ヴィンデルさん、すみません。乗ります!」
「えっ、ちょっと待ちなさい」
2人が駅員の制止に逆らい、駅のホームへと向かっていくが、慌てているかのように列車がすぐさま動き始まってしまう。それを見たシャルロットはオリヴィアを抱え、すぐさま魔法を唱える。
「アース・バインドにはこういう使い方もあるのよ」
列車の最後尾のデッキに鎖が巻き付いていくが、それで列車の勢いが止まるわけがない。シャルロットが鎖をつかむも、地中から鎖が引き抜かれて、そのまま走り去っていく。
「エアームーブ!」
鎖をつかんでいたシャルロットの身体が宙に浮き、列車との距離が次第に詰まっていく。そして、列車のデッキにたどり着いたシャルロットは自身の魔法を解除し、一息入れる。魔法を使った時間は短時間とはいえ、彼女の息は乱れている。
「あんな魔法あるんですね」
「エアームーブのこと? あれは空中を移動する魔法だけど、魔力消費が大きいのとまっすぐしか飛べないのも難点」
「空は簡単に飛べないんですね……」
「そう簡単に自由に飛べたら戦術が大きく変わるでしょうね」
息を整えているため、少しの間休憩していると、車両の中からパンと発砲音のようなものが聞こえる。その後に聞こえる乗客の悲鳴により、事態は最悪の方向へと向かっていることを察する。
「どうしましょう?」
「中に入るのは確実として、人質に取られないよう一瞬で犯人グループを制圧しないといけないわ」
「できるんですか?」
「『できる』じゃなくて『する』のよ。まずは――」
オリヴィアと打ち合わせしたシャルロットは手で合図を送りながら、車両の中へと入っていく。中には黒い目だし帽の男が数人、手には拳銃を持っている。わざと物音をたてたシャルロットに犯人たちが振り向く。
「誰だ、てめぇら――『フラッシュ!』」
「うわー、目が!目が!」
「アース・バインド!」
振り返った犯人たちをオリヴィアが放った強烈な光で目くらましした後、拘束していく。乗客たちも当然のことながら悶絶しているが、時間がたてば問題ないと切り捨てて考えた策だ。
「こうなった以上、感づかれていると思うから、もう同じ手は出来ないわよ」
「でも、お姉さまの予想通り犯人たちから魔力を感じません」
「ええ。このまま作戦は続行。次の1手はこれよ。マグネティック・バインド!」
次の車両のドアを突き破る複数の鎖に電撃を放ち、犯人たちの拳銃を鎖にひっつかせて取り上げる。
「なに、銃が……!?」
「ホーリー・ショット!」
武器を失った男性など、魔法を扱える人間の敵ではなかった。あっさりと攻撃魔法で意識を取り上げられていく。
大きな音が車両に響き渡ったことで、犯人グループが次から次へとやってくるが、そのたびに銃が取り上げられていく。闇夜に紛れやすい黒い服を着ていることもあり、黒いGをホイホイするハンニンホイホイと言っても差支えないだろう。
他の車両でもハンニンホイホイをしている間、乗客たちを後ろの車両へと避難させていく。犯人たちが急いで出発したこともあり、パニックになって乗った客が思っていた以上に少なく、後方の車両1つで十分だったのが幸いした。
「次が先頭車両ですね」
「犯人グループの頭がいると思うわ。同じ手が通用するかわか――」
シャルロットが話している最中にドーンという衝撃と炎が噴きでる。相手が魔法を使えるものが明確になったことで、先ほどの手は通用しない。覚悟を決めて、二人が突撃するとそこには眼帯をつけたいかにもお頭と思えるような風貌の男が1人待ち構えていた。
わざわざ席を破壊していることからも、逃げたり隠れたりする気はないようだ。
「よくも俺の子分ども倒してくれたな」
「あら、馬鹿みたいに突撃するものだから、ゴキブリか何かと思いましたわ」
「くくく……ゴキブリか。あいつらはあまりにも馬鹿だったもんでな、いずれは使い捨てようとは思ったところだ。それにしちゃあ、使い捨てるにはもったいないところだったがな!」
「ホーリー・ショット!」
「そんな攻撃当たるかよ。ウィンド・カッター!」
「盗賊が火と風の二重適性持ち……!?」
「そうさ。チマチマ魔物を狩るよりこっちの方が儲かるんでな!エアスラッシュ!」
先よりも大きな風の刃が二人の襲いかかり、左右に別れてしまう。すると、盗賊の頭が猛スピードでオリヴィアに突っ込み、炎をまとった拳で殴りつける。
壁に叩きつけられたオリヴィアはゴホゴホとせき込んではいるが、意識は飛んでいないようだ。
「ほう、俺のエアーダッシュとフレイムナックルのコンボを食らって耐えた奴はいつ以来かな」
(助けたいところだけど、隙を見せたらやられる……)
「そして、死角に入ろうとチョロチョロと動くおじょうちゃん、アンタも厄介だ。命までは狩りはしない。アンタを人質にさせてもらうとするぜ」
「悪いけどお断りよ!アース・バインド!」
「鉄使いか。だが、俺の炎の敵じゃねぇ!ファイアー・ウォール!」
シャルロットの放った鎖が、突如現れた炎の壁に阻まれ、溶かされていく。次はこちらの番と言わんばかりに、お頭が猛スピードで突っ込み、腹部を殴りつけて吹き飛ばす。
「ぐっ……さすがに痛いわね」
「それはこっちのセリフだ。ファイアー・ウォールで視界が遮られているうちに、鎖かたびらのように腹部に鎖を巻きつけておくとはな。だが、それが分かった以上、手加減はしない。人質は1人で十分だからなぁ!」
「あいにく……ただでやられるつもりはないわ。アース・ニードル!」
「その程度の攻撃、目を瞑ってもよけられる」
地面から生えてくるトゲを見切りながら、お頭はスピードを落とさず、逃げながら距離をとろうとするシャルロットに向かってくる。そして、獲物を眼前にし拳を握りしめた瞬間――
「ホーリー・バスター!」
お頭の背後から白い光が襲いかかる。不意打ちを食らい、ダメージが残るお頭はたたらを踏む。シャルロットのいる位置は、吹き飛ばしたオリヴィアが居た位置の丁度対角線上だったのだ。
「誘い込まれたわけか……」
「もう大人しくしなさい。アース……『エクスプロージョン!』」
壁に大穴をあけたお頭がふらふらとその傍による。動いている列車から飛び下りれば、当然待っているのは死だ。捕まるくらいなら、潔い死を選ぶとでも言うのかとシャルロットが思い始める。
「くくく……今回は俺の負けだ。ドラゴンの卵は運転席に置いてあるぜ。戦闘中に割れたら意味ねぇからな。次に出会ったら、こうはいかねぇ。あばよ……エアームーブ!」
「しまった!その手が……」
エアームーブといえども、スピードの乗った列車と同じスピードで移動し続けることはできない。次第にその速度は減速し、安全な速度で術者は着地する。つまり、死ぬつもりはさらさらなかったのだ。
「逃げられちゃいましたね」
「……こっちはドラゴンを怒らせた原因を取り除ければいいもの」
「運転席でしたね。とりにいきます」
「こっちはブレーキをかけに行くわ。列車が止まっていたら異常を感知して迎えも来るでしょう。それに……」
「それに?」
「まあ、待っていたらくるんじゃない」
列車が止まってから、しばらくするとドラゴンが翼を広げ、列車の近くに立ち、威嚇するように泣き声をあげる。
それを聞いた二人はドラゴンの卵を持って、それを手渡す。自分の卵を大事そうに抱えたドラゴンは再び、空高く舞い上がっていく。
「向こうはどうなったんですかね?」
「無事だと思うわ。現に私たちに攻撃しなかったでしょう」
「そういえば、全て威嚇行動だけでしたね」
「だって無暗に攻撃すれば、人間たちに手ひどい攻撃を受ける。しかも、自分のドラゴンの卵が無事とも限らない。人間側も追ってくるのに時間がかかっていたことから時間稼ぎくらいはしているかもしれないけど、ドラゴンにとっては些末な攻撃だったんでしょうね」
「なるほど。あとはヴィンデルさんの迎えが来るまで待ちましょう」
「ええ。近くに湖があるから、野宿することになっても問題ないでしょう」
日が暮れ始め、いよいよ野宿をしないといけないかと魚釣りに勤しんでいた二人の前にヴィンデルらが乗った列車が到着する。犯人グル―プの身柄は確保され、奴隷として売られていく予定だ。
こうして、ドラゴン騒動は無事に解決し、被害がほとんどなかった温泉街に出戻り、しばらくの余暇を楽しむのであった。




