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第12話 温泉旅行

 夏休み。

 学生にとっては、久しぶりに実家に帰ることができる数少ない機会である。無論、山奥にこもり修行してもいいし、実家に帰らず学園でゆっくりと自分だけの時間を過ごす人間もいる。

 どうやって過ごすのかは各人に委ねられるこの期間、シャルロットとオリヴィアは汽車に乗って、マウアー家の領地中にあるバレール火山の麓へと向かっていた。


「えっ~と、スタンド……19」


「ふふ、残念。20よ」


「あ~、また負けました」


「これで5勝1敗。アンナのクッキー1つ貰うわね」


「つ、次こそは勝ちますよ。流れが来ている気がします」


 列車の中、二人はトランプでブラックジャックをしていた。賭けているのはお金でも命でもないアンナの手作りクッキーだ。見た目こそごく普通のバタークッキーだが、アンナの心がこもっている分店売りよりも美味しく感じられる。


(そろそろ負けあげても良い頃合いかしら)


 賭けごととは何も全勝する必要はない。

 前戦全勝のディーラーがいれば、そこに賭けようと思うギャンブラーはよほどの物好きでしかない。つまり、3~4回に1回程度はわざと負けることで、『次は勝てる』と思いこませた方が良いのだ。

 そういう意味では、勝負事に熱くなり、トランプをシャカシャカと切っているオリヴィアはギャンブルに向いていない。


「さあ、もう一度勝負です!スタンド」


「私はヒットするわ」


(ひいたカードは6。これで18……十分だと思うけど、いやな感じがするのよね)


「私もスタンド。18」


「私の勝ちです。21!クッキー2つ貰いますね」


(まあ、これでオリヴィアの運を使い果たせたと思えば、安い代償よ)


 今度は負けたシャルロットが美味しそうにクッキーを頬張るオリヴィアを見ながらカードをシャッフルするのであった。こうして、出発前に貰ったアンナのクッキーがなくなるころには、最寄り駅までもうすぐとなっていた。



 駅から降りてきたシャルロットたちがまず目にしたのは、温泉街特有の硫黄の匂いと湯気、そして、目の前にある大きな火山が観光客を歓迎していた。そして、駅から降りてくる大勢の中から2人の姿を見つけたヴィンデル卿が駅前の広場から駆け寄ってくる。


「あら? お付きの方が来ると思っただけど」


「はっはっはっ。招待した俺が来なくてどうする。それに警護の者がいなくとも、そこらのチンピラを返り討ちにできる実力があるのは知っているだろう。よし、俺が用意した宿まで道案内をしよう」


「はい、ヴィンデルさん、よろしくお願いします」


「おうよ。まあ、道案内といっても、メインストリートを抜けた先になのだが……まあ、色々と店を紹介しながら歩けば良い時間になるだろう」


 3人が大通りを歩いていくと、店の軒先で、タレや塩をつけて加熱した石で焼いている姿があった。芳しい匂いは長い列車の旅が終わったばかりの2人の鼻孔に直撃する。


「ここって炭や薪じゃなくて石焼きが多いのね」


「ああ。この近くでマグナ石が採れるからな。こいつは剣や鎧に組むことで火の属性を付与できるんだが、採取の際にどうしても標準よりも小さいクズ鉱石が生じる。だが、そういった鉱石も石焼き用の石に使えば、外はカリっと中はジューシーに焼くことができるんだ」


「それでは……おじさん、すみません。溶岩牛のカルビの串焼きください。塩で」


「あいよ。おじょうちゃんは可愛いから、1つ余分に刺しておくよ」


「ありがとうございます。マグナ石の実力見せて貰いましょうか。ふーふー……はっつ。あつ」


 熱いと言いながらも、頑張ってもぐもぐと食べているオリヴィアを見ながら、自分も何か食べようかといくつかのメニュー表を見る。


「私は川魚の塩焼きでお願いするわ」


「あいよ、べっぴんさんにはこのちょっと大きいのをあげよう」


「あらどうも」


(確かに皮がパリッとしていて、脂が乗っている。私としてはもう少し塩は控えめな方が良いけど、コレはありね。お酒があったら不味かったわ)


 シャルロットは心の中で買わなくて良かったと思いながら、焼き魚をかじっていく。食べ終わった残骸をゴミ箱に捨てると、勝手に燃え尽きる。


「このゴミ箱はどうなっているんですか?」


「自動焼却型のごみ箱のことか。これはC級品のマグナ石を魔石として使用して、火の魔法を使っている。悪臭用に風の魔石も多少使っているが、全体の使用量としては微々たるものだな」


「いくらC級品でも魔石は魔石。ゴミ箱にまで使うのはもったいなくない?」


「と言っても、売り物にならないようなものを後生大事にするわけにはいかんからなぁ。売れないくらいなら赤字覚悟で売るものを作ったほうがマシってやつさ」


「そういう考え方もあるのね」


「そうだとも。と言っている間に宿に着いたぞ」


「すごいお屋敷です!」


 彼女たちの目の前にあるのは貴族の屋敷に見劣りしないほどの瓦屋根の大きな和風の旅館だった。二人は見慣れない着物の女性たちに歓迎されながら、自分たちの止まる部屋へと案内される。


「部屋の中は土足禁止みたいね」


「変わった床ですね。草で出来ていますよ」


「見た目ほど儲かってなくて貧乏なのかしら」


「それは違うぞ。ここはあちこちに温泉があるから多湿になりやすい環境なんだ。そこで、木から草を編んだ床にすると湿気を吸い取ってくれるから快適な空間になるというわけさ」


「環境による文化の違いってやつね」


「勉強になります」


「俺は隣の部屋で寝泊まりしているから、何かあったら遠慮なく来ると良い」


 そう言って、ヴィンデル卿は隣の部屋へと入っていく。

 二人は荷物を部屋に置いた後、窓から庭を眺める。貸し切りにでもなっているのか、他の客は見受けられず、松の木ときれいな鯉が泳いでいる池があるだけだ。


「落ち着いた雰囲気があって良いわね」


「はい。お姉さま、温泉行きましょう。温泉!」


「そうね、それが目的だもの」


 2人が脱衣所へと向かい、衣服を脱いでいく。服の上からしか見たことの無いシャルロットのナイスバディを見て、オリヴィアは「お~」と感嘆の声を上げる。そして、自分の年齢の割には幼く見える身体と見比べて「はぁ~」とため息をつく。


「私としては、私と違った可愛さもあると思うけど」


「そ、そうですか?」


「そうよ。私がオリヴィアのような服を着ても似合わないのと同じよ。人の好みがそれぞれだというように、人の身体の一部を見てキレイだの美しいだのと言うのはダメよ」


「そういうものですか?」


「ええ。だけど、自分の身体を磨こうと努力しないのは論外よ。最近、私もそうだけど貴女が食べすぎているのは知っているわよ」


「うっ……精進します」


「よろしい。説教じみたことはこれまでにして、ゆっくりと漬かりましょう」


 オリヴィアは「はい」と元気よく答えて、二人は誰も居ない風呂場へと足を踏み入れるのであった。

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[一言] お風呂で存分百合百合して欲しい( ˘ω˘ )b
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